18話 容赦はしません
「ふんふーん♪」
馬車の中。
ブリジット王女はごきげんな様子で鼻歌を歌っていた。
「楽しそうですね」
「まあねー。これから視察で向かう村は、ワインの名産地なんだ。ものすごく美味しいんだよ?」
「飲むのは構いませんが、ほどほどにしてくださいね?」
「私、お酒は強いよ? 一緒に飲んで試してみる?」
「まあ……機会があれば」
「それに、酔いつぶれてもアルム君がいるからね。私は安心して飲み干すことができる、っていうわけだよ」
その信頼は喜んでいいのか。
それとも、ブリジット王女が情けないと嘆くべきなのか。
彼女の専属としては、とても複雑な気持ちだ。
「山間部にある村なんですよね?」
「うん。標高が高いところにあるから、美味しいワインが作れるとか。詳しいことは知らないけどね」
「馬車で片道1週間……長旅になりますね」
「なにか起きるかもね」
「そういうことを言うのは止めてください」
「フラグになる?」
「わかっているのなら……」
その時、馬の悲鳴が聞こえてきた。
「えっと……ごめん」
とりあえず、ブリジット王女はてへへ、と苦笑するのだった。
――――――――――
馬車を降りると、武装した男達に囲まれていた。
盗賊か?
人数は……多いな。
ぱっと見ただけで三十人は超えている。
ただ、これで全部じゃないだろう。
狙撃を行う者がどこかに隠れているだろうし、いざという時の退路を確保する者なども隠れているはず。
それらを含めると、敵は全部で四十人前後というところか。
護衛の騎士達と並び、鋭く問いかける。
「何者だ?」
「さーて、何者だろうな? ま、俺達のことはどうでもいいんだよ」
「金目のものを置いていってもらおうか。あと、女をよこせ」
盗賊で確定だ。
ただ……おかしいな?
これだけの規模の盗賊団がいるなんていう話、聞いたことがない。
基本的に、盗賊に堕ちる者は生活苦の者がほとんどだ。
普通に仕事をするだけでは食べていけず、他者から金品を奪うようになる。
ただ、フラウハイム王国は安定している。
盗賊に堕ちるほど困窮している人がいるとは思えないのだけど……
「……まあいいか」
盗賊の背景は後で調べればいい。
今考えるべきことは、ブリジット王女の安全だ。
「忠告する」
「あん?」
「おとなしく投降すれば命の保証はする。しかし、抵抗するのなら保証はできない」
「「「ぎゃははははは!」」」
盗賊達はきょとんとして、次いで、爆笑した。
気持ちはわかる。
連中からして見れば、うさぎ狩りをしていたら、うさぎが「痛い目を見るぞ?」と言ってきたようなもの。
笑って当然だ。
ただ……
「ブリジット王女の専属である俺を侮るな」
「は?」
「き、消えた……!?」
彼らの返事はわかりきっていたので、再度の忠告は行わない。
奇襲を返事とさせてもらう。
連中の背後に回り込み、一人の盗賊の足を掴んだ。
そのままフルスイングして、他の連中に向けて投げつけてやる。
「「「ぎゃあああっ!?」」」
まとめて数人、地面に転がる。
「てめえっ、よくもやってくれたな!?」
「下手に出ればいい気になりやがって、ぶっ殺してやる!」
いつ下手に出た?
不思議に思いつつ、襲いかかる連中に向けて駆けていく。
逆に向かってくるとは思っていなかったらしく、盗賊達は、一瞬、次の行動に迷う。
それが大きな隙となる。
盗賊達の間を縫うように駆け抜けて……
同時に、一人ずつ、拳を三発ずつ叩き込んでいく。
連中の間を駆け抜けた後は、骨が折れて、苦痛にうめいて倒れる盗賊達の姿があった。
「アルム殿、我々も加勢します!」
「いえ、こちらは俺に任せてください。みなさんは護衛を!」
「はっ、了解いたしました!」
いくら盗賊を倒しても、ブリジット王女がやられたらアウトだ。
騎士達には護衛に専念してもらうことにした。
「矢だ、矢を撃て!」
後方から五人の盗賊が現れた。
やはり隠れていたか。
盗賊達は弓を持ち、矢を連射する。
矢が雨のように降ってくるのだけど……
「甘い」
「なぁっ!?」
自分に降り注ぐ矢の全てを掴んでみせた。
「ま、魔法だ! 魔法をぶつけてやれ!」
さらに増援が現れた。
もう隠れている気配はないから、これで打ち止めだろう。
「「「火よ、我が意に従いその力を示せ。ファイアクリエイト!」」」
今度は炎の雨が飛んできた。
さすがにこれは掴むことはできない。
なので……
「「「はぁあああっ!?!?!?」」」
蹴り返すことにした。
魔力を足に集中させることで可能となる。
蹴り返された炎弾が命中して、半数近くの盗賊が倒れた。
「て、てめえ……な、何者だ?」
「ただの執事だ」
「嘘つけぇっ!? そんな執事がいてたまるか!!!」
ここにいるのだから仕方ない。
「さて」
残りの盗賊達を睨みつける。
彼らは揃ってビクリと震えた。
「もう一度聞く。投降するつもりはあるか? 捕虜はもう十分だ。しないのなら……残りは殺す」
「な、なんだよ、この迫力は……ライオン、いや、それ以上なにか……死神みたいだ」
「執事っていうのは隠語で、本当は名のある冒険者じゃないのか? ほら、伝説のSランクの……」
「こんな化け物がいるなんて……くそ、なんて運が悪いんだ」
失礼なことを言う。
「だから、俺はただの執事だ。これくらい、普通だろう?」
「「「いやいやいや、ありえないから!!!」」」
全力で否定されてしまう。
なぜだ?
というか……
盗賊に情けをかける必要はないか。
「執事として、ゴミ掃除はきちんとしないとな」
「「「なんか、ものすごく物騒なことを言い出した!?」」」
「安心しろ。しっかりと丁寧に、綺麗にしてやるからな」
「「「待って待って待って!?」」」
「じゃあ、さっそく……」
「「「抵抗しません、投降します、服従します! すみませんでしたぁあああああっ!!! だからどうか、どうか命だけは!!!」」」
なぜか俺が悪者のような流れになってしまった。
解せぬ。
【作者からのお願い】
『面白い』『長く続いてほしい』と思っていただけたら、是非ブックマーク登録をお願いします。
また、↓に☆がありますのでこれをタップ、クリックしていただけると評価ポイントが入ります。
評価していただけることはモチベーションに繋がるので、応援していただけると嬉しいです。