特別話 コミカライズ宣伝回
「アルム君、大変だよ!」
いつものように俺の執務室で仕事に励んでいると、ブリジット王女が慌てた様子でやってきた。
珍しい。
感情豊かな人ではあるが、ここまでの焦りを見せることはない。
なにか大きな問題が……?
「どうしたんですか? もしかして、敵国や魔物などの襲撃が……? あるいは、予期せぬ災害ですか?」
「ううん……それよりも、もっと大変なことが起きたんだよ!」
「それよりも……?」
いったい、どれほどの問題が?
ごくりと息を飲む。
「実は……」
「実は……?」
しばらくの間。
たっぷり溜めて……
そして、ブリジット王女は満面の笑みで言う。
「私達の活躍が本になるんだよ!」
「……はい?」
いきなり、なにを言い出すのだろう?
ついつい間の抜けた声が出てしまう。
「それは……えっと、どういうことですか?」
「そのままの意味だよ。私達の活躍が収められた本……つまり、漫画が発売されることになったんだ」
「いつの間に、そのような企画が……」
「ふっふっふ。こっそりと水面下で進められていたんだ!」
なぜ、それを俺にまで隠すのですか?
……驚くと思ったからだろうなあ。
それ以外の理由はないのだろうなあ。
「あ、そうそう。この回は漫画の宣伝回で、メタ満載の話だから、そういうのが気になる、っていう人はスルーしてね?」
「その発言が、すでにメタですね……」
「私も、なにかできることはないかなー、って思っていたんだけど、なかなか難しいんだよね。漫画発売記念で絵を描いてみる、ってことも考えたんだけど」
「……ここの作者は絵は素人そのものなので、逆にマイナスの宣伝になってしまいそうですね」
「そう! だから、特別話を書いて応援&宣伝しようと思ったわけなんだ!」
「そういうの、アリなんですか? 削除されたりしません?」
「販売サイトのURLとかを本文に貼らなければ、大丈夫だったはず。あと、他作品でもこういう宣伝回はしているから、あまり細かくやらなければ大丈夫! たぶん」
「ちょっと不安になる発言ですね……」
とはいえ、俺達の活躍が本になるというのは、とても嬉しいことだ。
できる限りのことはしたい、というブリジット王女の気持ちはよくわかる。
「俺も興味がありますね。本屋に行ってみましょうか?」
「あ、それはダメかも」
「え?」
「電子書籍専門なんだ。だから、店頭に行っても並んでいないよ」
「そうだったんですか……」
「ただ、1話ごとに読める分冊版と、まとめられた1巻の両方が発売されるからね。好きな方を選んで読むことができるよ」
「それは助かりますね」
1話だけ試しに読んでみて、ということができるのはありがたいことだ。
まとめて1巻を買えるのも嬉しい。
電子書籍とはいえ、たくさん買うと、ごちゃごちゃになってくるからな。
「と、いうわけで……ぜひぜひ、私達の漫画をよろしくね♪ 『執事ですがなにか?』で検索すると、詳しい情報が出てくるよ」
「詳しい情報をここに載せないのは、削除を恐れてのことですね?」
「うっ……わ、私は、石橋を叩いて渡るタイプなんだよ」
ブリジット王女の強がりに苦笑してしまう。
「原作は、私達。そして、作画は『あまね周』先生! スーツをこよなく愛する、素敵な漫画家さんだよ♪」
「スーツというのも珍しいですね」
「アルム君がメイドフェチのように、スーツを好きな人もたくさんいるよ」
「いや、待ってください。さらりと事実を捻じ曲げないでください」
「え?」
「違ったっけ? みたいな本気の反応もやめてください!」
頭が痛い。
漫画化が嬉しいらしく、ブリジット王女はとてもはしゃいでいた。
「楽しみだねー、どんな内容になっているのかな?」
「それは……今までの俺達の活動内容をまとめたものになっているのでは?」
「それだけかな? もしかしたら、大胆なアレンジが加えられているかもよ?」
「どのような?」
「空の果てから迫る巨大隕石……タイムリミットは24時間。アルム君は国を救うため私を救うため、片道切符のミッションに挑む! ……みたいな?」
「いきなり世界観をぶち壊さないでください」
「てへ♪」
この王女、フリーダムすぎる。
「まあ、今のは冗談として……とても素敵な漫画になっているから、ぜひぜひ、手にとってみてね♪」
「コミカライズ『執事ですが、なにか?』をよろしくお願いします」
二人で、ぺこりと頭を下げた。
「ところで、値段はいくらなんですか?」
「一冊、金貨4500枚」
「たかっ!?」




