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175話 優しい包容

 魔物と化したリシテアの討伐は完了した。


 たくさんの負傷者が出たものの、幸い、死者はゼロだ。

 武具やアイテムも山程消費したものの、無事、任務を達成できたのだから、まあ、問題はないだろう。


 とはいえ、すぐに動ける状態ではない。

 また、自力の帰還もけっこう難しい。


 王国に救助部隊の派遣を要請。

 要請は受理されて、即座に部隊が派遣された。

 翌日には到着して、負傷者の本格的な治療を開始。

 動かせるようになったところで、救助部隊に連れられて王国に帰還……という流れだ。


 こうして、一連の事件に決着がついた。

 それだけではなくて、帝国の負の遺産を完全に断つことに成功した。


 過去に決着はついた。

 これで、未来に向けて本格的に歩いていくことができる。


 喜ばしいことだ。

 喜ばしいことのはずなのに……


「……」


 俺の心は曇ったまま。

 馬車に揺られつつ、窓の外をじっと眺めていた。




――――――――――




「……ふぅ」


 王国に帰還して。

 検査と治療を受けて。

 その後、報告をまとめて。


 戦いが終わったとしても、忙しさは変わらず、嵐のような時間が流れた。


 ようやく落ち着くことができたのは、3日後だ。

 自室に戻り、ベッドに寝る。


「……」


 ぼーっと天井を見上げるものの、不思議と眠気はやってこない。


 疲労が溜まっていて。

 指先を動かすのすら億劫なのに。


 それでも、なぜか眠ることができない。


 思えば、ここ数日、まともに寝ていない。

 ベッドに横になれば睡魔はやってくるのだけど……

 数時間おきに目を覚ましてしまう。


 それの繰り返し。

 ぐっすりと眠ることができないでいた。


「……アルムくん、まだ起きているかな?」

「ブリジット王女?」


 コンコンというノックと共に、ブリジット王女の綺麗な声が聞こえてきた。


 どうぞ、と促すと扉が開いて、ブリジット王女が部屋に入ってくる。


「あ、寝ているところだった? ごめんね」

「いえ。ただ横になっていただけなので……」


 ベッドから降りて、立ち上がろうと……


「あ、そのままでいいよ。私の方から行くからね」


 ブリジット王女に制止された。

 そんな彼女はベッドに座り、俺の隣に並ぶ。


「アルム君、今回はおつかれさま」

「いえ」

「さすがに疲れちゃった?」

「それは……はい、少し」

「……」


 なぜか、ブリジット王女が目を大きくして驚いた。


「……そっか、疲れちゃったんだ」

「すみません。弱音をこぼしてしまい……」

「ううん、いいよ。むしろ、私は嬉しいかな」

「嬉しい?」

「だって、アルム君がそうやって弱味を見せてくれたこと、初めてだもん。なんていうか、こう、頼りにされている気がして嬉しいよ」

「……そういえば」


 執事とは、主の手となり足となる存在だ。

 万能であり、どのような時も迷いなく動けるようでなければならなくて。


 故に、執事として、主の前で情けないところは見せられない。

 そんなところ見せてしまえば、主の疑念を買ってしまう。

 逆に不安を与えてしまうかもしれない。


 それでは本末転倒だ。


「申しわけありません。このような情けないところを……」

「ううん、気にしていないよ。さっきも言ったけど、嬉しいくらいだから」

「……なぜ、嬉しいと?」

「アルム君は一人で抱え込んじゃうことが多いから。もっと頼ってほしいと思っているんだよ?」

「それは……申しわけありません」

「謝らなくていいよ。今から、ちゃんと頼ってもらうからね」

「え?」


 ふわりと、柔らかい感触が。

 これは……ブリジット王女?


 疲れていたこともあり、ブリジット王女に抱きしめられているのだとわかるまで、少し間があった。


「えっと……」

「そのままで」

「……はい」


 本来なら、このようなことは許されない。

 でも、どうしてか体が動くことはなくて……

 もう少しだけ、このままでいたいと思ってしまう。


「アルム君……リシテアのこと、後悔しているの?」

「……どうして、そう思われるのですか?」

「だって、辛そうにしているもん」

「そう、ですか……」


 無表情を貫いていたつもりだけど、ブリジット王女の目はごまかせないらしい。


 この人はとても聡明だ。

 そして、人の心の機微に敏感だ。


「……全部、割り切ったつもりでした。過去も捨てたつもりでした」


 自然と、そんな言葉がこぼれ落ちていた。

◆◇◆ お知らせ ◆◇◆

再び新連載です。

『氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について』


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こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

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