172話 VSリシテア・その4
「……あはっ、あははははは!」
リシテアの笑い声が響いた。
その足元に俺達が倒れている。
死者はいないものの、ほぼほぼ全員が重傷者だ。
まともに動ける者は……いない。
「勝った! あたしの勝ちよ! あはっ♪ やっぱり、正義は勝つのね!」
どの口が正義と言うか。
ツッコミを入れたいけど、無駄な体力は使いたくない。
俺は痛む全身を無視して立ち上がる。
ただ、足はふらついていて、再び倒れてしまいそう。
まともな戦闘は不可能で、歩くのがやっと、というような状態だ。
「ふふ。ぼろぼろね、アルム。それは、当然の報いよ」
「それは、俺の台詞なんだけどな」
帝国が崩壊して。
皇女の座を追われて。
こんな辺境に追放されて。
さらに魔物に堕ちて。
「今のリシテアは、全部、自業自得の結果だよ」
「あんたっていうヤツは……!!! どこまでも、あたしを苛つかせてくれるわねっ」
「だったら、どうする?」
「いたぶってあげる。泣いてごめんなさい、って言うまで……ね」
リシテアが飛び込んできた。
すでに俺に避ける力はない。
まともに一撃を受けて、吹き飛ぶ。
視界がぐるぐると上下左右に回転して……
木の幹に激突して止まった。
「かはっ」
「まだ起きているわよね? 勝手に寝ないでよ」
「ぐっ……!」
リシテアは俺を追いかけてきて、肩を踏みつけてきた。
ゾウでも乗っているかのような力が加えられていて、振り払うことはできそうにない。
……でも、それでいい。
「ぐっ……あぁ!?」
「ねえ、アルム。今、どんな気分? あたしに足蹴にされて、嬉しい? 嬉しいわよね? だって、あんたの初恋はあたしなんだから! だから、あたしに構ってもらえて嬉しいわよね!? あはっ、あははははは!」
「……そう、だな」
「うん?」
リシテアの言葉を素直に受け入れた。
「俺は……キミに恋をしていたよ」
「あら。やけに素直じゃない。命乞い?」
「いや……ただ、これが最後になるだろうから、伝えておきたくて」
「なによ」
「……あの時」
家族を失い、たった一人になった時。
リシテアが手を差し伸べてくれた。
それが打算であったとしても。
親に言われて、仕方なくだったとしても。
それでも、俺は、リシテアに確かに救われたんだ。
もしもあの時、誰にも助けてもらえず放置されていたら、死んでいただろう。
うまく生き延びられたとしても、心が壊れていただろう。
「ありがとう、リシテア。キミが手を差し伸べてくれたことは、この先、なにがあっても忘れないよ。そして、キミという幼馴染がいたことも……忘れないよ」
「アルム、あんた……」
リシテアが、ぽかんとした様子でこちらを見る。
その瞳に負の感情はない。
とても澄んだ色をしてて……
幼い頃、一緒に遊んだ彼女が戻ってきたかのようだった。
……でも。
終わりにしなければならない。
俺のためにも。
そして、彼女のためにも。
「……アースクリエイト、ウインドクリエイト」
「なっ!?」
土属性と風属性の魔法を同時に唱えた。
周囲の土が盛り上がり、俺とリシテアに絡みついてきた。
さらに烈風がまとわりついて、俺達を拘束する。
「な、なにを……!? くっ、動けない……!」
「油断したな。勝利を確信して、下手に近づいてくるからだ」
「アルム、あんたまだ……!?」
「今だ!」
俺の合図で、ヒカリが、セラフィーが、リセが。
そして、騎士達が立ち上がる。
皆、この時のために力を残していた。
俺が体を張り、リシテアの動きを止める時を狙っていた。
「な、なによ……まだ動けるヤツがいたとしても、アルムがいる以上、攻撃なんて……まさか!?」
「悪いけど、付き合ってもらうぞ」
「あっ、あああああぁ!?」
「やれぇっ!!!」
そして……
攻撃の雨が降り注いだ。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新連載です。
『堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く』
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