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170話 VSリシテア・その2

 ガッ!!!


 と、爆発するような勢いでリシテアが地面を蹴る。

 驚異的な加速。

 それなりの距離をとっていたはずなのに、一瞬で懐に潜り込まれてしまう。


「くっ!?」


 抉るような一撃を、身をひねり、なんとか回避。

 そのままカウンターに……いや、ダメだ!


 リシテアは、すでに第二撃を放つ体勢に移行していた。


 それを見極めた俺は、カウンターは諦めて、さらなる回避に専念する。


 強引に体を捻り、リシテアの攻撃を回避。

 そのまま後ろに退いて、


「「「ファイアクリエイト!!!」」」


 後方に控えていた騎士達が一斉に魔法を放つ。


 複数の火球が不規則な軌道を描きつつ、あらゆる角度からリシテアに迫る。


 避けることは不可能。

 防御も間に合わないはず。


 ゴォッ!!!


 火球が直撃した。

 炎が撒き散らされて、衝撃で周囲の木々が揺れる。


「続けて、第二射……撃てっ!」

「「「ファイアクリエイト!!!」」」


 事前の打ち合わせ通り、さらに魔法を連射した。


 複数の怨霊を取り込んだリシテアは、残党とはいえ、十人以上の帝国兵を一人で壊滅させるだけの力を持つ。

 油断は絶対にできない。

 やりすぎるくらいの戦術で望むのがベストだ。


「さらに、第三射を……」

「うるさいのよっ!」

「なっ……!?」


 爆炎を割り開いて、リシテアが突貫してきた。


 リシテアが腕を薙ぐ。

 たったそれだけで、彼女にまとわりついていた炎がかきけされてしまう。


 また、リシテアに大きなダメージは見てとれない。

 多少、肌は焦げているようだけど……それだけ。


 倒すつもりで攻撃をしたのに、足止めにしかなっていなかったみたいだ。

 いや。

 足止めもできていないか。


「くっ……!」


 リシテアの突撃を受け止めた。


 両手に大きな衝撃が走り、痺れてしまう。

 なんて力だ。

 まるで、巨人の突撃を受け止めたかのよう。


「アハハハハハッ、アルムぅ……あんたは、あたしがコロシテヤルわ!!!」

「リシテアっ!」


 リシテアは武器を持たない。

 しかし、己の体が武器なのだ。

 そう言うかのように、距離を詰めてきて、拳を乱打する。


 そこに技術はない。

 子供が暴れているかのように、でたらめに拳を振り回しているだけ。


 ただ……


「くそっ」


 とんでもない力が込められていた。

 たったの一撃で岩を砕く。


 それに、恐ろしく速い。

 視認するのがやっとで、少しでも気を抜けば見逃してしまいそうだ。


 それと……型にハマっていない戦い方のため、次の行動を読むことが難しい。


 通常、訓練された兵士はその国特有の技術を学んでいる。

 王国式格闘術とか。

 帝国式格闘術とか。

 それらの格闘の型には、ある程度の癖があり、また、一定の共通パターンがある。


 故に、対処も可能だ。

 知っていればなんとかなるというものではないが……

 ある程度、相手の動きを予想して戦うことができる。


 しかし、リシテアは違う。

 格闘術なんてまるで習ったことがなくて、魔物となった今でも、それは変わらない。

 でたらめに拳を振り回して、本能で戦うだけ。


 そのせいで先を読むことができない。

 格闘術の定石を外して、本来、絶対に攻撃しないであろうタイミングで攻撃をしてきたりする。


「なんて厄介な……!」

「アニキ!」

「うぁ!?」


 ヒカリが跳んできて、横からリシテアを蹴り飛ばした。


 その後ろにリセとセラフィーの姿が見える。

 よかった。

 大きな怪我は負っていないようだ。


「どいつもこいつも邪魔ばかりして……」


 リシテアはすぐに立ち上がり、


「ミナゴロシよっ!!!!!」


 殺意に吠えた。

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