17話 逆お世話
「アルム君、アルム君♪」
ブリジット王女の部屋を訪ねると、ものすごくいい笑顔で迎えられた。
逆に嫌な予感がする。
「こっちに来て?」
「……もしかして、また膝枕ですか?」
「違うよー。でも、なんでそんなに嫌そうなの? 膝枕、嫌だった?」
「嫌ではないですけど……」
「けど? なになに、聞きたいなー」
「……心地よすぎて、ダメ人間にされてしまいそうです」
「そっか、ふふ♪ いいよ、私がアルム君のこと、ダメ人間にしてあげる。だいじょーぶ。私、王女だから。アルム君のこと、一生養ってあげるよ♪」
「……お断りします」
「あ。今ちょっと迷った? 迷った? にひひ」
ノーコメントで。
「それで、ソファーに座ればいいんですね? って……なんですか、この包みは?」
ソファーの前に置かれているテーブルに、綺麗なリボンでラッピングされた包みがあった。
「さーて、なんでしょう?」
ブリジット王女は楽しそうにしつつ、俺の隣に座る。
包みを手に取り、じゃーんとラッピングを解いてみせた。
「クッキー?」
「ただのクッキーと侮ることなかれ。私の愛情がたっぷり入っているよ♪」
「え、ブリジット王女が焼いたんですか?」
「そそ。王女様手作りクッキーだよん」
ブリジット王女はクッキーを指先で摘み、こちらの口元に差し出してきた。
「はい、あーん♪」
「いえ、それは……」
「嫌?」
「というか、どうしてこんなことに?」
「今日はアルム君を労う日だからね。いつもの感謝を込めて、私がアルム君のお世話をするの」
「いや、そのようなことは別に……」
「するの」
「俺は執事なので、さすがにそれは……」
「するの」
「しかし……」
「す・る・の」
「……わかりました」
圧に負けた。
「じゃあ……あーん♪」
「……あむ」
ぱくりとクッキーを食べた。
「美味しい?」
「はい、とても」
お世辞抜きに美味しい。
しっかりと焼けていて、生地はサクサク。
チョコチップを練り込んでいるらしく、時折広がる甘味とほのかな苦味が面白い。
甘すぎないところもポイントだ。
しつこくないのて食べやすい。
それと、チョコチップが甘さを補ってくれているので、物足りなさを感じることもない。
「これ、ブリジット王女が作ったんですよね?」
「うん、そだねー」
「すごいですね。店が開けるんじゃないですか?」
「もう、褒めすぎたよー。まあ、それほどでもあるけどね!」
優しくて料理もできる。
将来は、きっといい……って、ブリジット王女は王族だ。
そういう視点で物を語ることはできないか。
でも。
彼女と結婚する人は幸せなんだろうな、と思う。
「うん?」
ふと、ちくりと胸が痛む。
なんだろう?
「アルム君、どうかした?」
「いえ……なんでもありません」
気のせいだろう。
「そう? じゃあ、お世話第二弾といきますか!」
「まだあるんですか?」
「あるよー、まだまだあるよー。というわけで、今度はうつ伏せになって」
「こうですか?」
「はい、よろしい。じゃあ……マッサージ、開始だぁ!」
ブリジット王女は俺の背中に乗ると、ぐいぐいと背中を両手で押す。
正直、力は足りない。
ただ、しっかりと体重をかけていることで、いい感じにツボが刺激されていた。
「どう? 気持ちいい?」
「はい……けっこう」
「よかった。私で気持ちよくなってくれているんだね♪ いっぱい気持ちよくなってね」
言い方。
卑猥な妄想をした俺は死んだ方がいいかもしれない。
「これ、いつまで続くんですか?」
「んー……あと五項目くらい?」
「多いですね」
「いや?」
「どうせ断れないんですよね?」
「正解♪」
やれやれ、とため息をこぼしてしまう。
でも、本気でいやというわけじゃない。
不敬なのかもしれないが、この時間は心地よくて楽しくて……
「あ、アルム君笑っているね。楽しい?」
「……かもしれません」
ずっと続いてほしいと思うのだった。
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