167話 今度こそ終わらせるために
シロ王女が開発したものは、魔物の位置を探し出すという道具だ。
魔法でも似たようなことはできるが、シロ王女のすごいところは、探知範囲が桁違いなこと。
最大10キロメートルの範囲の魔物を探すことができる。
しかも、魔物の脅威度も判定可能。
魔力量に応じて、強さを自動的に分けて教えてくれるらしい。
俺の推測が正しいという前提の話になるが……
複数の怨霊を取り込んだリシテアは、Aランクに匹敵する力を手に入れているだろう。
そんな魔物、そうそう現れることはない。
探知に引っかかれば、それがリシテアの可能性が高い。
仮に外れたとしても、それはそれでいい。
Aランクの魔物なんて見逃せるわけがないから、その時は、予定を変更して討伐するだけだ。
さらに、パルフェ王女に、調教した魔物を貸してもらった。
リシテアの匂いを覚えてもらい、ある程度のところまで誘導してもらう。
その後、道具を使い探知。
リシテアの場所を突き止めて……討伐する。
そんな策が立案された。
そのまま採用。
被害が出てからでは遅いということで、準備は超特急。
決行は明日に。
参加者は、俺、リセ、ヒカリ、セラフィー。
それと、精鋭が揃う第一騎士団の者、全て。
これだけの戦力を用意すれば、討ち漏らすことはないだろう。
今度こそ逃がすことなく。
リシテアを討ち取ることができる。
それは望ましいことなのだけど……
「……はぁ」
決行前夜。
俺は、なかなか眠ることができず、中庭を散歩していた。
明日に備えて寝なければいけない。
でも、眠気はやってきてくれず、目は冴えたままだ。
「アルム君」
「……ブリジット王女……」
「眠れないの?」
「……はい。ブリジット王女は?」
「アルム君を見かけたから、ちょっと尾行してみようかなー、って」
「えっと……」
「ここ、笑うところだよ? 王女ジョーク」
「ものすごくわかりづらい上に」
笑うポイントもわかりません。
「明日のことを考えていたの?」
「……はい」
魔物と化したリシテアを討伐する。
それは絶対だ。
放置することはできず、被害が出る前に、徹底的な探索をして……討つ。
ただ、これは、わりと今更の話だろう。
魔物になっていようがいまいが、リシテアは罰を受けなければいけない。
それは極刑以外にありえない。
彼女の生はすでに終わっているようなもの。
それなのに……
「他に道はなかったのか、と……そう考えてしまうんです」
逃がすことなく、城で捕らえていたら。
その前に、リシテアの愚行を止めていたら。
そうすれば、せめて、リシテアの助命だけはできたかもしれない。
そんな『もしも』を考えてしまうのだ。
「情けないですね。覚悟を決めて、革命時は、この手で終わらせようとしたのに……その時も覚悟を忘れて、再び迷う。本当に情けない……」
「そんなことないよ」
ふわり、と。
優しく抱きしめられた。
「ブリジット王女……?」
「アルム君。それは、情けない、っていうことじゃないと思うな。アルム君は、優しいんだよ」
「そんなこと、俺は……」
「どんなに酷い人でも。どんなに酷いことをされても。それでも、幼馴染を心の底から見捨てることができない……それは、優しさだよ。そして私は、そんな優しいアルム君のことが好きだよ」
「……ありがとうございます」
ブリジット王女の言葉が胸に染みる。
少し。
ほんの少しだけど、泣いてしまいそうになった。
とはいえ、さすがにそこまで情けないところは見せられないので我慢したが。
「ブリジット王女には、何度も助けられていますね」
「え? そんなことないよ。私の方が、何度もアルム君に助けられているよ」
「そんなことはありません」
「ううん、そんなことはないよ」
「……」
「……」
「はは」
「ふふ」
互いに笑う。
こうして、強いところも弱いところも見せて。
そして、支えて支えられる。
従者としてはどうなのか、と思わないでもないが……
これはこれで、理想的な関係なのかもしれないな。
うん。
ブリジット王女とは、ずっと、こういう風に笑い合って……うん?
それは、なんだかとてもわがままというか、高望みをしているというか。
でも、不思議と温かい気持ちになるというか……なんだろう、これは?
「あ」
ふと、ブリジット王女が顔を赤くした。
抱きしめられているものだから至近距離で視線が合う。
「ごっ、ごごご、ごめんね!?」
ものすごい勢いでブリジット王女が離れた。
はて?
なにを謝罪しているのだろう?
「え、えっと……あの、その……」
「ブリジット王女?」
「わ、私……寝るね!? おやすみなさいーーーっ!!!」
ブリジット王女は脱兎のごとく逃げ出した。
一人、残された俺は首を傾げるしかなくて……
ただ、心はとても軽くなっていた。
「よし。明日はがんばろう……後悔のないように」
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新連載です。
『堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く』
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