166話 外法
『外法』と呼ばれている技術がある。
例えば、魔法の起動に生贄を必要としたり。
技術を確立させるために、人の悪意を集めたり。
そういった人の道を外れた技術、魔法のことを指す。
「自分も、全ての外法を知っているわけではありませんが……人間が魔物に堕ちる、という外法が存在することを知っています」
「そんなものが……」
「魔物を喰らう、魂を合一化する、悪魔と同じように契約を交わす……色々な方法があります。断言はできませんが……おそらく、リシテアもこのパターンかと」
「マジかー……」
「マジです」
ここ数日、俺は、独自に調査を進めていた。
帝国の残党兵の話を聞いて外法の可能性に思い至り、調査を進めて……
「ただ、まだ断定には至りません」
「アルム君でもわからないことがあるの!?」
「お兄ちゃんでもわからないことがあるの!?」
なぜ、そこで驚くのだろう?
「歴史上、外法に手を出した者は数えるほどしかおらず、情報が残っていないのです」
「そっか。さすがのアルム君も、参考にするものがなければ……」
「多くの情報を得ることはできません。とはいえ、まったくの無収穫というわけでもありませんが」
「「やっぱり知っているんだ!!」」
だから、なぜ驚くのだろう?
「これは推測なので、断定はできませんが……リシテアは、その身に多数の怨霊を宿したのではないかと」
「おんりょー?」
「死者の魂が世界に残り、恨みや憎しみなどから魔物と化した存在ですね。戦場では、わりとよく遭遇します」
「なんで、アルム君が戦場について詳しいのかな?」
「お姉様、いちいち疑問を持っていても仕方ないよ。お兄ちゃんだもん」
「そうだね、アルム君だからね」
その納得の仕方はいかがなものかと。
「戦場に湧いた怨霊は、基本、放置すれば人や動物を襲う有害な魔物となりますが……ただ、一部、例外があります。それは、他者に取り憑くこと」
「ひぇ」
「ひぇ?」
なぜかブリジット王女が青い顔をしていた。
シロ王女がため息をこぼす。
「お姉様、怖い話が苦手なの」
「ああ、なるほど。ですが、安心してください。怨霊は幽霊などではなくて、魔物の一種です。他者に取り憑き、その身を支配して、呪いのようなものを振りまきますが……」
「ぴえん……」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん。それ、追い打ちかけているから」
「む」
しまった。
そんなつもりはなかったのだけど、怖がらせてしまったみたいだ。
少し話を省くことにしよう。
「えっと……簡単にまとめると、あの村は戦争に巻き込まれていた。故に、怨霊がたくさん発生していたのではないかと」
「うー……怖い話やだ」
「お姉様、しっかり」
「うん、がんばるぅ……その怨霊が、リシテアに取り憑いた、っていうこと?」
「おそらくは」
生身の人が怨霊に取り憑かれる、なんていう事態は滅多に発生しない。
そんなことが多発したのなら、怨霊は特に危険な魔物として重視される。
しかし、現実はそうはならない。
基本的に、怨霊は大した力を持たない。
人も抵抗力を持つ。
取り憑かれる確率はかなり低い。
また、取り憑かれたとしても自我は残り、自力で追い出すことも可能だ。
故に、怨霊は低ランクの魔物と同等に見られているのだけど……
「それなら、どうしてリシテアは取り憑かれたの?」
シロ王女が小首を傾げた。
そこがポイントだ。
「たぶん……自ら受け入れたのではないかと」
リシテアの性格を考えると、なかなか現状を理解できず、また、受け入れることもできないだろうが……
それでも、もう終わりだということは悟ったはず。
そこまでのところに落ちたはず。
故に。
終わりたくなんてない。
人を捨ててでも生き延びてみせる。
そんな執念を宿して、生きるための力を手に入れるために、あえて怨霊を受け入れたのではないか?
「そんなことを……」
「推測ですが、ただ、間違ってはいないと思います」
「でもでも、お兄ちゃん。怨霊は大した力を持っていないんだよね? それなのに……」
「はい。普通に考えて、帝国の残党兵を全滅させることは不可能です。ただ……」
その推測が間違いであってほしいと思いつつ、続きを口にする。
「一体ではなくて、何体も受け入れたのではないかと」
「複数……? そんなことをして大丈夫なの?」
「大丈夫ではありませんが……」
それ以外に、リシテアが生き延びる道はなかったのだろう。
だから、受け入れた。
そんな推測を立てている。
「俺の推測が正しいという前提になりますが……今のリシテアは、複数の怨霊を受け入れた、脅威でしかありません。上位の魔物と同等の力を持つでしょう。討伐することはとても難しいでしょうが、しかし、放置すればどれだけの被害が出てしまうか。早急な討伐が必要でしょう」
「それは……うん、そうだね」
「ただ、今はどこにいるか不明。どのように捜索をすればいいか……」
「ふっふっふ」
ふと、シロ王女が不敵な笑みを見せた。
「こんなこともあろうかと、シロちゃん、とても素敵なものを開発しておきました!」
「そうなの?」
「……んー! 素敵! こういう台詞、一度言ってみたかったんだよね!!!」
「えっと……シロちゃん? 嬉しいのはわかる……いや、わからないけど、とにかく、方法があるのなら教えてくれないかな?」
「じゃじゃーん! シロちゃん特製、魔物探知機!」
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新連載です。
『堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く』
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