165話 絵本と侮ることなかれ
絵本の物語は、基本、作家が考えているものだ。
作家の中の想像力、妄想力を膨らませていく。
それを文字と絵にして、世界を作り上げていく。
ただ、全てを一から作り上げることは難しい。
ありとあらゆるアイディアというものは練りだされていて、完全なオリジナリティーというものは存在しない、と言われている時代だ。
作家は、尊敬する作家の影響を受けて、アイディアを借りて。
あるいは、実際の歴史を参考にする。
故に、事実を元にして作られている絵本もある。
子供向けにアレンジされているものの、その根底にあるものは、史実。
実際に起きたこと、なのだ。
「シロちゃんが持ってきたこの絵本も、そうして史実を参考にして作られたとしたら……」
「人を魔物に変えちゃう方法がある、っていうことだよね!」
「シロちゃん、ナイス!」
「むふー」
ドヤ顔を披露するシロ。
そんな妹の頭を撫でて、甘やかす姉。
仲の良い姉妹だった。
「この絵本に関する情報を徹底的に洗い出しましょう。そうすれば、必要な情報が出てくると思うわ。アルム君にお願いすれば、わりとすぐ……簡単、に……」
そこで言葉が止まる。
ついでに赤くなる。
「お姉様?」
「えっ? あ、ううん! なんでもないの、なんでも」
仕事を頼むということは、アルムと話さないといけない。
しかし、未だ、どんな顔をして向き合えばいいかわからない。
……なんて、乙女チックな理由で避けているわけにはいかない。
些細な問題なら構わないが、リシテアに関するものは違う。
リシテアが人ならざる存在に堕ちた。
放っておけば、王国なり同盟国なり、あるいは他の国に大きな被害が出るだろう。
その前に止めなければならない。
「シロちゃん、アルム君、どこにいるか知らない?」
「んー、シロは知らないよ。というか、お兄ちゃんはお姉様の専属なんだから、お姉様の方が詳しいはずじゃあ?」
「そ、そうなんだけどね……」
今は顔を合わせづらいから、騎士団の手伝いを頼んでいる、なんて情けない理由を話すことはできない。
「……よしっ」
ブリジットは気合を入れ直した。
色々と思うところはあるものの、仕事は仕事、プライベートはプライベートで切り分けないといけない。
今は仕事を優先するべきだ。
――――――――――
「失礼します」
ブリジット王女に呼ばれ、執務室へ赴いた。
「ごめんね、アルム君。すぐに呼び戻したりして」
「いえ、それは問題ありません。俺は、ブリジット王女の専属なので。なににおいても、あなたの命令が最優先となります」
「そ、そう……」
ブリジット王女が赤くなる。
風邪だろうか?
手で熱を測りたいところなのだけど……
以前、それをしたら、ものすごく距離をとられてしまった。
あれはショックだった。
……うん?
距離をとられたことがショック?
すぐに誤解は解けた。
それに、ブリジット王女はつまらないことで距離を取るような人じゃない。
その証拠に、後できちんと和解した。
そのことを理解しているはずなのに、どうして俺は……
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「あ、はい」
シロ王女も執務室にいた。
はい、と絵本を差し出される。
「これは?」
「ちょっと読んでみて? お兄ちゃんなら、一度読めば、シロ達がなにを言いたいか理解してくれると思うから」
「えっと……では、失礼して」
絵本を読む。
最初は気楽な気持ちで読んでいたのだけど、ほどなくして二人の言いたいことを理解して、眉を寄せた。
「これは……」
「この絵本について調べてほしいの」
「いえ……調べる必要はないかと」
「え?」
「絵本に描かれている内容については、心当たりがあります」
「……なんで?」
「以前、執事としての教育を受けている時、小耳に挟んだことがありまして」
「どんな教育を受けていたの!?」
「まあまあ、お姉様。お兄ちゃんがおかしいのは、今に始まったことじゃないよ」
「そうだけど、でも、やっぱり驚くじゃない?」
「シロは、もう慣れてきたなー」
俺は、ディスられているのだろうか……?
それとも、褒められているのだろうか?
なかなか判断に迷うところだ。
「じゃあ……アルム君。その絵本に描かれているようなことは、実際に起こりえることだと思う?」
「はい、可能性は十分にあります」
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新連載です。
『ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?』
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