163話 変わり果てて……
「あの化け物は……たぶん、皇女だ」
兵士は怯えた様子で語る。
隣のリセが驚いていたが、俺は、続きを促した。
「証拠なんてものはない。ただ……あの化け物は、皇女を捉えていた廃屋から現れた。人のような姿をしていて、でも、人じゃなくて……見張りをしていたヤツは、一瞬でバラバラにされたよ。近くにいた連中も同様だ」
その時のことを思い返しているらしく、兵士は自分を抱きしめるようにして震えていた。
「剣で切りかかっても、刃が通らない。矢を射っても、刺さらない。魔法をぶつけても、服すら燃やすことができない……なんなんだ? なんなんだよ、あの化け物は……」
「それは、間違いなくリシテア……皇女なのか?」
「あ、ああ……それは間違いない。めちゃくちゃな力を持っていたが、外見はそのままだったから……」
「……ふむ」
「俺は……運良く助かっただけだ。仲間達は……全滅だろう?」
「たぶんな」
「そっか……はっ、ははは。こんなことなら、さっさと降伏していればよかった……死刑になるとしても、俺は、あんな化け物に殺されるのだけは勘弁だぜ……」
――――――――――
本隊に合流。
本隊に廃村の調査。
及び死体の回収を命じた。
ヒカリには周辺の探索を。
ただ、決して無理はしないように。
もしもリシテアを見つけたとしても、絶対に手を出さないように。
その二つを念押しして、探索に出てもらう。
「……」
周辺の地図を確認する。
兵士の話を信じるのならば、リシテアは超常的な力を手に入れた。
しかし、その姿は人と変わらないという。
なら、隠れる場所はたくさんある。
虱潰しに探していくと、かなりの時間がかかるだろう。
「ただ……それでも、やらないといけないな」
心底怯えた兵士の様子を見る限り、嘘を吐いているようには思えない。
リシテアが化け物じみた力を得た。
それは、きっと本当のことなのだろう。
なればこそ、強く警戒しなければいけない。
思考と感情が変わっていないとしたら……
力を得たリシテアは、同盟国や王国に牙を剥く可能性が高い。
「焦りは禁物でありますよ」
「……リセさん……」
振り返るとリセの姿があった。
色々な指示を部下に出していたようだけど、それは終わったらしい。
「あの兵士の話が本当なら、一大事です。早急に動かないと、であります」
「ええ。ですから……」
「しかし、焦りは思考や視野を狭くしてしまうのであります」
「……」
ものすごく痛いところを突かれてしまい、ついつい言葉を失ってしまう。
「大変な状況だからこそ、なによりも落ち着いていかないと」
「それは……」
「及ばずながら自分がいます。同盟国の皆がいます。アルム殿の力になるため、どうか、焦らず」
「……ありがとうございます」
少し頭が冷えた。
いけないな。
リシテアのことになると、どうしても感情的になって、思考や心が乱されてしまう。
……それだけ、リシテアは色々な意味で大事だった、ということか。
すでに過去のこと。
でも、過去は消えない。
追いかけてくる。
いつか、振り切ることができるのだろうか?
それとも……
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新連載です。
『ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?』
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