161話 生き残り
「……うん?」
引き続き廃村の探索を続けていると、ふと、物音が聞こえてきた。
それは廃村の外。
部隊を展開させている方向とは正反対。
おおよそ、100メートルほど先だろうか?
ちょうど、探知魔法の範囲外だ。
「どうかいたしましたか?」
「あちらの方で物音が」
「ふむ? 獣でしょうか? あるいは……」
「生き残りかもしれませんね。調べてみましょう」
「了解であります」
廃村についての調査は、もう、俺達だけではどうしようもない。
あまりにも謎すぎる。
王都に戻り報告を上げて、後は専門家に任せるしかない。
そのために、今は、一つでも多くの情報を得る。
俺とリセは周囲を警戒しつつ、ゆっくりと音のした方へ向かう。
「これは……」
地面に血の跡。
それが廃村の外に続いていた。
引きずっているような感じで……
まだ乾いていない。
生き残りがいるかもしれない。
でも同時に、惨劇を引き起こした犯人もいるかもしれない。
「「……」」
俺達は無言でうなずき合い、さらに警戒を高くして先へ進む。
村の外は見晴らしのいい平原だ。
ところどころに木が並び、時折、獣がゆっくりと歩いている。
実力差を把握しているのか、こちらに襲いかかってくるようなことはない。
「……そこの茂みでありますね」
リセの視線の先に、小さな茂みがあった。
血の跡はそこに続いている。
リセは剣を抜いた。
俺は、いつでも動けるように、警戒心を一段階引き上げた。
「なにかあれば、援護をお願いします」
「いえ、ここは自分が……」
「執事として、女性にそのようなことをさせるわけにはいきません」
「え、えっと……は、はぃ……」
リセが赤くなる。
はて?
「いきます」
俺は慎重に距離を詰めていく。
ちらりと後ろを見る。
リセはいつでも攻撃できるように体勢を整えていた。
彼女になら背中を預けられる。
まだ出会って短いけれど、強く、そして誠実な騎士であると思っている。
「そこにいるのは誰ですか?」
茂みに向けて声をかける。
返事はない。
構わず、第二声を放つ。
「ごまかそうとしても無駄です。俺は、そこに隠れていることに確信を抱いています。このまま返事をしないというのなら、魔法で焼き払いますが?」
「ま、待ってくれ……!」
慌てた様子で一人の兵士が飛び出してきた。
その鎧は泥と血で汚れ、あちらこちらが傷ついている。
肩に帝国の紋章。
間違いない。
彼が帝国の残党兵だ。
リセもそれに気づいたらしく、剣を向ける。
「あなたが帝国の残党兵でありますね? おとなしくしてください。でなければ……」
「た、助けてくれっ!!!」
「は?」
兵士は悲鳴に近い声をあげつつ、こちらにすがりついてきた。
そのあまりに必死な様子に、ついつい反撃を忘れてしまう。
この兵士は本気で怯えている。
俺達を害する意図はない。
そう判断して、ひとまず話を聞くことにした。
「落ち着いて。助けてくれ、というのは、どういう意味ですか?」
「ば、化け物がいるんだ! とんでもない化け物が!! そいつに、仲間はあっという間にやられて……お、俺は、なんとかここまで逃げて……」
男は足に怪我をしているみたいだけど、他に深い傷はない。
だからこそ、ここまで逃げることができたのだろう。
男の言葉は真に迫っていて、俺達を騙そうという様子はない。
リセを見る。
小さく頷いた。
ポーションを一つ取り出して、兵士に渡す。
「ひとまずこれを」
「おぉ……ありがてぇ、ありがてぇ……」
男は涙しつつポーションを飲んだ。
……帝国兵は腐っていたところはあったものの、臆病者はいない。
上に立つベルンハルトが武力で他者を従わせるタイプなので、その部下である兵士達も、武勇で身を立てようとする者が多い。
その帝国兵が、ここまで怯えてしまうなんて……
いったい、なにが起きたんだ?
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新連載です。
『ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?』
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