160話 惨劇の跡
「アニキ! 大変っす!」
ヒカリが焦った様子で戻ってきた。
元暗殺者なので、滅多なことで動揺しないはずなのだけど……
今は平静からは程遠い姿を見せていた。
「どうしたんだ?」
「なんていうか、その、えっと……た、大変っす!」
「……具体的な説明を頼む」
「やばいっす!」
うん、わからない。
「落ち着け、ヒカリ」
ひとまず、ヒカリに水を差し出した。
「ほら。これでも飲んで」
「た、助かるっす……んくんくっ……ぷはー!」
この短時間でけっこうな運動をしたらしく、ヒカリは、一気に水筒の半分ほどを飲んでしまう。
ここまでヒカリが慌てているなんて……
いったい、なにが起きているんだ?
もしかして敵に悟られた?
「あっ、危険とか、そういう心配はいらないっす」
俺の表情を見て察したらしく、ヒカリがそう言う。
それは幸いなのだけど……
なら、なぜそんなに慌てている?
「その……」
ヒカリは、スーハースーハーと深呼吸を繰り返した。
そうして、どうにかして無理矢理心を落ち着けたところで、なにを見たか話してくれる。
「帝国の残党らしき者を見つけたっす。ただ……」
「ただ?」
「……全滅していたっす」
――――――――――
ヒカリの報告を信じていないわけではないが、誰にでもミスはある。
念のため、本隊を置いて、俺とリセで廃村に入ることにした。
ヒカリは偵察直後で疲れているため、休憩を兼ねて後方待機。
連れてきた部隊も、いつでも動かせるようにしている。
「これは……」
「なんて酷い……」
村に入った俺達は、思わず言葉を失ってしまう。
血。
血。
血。
あちらこちらが赤に濡れていた。
ある者は首が絶対に曲がらない角度に曲がり。
ある者は手足がちぎれ。
ある者は胴体が上下に分かれ。
直視しがたい死体が並んでいる。
この凄惨な光景は、いったい……?
「リセさん、大丈夫ですか?」
「な、なんとか……アルム殿はよく平気ですね」
「……正直、やせ我慢ですよ」
色々な経験をしてきた俺ではあるが……
さすがに、こんな地獄を再現したかのような光景は見たことがない。
気力で我慢しているものの、下手をしたら吐いてしまいそうだ。
「少し待ってください」
魔法を使い、周囲の生命反応を探る。
反応は……なし。
生き残りはいないようだ。
「これは……報告にあった、帝国の残党みたいです」
リセは顔を青くしつつも、死体を調べていた。
武装や鎧に刻まれた紋章を見て、残党であると断言する。
「間違いありませんか?」
「はい。ただ……」
リセは周囲を見て、困ったように言う。
「ここにある死体で全員なのか、それは……なんとも言えないのでありますが」
「それは……そうですね」
死体の中には、文字通りバラバラになっているものが多数あった。
それは、何人分の死体なのか?
きちんと検証しなければわからない。
「いったい、なにが起きたんだ……?」
仲間割れ、なんてことはない。
その程度のことで、ここまでの惨劇が起きるわけがない。
ならば……獣、あるいは魔物に襲われた?
しかし、相手は帝国の残党だ。
それなりの力を持っているはずだから、こうも簡単に全滅してしまうというのは考えにくい。
ただ……
最悪の仮定として、帝国の残党が簡単に全滅してしまうような、強力な力を持つ『なにか』が現れた、と考えることはできる。
その存在は……何者だ?
◆ お知らせ ◆
新連載です。
『ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?』
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