16話 帝国の災難
隣国のフラウハイム王国がスタンピードの危機に晒されているらしい。
そんな報告を受けたリシテアは……
「救援要請? そんなもの無視しなさい。なんで好き好んでスタンピードに巻き込まれないといけないのよ、アホらし」
救援要請を一蹴した。
武人、文官達もリシテアの考えに賛同した。
スタンピードなんて大したことはない。
数年前に帝国でスタンピードが発生したものの、ほとんど被害は出ていない。
フラウハイム王国は騒ぎすぎ。
所詮、軟弱者の弱小国。
……と、誰も彼もスタンピードを甘く見ていた。
どうせ今回も大したことはない。
巻き込まれたとしても、被害なんてゼロで終わる。
……しかし、それが間違いであることをすぐに思い知らされる。
――――――――――
「なによ、これ……なによ、なによ、なによ、なんなのよこれはぁ!!!?」
部下からの報告を受けて、リシテアは激怒した。
フラウハイム王国で発生したスタンピードの余波を受けて、帝国内でも小規模のスタンピードが発生した。
スタンピードなんて大したことはない。
辺境貴族に任せておけばいい。
そんな決定を下したら……
辺境貴族はスタンピードを制圧できず、魔物の群れは皇都まで押し寄せた。
ならば、スタンピードなんて屈強な帝国軍本隊が蹴散らしてくれる!
……と意気込んで出陣した騎士達の大半が怪我を負い、返り討ちに遭うハメに。
帝国の叡智と呼ばれている賢者の力を借りることで、どうにかこうにか撃退することができたものの、甚大な被害が出てしまったのだ。
「ふ、ふざけているわ……たかがスタンピードごときで、なんでこんなに被害が出るわけ? あのグズで制圧できたんだから、大したことないはずなのに……!!!」
未だリシテアはアルム基準で物事を測っていた。
本人は自覚していないが、それはアルムに執着しているという証に他ならない。
「あ、あの……皇女様?」
報告を上げた部下は、リシテアの怒りを間近で見て震えていた。
最近の皇女の荒れ様はとても酷い。
24時間不機嫌で、その怒りを受けて、毎日のように誰かが解雇されている。
次は自分の番では?
そう考えて部下は震えていた。
「……クビよ」
「ひぃ!? や、やっぱり……」
「騎士団の幹部連中、全員クビよ」
「え?」
自分のことではない?
部下は安堵して……
しかし、すぐに、いやいやいやと焦る。
「騎士団の幹部を全員クビにするなんて……そ、そのようなことをしたら、帝国軍はめちゃくちゃになってしまいます!」
「スタンピードの一つや二つ、まともに対処できない無能なんていらないわ」
「そ、それは……」
確かに、今回のスタンピードは大きな被害が出た。
前回はあんなにもあっさりと制圧できたのに。
そう考えると、リシテアの言うことにも一理あるような気がしてきた。
……なんて考える部下も困った部下である。
「いえ、でもしかし、いきなりクビにしたら盗賊になり、帝国内が荒れる恐れが……」
「なら、追放すればいいじゃない。そうね……フラウハイム王国に押しつければいいのよ。そこで盗賊になったとしても帝国はまったく困らないわ」
外道の策である。
しかし、
「おおっ、それは素晴らしいアイディアですね! さすが皇女様」
リシテアの太鼓持ちに必死な部下は、うんうんと賛同してみせた。
……こうして、帝国から優秀な人材がどんどん流出していく。
リシテアの手で放逐されていく。
いくら強力な武器があっても、それを扱う兵士がいなければ意味がない。
たくさんの人材が流れたことで、帝国は内部からガタガタになっていく。
しかし、そのことに誰も気づかない。
リシテアも気づかない。
ずっと。
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