159話 志
「……アニキ、見えてきたっす!」
帝国兵の残党狩りのため、リセを含む混成軍が編成された。
俺とヒカリも配置されている。
セラフィーも一緒に行きたいとダダをこねたものの……
王国の防備もある。
また、彼女の場合、やりすぎてしまう可能性もある。
作戦がめちゃくちゃになってしまうかもしれない。
なので留守番だ。
ブリジット王女もついてきたいと言ったものの……
当然、却下。
戦場に王女を連れてくるわけにはいかない。
それにしても……
最近、ブリジット王女のわがままが増えてきたような気がするな?
主に、一緒にいたいとか、そんな感じの方向で。
どういうことなのだろう?
「アニキ……もうちょっと周囲を見た方がいいっすよ」
なんとなくヒカリに話してみると、呆れられてしまった。
なぜだ?
それはともかく……
残党が潜んでいるという廃村の近くにやってきた。
作戦を成功させるため、準備が整うまで、俺達の存在は決して悟られてはいけない。
必要以上に近づくことなく、むしろ距離を取り。
そして、物陰に潜み、様子をうかがう。
「……ここからではよくわかりませんね」
リセが困った様子で言う。
「ぱっと見だけど、村に人影はないですね」
「えっ、見えるのですか?」
「目はいいんです」
「し、しかし、軽く百メートル以上離れているのですが……」
「リセさん、アニキに常識を求めたらいけないっすよ」
「は、はぁ……」
妙なことを教えないでくれ。
まるで、俺に常識がないみたいじゃないか。
執事として、知識だけではなくて常識も礼儀も全て叩き込まれている。
そんな俺に常識がないわけがない。
「アニキって、執事であることに妙なプライドを持っているから、ちょっと面倒なことになっているっすよね」
納得いかない評価なのだけど……
とはいえ、常識について論じている場合じゃない。
やるべきことをやろう。
「ヒカリ、頼めるか?」
「はいっす!」
びしっと敬礼。
それからヒカリは、ふっと姿を消した。
リセが驚く。
「今のは……」
「ヒカリに偵察に行ってもらいました」
「私には、いきなり消えたように見えたのでありますが……」
「ヒカリは頼りになるので。しっかりと情報を持ち帰ってくれると思いますよ。俺達は、それをここで待っていましょう」
「了解であります」
そう言ったものの、ただ待つのは退屈だ。
これだけ離れているのだから、声を拾われる心配はしなくてもいい。
「ところで……リセさんは、どうして騎士に?」
「いきなりでありますね」
「すみません。ヒカリが戻ってくるまでの間、ちょっと話をしてみようかな、って思いまして」
付け足すのなら、少しでも親交を深めておきたい。
リセとは長い付き合いになる。
そんな予感がしたからだ。
「自分は……元々、帝国の兵士でした」
「そうなんですか?」
意外な話だ。
隊長と聞いているから、てっきり革命軍の一員だと思っていた。
「帝国のやり方にずっと疑問を抱いていました。ただ、悪を告発する勇気がありませんでした……情けない限りであります」
「そんなことは……」
「いえ、本当のことなので」
リセは悔しそうな顔をして……
それから、今度はまっすぐに前を見た。
「ただ、あの日……革命が起きた日、自分は目を覚ましたのであります。上から、革命軍を叩くように命令されました。そのために、広範囲に被害を及ぼす兵器を使うように……と。それでは民を巻き込んでしまうと反対しましたが、気にする必要はないと言われ……その時、自分は、本当に成すべきことを見つけたのであります」
「もしかして、そのまま革命軍に協力を?」
「はい。自分は、国を守るために戦っているのではありません。民を守るために戦っているのであります。そのことをようやく思い出したのです」
その後……
リセのおかげで兵器が使われることはなく、革命軍に大きな被害が出ることはなかった。
民も巻き込まれることはなかった。
そのことが高く評価されて、リセは、そのままスカウトされた。
そして、今の地位に収まったという。
「自分が持つ刃は、力なき人々のために……そのために今、ここに立っているのであります」
「とても立派な志ですね」
「えへへ、そう言ってもらえると嬉しいのであります。ありがとうございます」
「いえ。こちらこそ、貴重な話をありがとうございました」
自然と握手と笑顔を交わした。
うん。
リセとは仲良くなれるような気がする。
いい友達になれそうだ。
「アニキ!」
そんな時、焦りを含んだ声と共にヒカリが戻ってきた。
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新連載です。
『ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?』
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