153話 訓練……?
「ぎゃあっ!?」
「ひぃいいいいいーーー!!!」
「た、助けてくれぇ!!!?」
とある昼下がり。
城内の設備の点検を進めていると、なにやら悲鳴が聞こえてきた。
敵襲か?
いや。
しかし、そんな警報は発令されていない。
気になった俺は悲鳴が聞こえる方……騎士団の訓練場に向かう。
そこで見たものは……
「おらおらおらぁっ!」
「「「ぎゃあああああっ!?」」」
ドガァッ!!! という轟音と共に、複数の騎士達が悲鳴をあげて空を飛ぶ。
いや、吹き飛ばされていた。
その中心にいるのはセラフィーだ。
巨大な大剣を肩に担いで、退屈そうにあくびをこぼしている。
「おいおい、その程度かぁ? これじゃあ訓練にもならねえぞ」
「くっ……まだまだぁ!」
「ほらよ!」
「ぎゃあああああ!?」
また一人、騎士が空を舞う。
なんだ、この地獄絵図は……?
「セラフィー」
「お、アルムじゃねえか。よっす」
「いったい、なにをしているんだ?」
「訓練だよ。騎士団の連中に頼まれて稽古をつけてやってるのさ」
「稽古……だったのか?」
俺の目には、セラフィーが一方的に蹂躙しているようにしか見えないのだが。
「いやはや、恥ずかしいところを見られましたな」
「騎士団長」
苦笑しつつ姿を見せたのは、騎士団長だ。
彼は監督役らしく、俺の隣に立つ。
「セラフィーに稽古をつけてもらうように頼んだって、本当なんですか?」
「ええ、本当ですとも。彼女はとても強い。その強さに触れることで、皆、奮起してくれると思っていたのですが……」
「ぎゃあああああ!?」
不意をつこうとした騎士がカウンターを食らい、空を飛んだ。
「まさか、ここまで力の差があるとは」
「最強傭兵団の副団長ですからね。戦闘力に関して言えば、間違いなくトップクラスかと」
「だとしても、もう少し喰らいついていけるものと思っていたのですが……やれやれ。我が騎士団も、まだまだ鍛錬が足りていないようだ」
「セラフィーとの戦闘を基準に考えるのは、いささか酷ではないかと」
相手は伝説の魔物のような存在だ。
そんな相手を前にしたら、大抵の者は返り討ちに遭うしかない。
「失礼な質問をいいですか?」
「どうぞ」
「これ、稽古の意味はあるのですか?」
「……もちろん」
やや間があったのが気になる。
「例え敵わなかったとしても、強者に触れることで得られるものはありますよ。覚悟とか、自分に足りていないものとか。そういう良い刺激を受けてほしいのです」
「言いたいことはわかりますが……」
「「「ひぃいいいいい!?」」」
セラフィーが騎士達を追いかけ回して、騎士達は本気の悲鳴をあげて逃げている。
すでに稽古ではなくなっているような気がした。
あれ、心を折られないだろうか?
騎士として再起不能にならないだろうか?
「……まあ、なんとかなるでしょう」
考えるのを放棄したな?
やれやれとため息をこぼしつつ、セラフィーのところへ向かう。
「セラフィー、その辺にしておけ」
「ん? そんなこと言われてもな。ここで止めるってのは、なかなか中途半端で、フラストレーションすごいぞ?」
「俺が代わりに相手をするから」
「マジか!? へへっ、そういうことならいいぜ」
セラフィーは満面の笑みを浮かべた。
犬であったら、尻尾がぶんぶんと振られていただろう。
なんていうバトルマニア。
色々と厄介な人物ではあるが、今は一応、形式上は俺の部下という扱いなっているので、面倒を見るのも仕事のうちだろう。
それに、騎士にとってもいい刺激を与えるだろう。
他人の戦いを見て気づくことは以外と多い。
「じゃ、いくぜ」
「ああ、来い」
……こうして、突発的な模擬戦が始まるのだけど。
かなりのガチ戦闘に発展してしまい、1時間ほど戦い続けることになってしまうのだった。
――――――――――
「ふぅううううう……やったやった! うん。めっちゃ満足だ!」
「無茶苦茶だな」
あれだけ派手に戦っていたというのに、セラフィーはまるで疲れた様子がない。
良いダメージも入っていたはずなのに……こいつ、本当に人間か?
「そんなセラフィー殿と対等に……いえ、それ以上に戦うことができるアルム殿も、果たして人間なのでしょうか?」
騎士団長の呟きは聞こえなかったことにしておいた。
◆ お知らせ ◆
新連載です。
『ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?』
https://ncode.syosetu.com/n6423iq/
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。