151話 帝国のその後
「おっはよー、アルム君! 今日も一日、がんばっていこう!」
「は、はい……?」
朝。
ブリジット王女の執務室を訪ねると、やたらテンション高く迎えられた。
なんだろう?
「今日はやけにごきげんですね」
「えっ!? いや、あの。ごきげんというか、こうしていないと、どう接していいかわからないというか……」
「?」
「な、なんでもないよ!? さあ、お仕事がんばろー!」
よくわからないが、元気なのはいいことだ。
うん。
ブリジット王女は、やはり笑顔が似合う。
とても素敵で綺麗だ。
「へぁ?」
ブリジット王女が奇妙な声をこぼして、みるみるうちに赤くなる。
「い、今、綺麗って……」
「あ……すみません。声に出していたみたいですね」
「ひゃあ……」
「ですが、お世辞などではなくて、本心からの言葉です」
「ひゃあああああーーー!?」
なぜ悲鳴……?
「……まったくもう、アルム君ってば。こういうことをさらりと言ってくるから、とんでもないんだよね。私のことも考えてほしいよ」
「えっと……」
「ううん、なんでもないよ。今の私のことは忘れて?」
「しかし……」
「わ・す・れ・て」
「はい」
途方もないプレッシャーを感じて、俺は即座に頷いた。
ブリジット王女は普通。
おかしなところは見せていない。
よし。
「それじゃあ、今日もお仕事をがんばろー!」
「はい」
「……と、言いたいところだけど、その前に伝えておくね」
なんのことだろう?
「帝国のこと」
「……っ……」
今は王国を故郷と思っているのだけど……
それでも、帝国で生まれ、育ったことに変わりはない。
今、どうなっているのか?
正直に言うと、すごく気になる。
「革命は問題なく成功。帝国の残存勢力も順調に捕縛中。ほぼほぼ完了しているから、ここからひっくり返すことは不可能だね。やっぱりダメでした、なんていう展開にはならないと思うよ」
「そうですか……よかった」
思わずこぼれ出た言葉に、ブリジット王女がにっこりと笑う。
「なんだかんだ、アルム君の故郷だからね。やっぱり、気になるよね」
「もう一つの、です」
「うん、ありがとう。そう言ってもらえると、私も嬉しいよ」
続けて、帝国の現状について聞いた。
まずは、皇帝と皇妃、及び皇帝の血筋の者は全て捕らえた。
どこまで粛清が及ぶかわからないが……
最低でも、皇帝と皇妃は、近いうちに処刑されるとのこと。
それも仕方ない。
あの二人はリシテアを甘やかすだけではなくて、色々と好きにやりすぎた。
あまりにも恨みを買いすぎているため、今更、助命することはできないだろう。
「それと、ベルグラード帝国は解体。新しい国を作るみたい」
「帝国が……なくなるんですか?」
「うん。ベルグラード帝国、っていう名前そのものが、もう悪の代名詞みたいになっているからね。盗賊団の名前がついた国なんて嫌だよね? だから、一度まっさらにして、ゼロからやり直すみたい。ライラからの手紙に、そう書いてあったよ」
「……ライラからの手紙なら、援助の要請もあったのでは?」
「あはは、察しがいいね。その通り。まあ、これからは良き隣人としてうまくやっていきたいから、王国にできることがあればやっていきたいけど」
良いことだと思う。
国が変わったとしても、過去の因縁はなくならない。
帝国に受けた被害も消えることはない。
恨み、怒り……
それが障害となり、反対されるかもしれない。
それでも、ブリジット王女は『良き隣人』と言う。
その心があれば大丈夫だろう。
なにもかも、とまでは言わないけれど、ある程度はうまくいくはずだ。
そして、それをサポートするのが俺の役目。
うん。
がんばらないといけないな。
「それと……」
ブリジット王女が難しい顔になる。
なにか迷っている様子だけど、どうしたのだろう?
ややあって、決意した様子でブリジット王女は口を開く。
「リシテアについての報告も受け取っているよ」




