149話 健康診断
「……」
ベッドに仰向けに寝る俺。
そして、そんな俺をじーっと見つめるパルフェ王女。
時折、俺の腕や足を指先でトントンと軽く叩く。
つー、と撫でて。
くにくに、と摘んで。
ややくすぐったい。
「……うん、こんなものかな? もう起きていいよ」
「わかりました」
パルフェ王女の解剖実験……というわけではない。
一応、健康診断だ。
先の革命では相当な無茶をした。
その反動が遅れて来ているかもしれないため、パルフェ王女の健康診断を受けることになった。
……他に適任がいるのでは? と思ったが、こう見えても彼女は人体のエキスパート。
病や怪我に関しては本職よりも詳しいらしい。
「どうでしたか?」
「……」
「パルフェ王女?」
「うーん……んー、これはまた……やばいね」
なんか、嫌な独り言が聞こえてきた。
「あっ、ごめんごめん。聞いてなかった。なに?」
「えっと……結果はどうでしたか? なにか問題がありました……?」
「それは……」
「それは……?」
「特になんともないね」
コケそうになった。
なんでもないのなら、思わせぶりな言動を取らないでほしい。
「あはは、ごめんごめん。ドキッとさせちゃったかな?」
「少し」
「貴重なデータがとれたものだから、ついつい……ね」
ただの健康診断のはずなのに、ちゃっかりとデータを取られていた。
そのことを怒るべきか、それとも、解剖をしないでくれたことに感謝するべきか。
判断に迷う。
「貴重なデータというのは?」
「もちろん、アルムのデータさ。ようやくこの手で感じ取ることができたんだ……はぁ、幸せ」
おかしいな。
パルフェ王女も年頃の乙女のはずなのだけど……
普通、乙女は、他人の体を触りうっとりしないはずだが。
……今更か。
「ただ」
ふと、パルフェ王女が真面目な顔になる。
「問題はないけど、問題はある」
「どういう意味ですか?」
「怪我はない。病気もしていない。ただ、健康かと言われると首を傾げるね」
またとぼけたことを言ってくるかと思いきや、真面目な話みたいだ。
自然と気が引き締まる。
「アルムが使っているという、身体能力のリミッターを外す技。あれ、やめておいた方がいいよ」
「なぜですか? 体への負担があるというのなら、それは理解をして……」
「負担なんて生易しいものじゃないさ。あれは、体を壊す技だ」
「……」
きっぱりと言われてしまい、どう反応していいか迷う。
「人間の体にはリミッターがかけられている。それは、きちんと意味があるんだ。どのような者であれ、それ以上の力を出せば体を壊すことになる。そのためのリミッターなんだよ。それを強引に外したら、壊れる以外の答えはないよ」
「しかし、自分は問題ないのでは?」
「今はね。でも、今後も無事かどうか、それはわからないよ」
「……」
「アルムがやっているのは、目隠しをして谷の上にかけられた棒を渡るようなもの。驚異的な身体能力とバランス感覚でどうにかこうにかなっているけど、いつか落ちてしまう……必ず、ね」
――――――――――
パルフェ王女の部屋を後にして、一人、城の廊下を歩く。
あの技は二度と使わないように。
そう釘を刺されてしまったけれど……
「……ただ、必要があれば」
思い浮かべるのはブリジット王女のこと。
彼女のためにできることがあり。
やらなければいけないことがあるのなら、俺は、決して迷わないだろう。
――――――――――――
「……なんてことを考えているんだろうけど、やれやれ。アルムは、本当に困った人だ。でも、そこが魅力的なのかもね。ふふっ」