147話 心機一転……色々と
「よし」
王国に戻り、休暇を終えて……
今日も仕事が始まろうとしていた。
いつもの執事服に着替えて、姿見で問題がないかチェックした。
最近は色々とあったから、執事の仕事は久しぶりだ。
ミスすることがないように、しっかりと気を引き締めて、なおかつ、全力で仕事に励むとしよう。
――――――――――
「おはようございます、ブリジット王女」
「へぁ!?」
執務室を訪ねると、すでにブリジット王女がいたのだけど……
挨拶をしたら、なぜか、妙な声を出されてしまう。
驚かせてしまっただろうか?
でも、きちんとノックはしたのだけど……
「……」
ブリジット王女はなぜか顔を赤くして、ちらちらとこちらを見る。
たまに目が合うと、びくっと震えて、さっと視線を逸らされてしまう。
「ブリジット王女?」
「えと、えと……な、なにかな?」
「様子がおかしいように見えるのですが」
「ソ、ソンナコトナイヨー?」
ものすごく怪しい。
もしかして……
「失礼します」
「ひゃん!?」
彼女の額に手をやる。
ふむ。
少し熱いが、風邪を引いているわけではなさそうだ。
もしかしたら無理をしているのでは? と思ったけれど、違うらしい。
だとしたら、この妙な反応はいったい……?
「あ、アルム君!」
「はい」
「女性に気軽に触れたらダメなんだよ!」
「失礼いたしました。ただ、ブリジット王女が無理をしているのではないかと思い」
「……心配してくれたの?」
「はい」
「えへへ、アルム君が私のことを心配……にへへ」
壊れた……?
「はっ!?」
俺の視線に気がついたブリジット王女は、いつもの表情に戻る。
「こほん……それじゃあ、仕事をしようか。アルム君は、この書類のチェックと整理をお願い」
「わかりました」
よかった。
いつものブリジット王女に戻った。
俺は渡された書類に目を通して、一つのミスもないように隅までチェックする。
……うん、問題はないな。
様子がおかしいように見えたけど、でも、さすがブリジット王女。
まったく問題のないパーフェクトな仕事だ。
後は、さらに効率のいい方法を提案すればいい。
いくつかのパターンを考えて、メモ用紙に記入。
「ブリジット王女。この書類についてですが、こちらを見ていただけませんか? さらなる効率化を測るために、いくつかのパターンを考えたのですが……」
「あ、うん。見せてくれるかな? ……あっ」
メモを渡す際、ちょんと指先が触れ合う。
「っ!?」
ブリジット王女は、氷に触れたかのように慌てて手を引っ込めた。
またもや顔が赤い。
「ブリジット王女?」
「あ、いや、えっと……な、なんでもないよ? アハハー」
「はぁ」
「えっと、改良についてのプランだね? んー……これ、今すぐに答えを出さないとダメかな? できれば、この分野に詳しい人の意見を聞きたいんだけど」
「はい、問題ありません。まだ余裕はあるので、検討と分析を重ねた方がいいかと」
「了解。じゃあ、他のみんなに見てもらうように手配しておいて」
「かしこまりました」
再び、いつものブリジット王女に戻っていた。
……謎だ。
今日のブリジット王女は明らかにおかしいのだけど、しかし、その原因にまったく心当たりがない。
帝国の革命は成功した。
王国の被害はほぼほぼゼロ。
目下、最大の問題が解決して、気が緩んでいる……?
あるいは、俺が留守にしている間に、なにか問題が起きた……?
「……謎だ」
「ん? なにか言った、アルム君?」
「いえ、なんでもありません」
――――――――――
……そんな二人の様子を、扉の外からこっそりと見る影が一つ。
「むむむ……これは、シロちゃん、大ピンチかも」