145話 おかえりなさい
ブリジット王女が派遣した部隊と合流して。
荷物などを回収した後、帝国を後にして、王国への帰路を辿る。
帝国の革命に王国が関与していることは知られてはいけない。
どこからどう見ても内政干渉……いや、それ以上のことをしているからだ。
他国からすれば、それを脅威と捉えるかもしれない。
敵意、警戒心を持つ可能性は高い。
なので、帰り道も油断はできない。
街道を使わず、人のいない獣道を進み、慎重な行動が求められた。
帰りは行きよりも時間をかけて……
倍近い時間がかかったものの、なんとか王国に帰ることができた。
――――――――――
「はひぃ、やっとついたっす……」
「あー……さすがの私も疲れたわ」
「二人共、おつかれ」
「……アニキは顔色一つ変えていないのは、なんでなんすかね?」
「……魔物じゃねえのか?」
「執事なら、これくらいは当然だろう」
執事たるもの、いついかなる時も気を引き締めて、つまらない表情を見せることは許されないのだ。
「「執事、こわ」」
二人はよくわからない感想を口にしつつ、それぞれ自分の部屋に戻った。
たぶん、ぐっすりと寝て休むのだろう。
正直なところ、俺も疲労が溜まっていた。
部屋に戻り休みたいところなのだけど……
でも、気がつけば俺の足はブリジット王女の部屋に向かっていた。
「……」
扉の前に立つと、よくわからない緊張に襲われる。
なんだ?
なんで俺は緊張している?
帝国の体制を崩す、という任務を達成した。
こうして俺も無事に帰ることができた。
自分で言うのはなんだけど、完璧な仕事だと思う。
無事に帰ってくるように、というブリジット王女達のオーダーも叶えた。
それなのに、どうして……
「……ああ、そうか」
ふと、気づく。
これは緊張じゃない。
喜びだ。
無事に戻ってくることができたことを喜び、嬉しく思っているのだろう。
今まで、そんなことを感じたことはなかったから……
だから戸惑っていたのかもしれない。
「よし」
気持ちを切り替えて、扉をノックした。
「どうぞ」という声が聞こえてきたので、ドアノブを回す。
「失礼します」
「……」
中に入ると、ブリジット王女が温かい表情で迎えてくれた。
彼女の笑顔を見て、俺は、あぁ……と実感する。
俺の主は、ブリジット王女、ただ一人。
そして、彼女のところに帰るのが当たり前であり、安らぎなのだ。
強く、強く。
どうしようもないほど実感した。
「……ブリジット王女……」
「……アルム君……」
俺達は見つめ合う。
なんでもない時間がとても愛しく思える。
そして……
「おにーーーちゃーーーんっ!!!」
「ぐはっ!?」
どすん、と背中に衝撃。
シロ王女が飛び込むようにして抱きついてきたみたいだ。
しまった。
ブリジット王女に気をとられ、まったく気づいていなかった。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん! よかった、無事に戻ってきたんだね! 怪我はない!? 元気!? 病気とかしていない!?」
「えっと……はい、大丈夫ですよ」
「ふふ。シロちゃん、そんなに勢いよく抱きついたら、アルム君も痛いと思うよ?」
なんだかおかしくて。
ブリジット王女と二人、小さく笑う。
「おや? アルムじゃないか。無事でなにより」
パルフェ王女も姿を見せた。
俺の無事を喜んでくれているのは嬉しいのだけど……
左手に持つメスやドライバーはどういうことだろう?
「アルム君」
ブリジット王女が、一歩、前に出た。
そして、にっこりと笑う。
「おかえりなさい」