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140話 父

 ベルンハルトは大剣を構えて、まっすぐに俺を見る。


 ……まるで隙がない。

 それと、プレッシャーが半端ない。

 少しでも気を抜いたら飲み込まれてしまいそうだ。


「でも、あたしは……」

「行け、リシテア」

「だ、だけど……」

「行け!!!」

「っ……!?」


 リシテアはびくりと震えて……

 それから部屋を出ていった。


 逃がすわけにはいかない。

 追いかけたいのだけど……


 しかし、今、ベルンハルトに背中を見せるわけにはいかない。

 その瞬間、強烈な斬撃が飛んでくるだろう。


「貴様は……以前、リシテアに仕えていた執事か。主を裏切り、帝国に弓引くとは、なんという愚か者だ」

「今の帝国は仕えるに値しないので」

「吠えるな、小僧」

「……ただ、少しだけあなたを見直した」


 好き勝手して。

 民をないがしろにして。

 愚かな暴君ではあるけれど……しかし、一人の親でもあった。


「己を犠牲にして娘を逃がす……その確かな愛は、認めなければならない。あなたはろくでもない王だけど、父親としては立派だ」

「小僧に褒められても嬉しくないが……一応、名を聞いておこう」

「アルム・アステニア」

「ベルンハルド・リングベルド・ベルグラード」


 互いに名乗りをあげた。

 それは決闘の合図。

 生死を賭けた、命のやりとりの始まりだ。


「いざ……」

「参る」


 俺は、短剣を両手に。

 ベルンハルトは大剣を手に。


 同時に床を蹴り、真正面から激突した。


 ベルンハルトは天を突くかのように大剣を掲げ、一気に振り下ろしてきた。

 二本の短剣を交差するようにして受け止めた。


 ギィンッ!!!


「くっ……!」


 なんて重い一撃だ。

 きちんと力を逃すように受け止めたというのに、短剣の刃が少し欠けてしまった。

 それに手も痺れている。


 さすが、武力で帝国をまとめただけのことはある。

 頭はともかく、その腕は超一流だ。


 真正面からぶつかるわけにはいかないな。

 なら……!


「風よ、我が意に従いその力を示せ。ウインドクリエイト!」


 烈風を巻き起こして、ベルンハルトの視界を塞いだ。

 その間に、半円を描くようにしてヤツの背後へ。


 そのまま突撃するのではなくて、投げナイフを投擲。

 一回、ニ回、三回。

 時間差をつけて防御のタイミングをずらしてやる。


 これらの技術はヒカリから教わったものだ。

 最強の暗殺者の技術。

 これならベルンハルトのペースを乱すことが……


「ぬるいわっ!!!」

「なっ……!?」


 大剣を一閃。

 剣圧と、そこから生み出される衝撃で投げナイフを全て吹き飛ばしてしまう。


 反転。

 即座に駆けて、猛烈な勢いで突撃する。


 って……


「ぐっ……!?」


 早すぎる。

 決して油断したつもりはないのだけど、一瞬、ベルンハルトが消えたように見えた。

 俺の動体視力がヤツの動きに追いついていない。


「はぁあああああっ!!!」


 ベルンハルトは己の体の一部のように大剣を扱い、次々と剣撃を叩き込んできた。


 その切れ味は鋭く、刃に当たった花瓶が真っ二つに切れてしまう。

 普通なら衝撃で割れてしまうのだけど、力を一点に集中させて、極限まで高められた速度で斬ることで可能とする技だ。


 さらに、大理石でできている床を簡単に叩き割ってしまう。

 鋼鉄の調度品も叩き切る。

 もうめちゃくちゃだ。


 ベルンハルトは武力に優れているとは聞いていた。

 帝国にいた頃、彼が訓練をするところも見た。


 でもまさか、これほどの力を持っていたなんて……

 いくらなんでも想定外だ。

 別働隊が取り逃がしたのも納得だ。


 しかし、どうやってこれほどの力を……


「……いや。これは、俺のせいか」


 リシテアをギリギリのところまで追い詰めて、殺そうとして……

 故に、ベルンハルトは親として、子を守るために最大限の力を発揮した。

 子を守る親の力、というやつだ。


「その心は素晴らしく思うが……」


 改めて短剣を構えた。


「ここで、終わりにさせてもらう」

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― 新着の感想 ―
[一言] とーちゃん、その力をマトモな方向に使っていればねぇ。
[一言] クソ皇帝の死は近い。
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