138話 再会と、そして……
「……アルム?」
兵士を倒して部屋に入ると、リシテアを見つけることができた。
俺はリシテアを。
ライラ達は皇帝と皇妃。
そう決めて途中で分かれて行動することになったのだけど……
うん。
どうやらうまくいきそうだ。
「あんた、どうしてこんなところに……あっ!」
リシテアはなぜか笑みを浮かべた。
「あたしを助けに来てくれたのね!?」
「……はい?」
あまりに予想外の台詞を聞かされてしまい、ついついフリーズしてしまう。
その間に、リシテアは媚びるような笑みを浮かべつつ、話を続ける。
「ふふ。やっぱり、アルムはあたしのことが好きなのね? だから、こうして助けに来てくれた。なによ、やればできるじゃない。ちょっとは見直してあげる。さあ、今すぐにあたしを安全なところまで連れて行ってちょうだい」
いったい、リシテアはなにを言っているのだろうか?
どこをどう考えればそんな結論に至るのだろうか?
可能ならリシテアの頭の中を見てみたい。
「さあ、早く!」
「……はぁ」
「な、なによ? なんでため息なんて……」
「どうして、この状況で俺が味方だと思えるんだ? どうして、俺を敵と思わないんだ?」
「へ?」
「俺は……リシテア、キミの敵だよ」
「な、なにを……」
「キミを捕まえるために、帝国の現体制を崩すために、俺は今、ここにいる」
「……あんた」
ようやく俺が『敵』ということを理解したらしく、リシテアが険しい表情になる。
俺を睨みつけつつ、ゆっくりと後退する。
そんなリシテアの足元に向けて、とあるものを放つ。
「ひっ!?」
ガッ! という音と共に、床が削れた。
小さな鉄の球を指先で弾いたものだ。
威力は低く、射程は短いけれど、正確に狙いをつけることができる。
「それ以上、動くな」
「な、なによっ、アルムに命令されるいわれなんて……」
「次は直撃させる」
「ひっ……」
リシテアは腰を抜かしてしまったらしく、へなへなとその場に崩れ落ちた。
動くなと言ったけれど、さすがに今のはノーカウントにしておこう。
「な、なんで……」
「うん?」
「なんで、こんなことをするのよ……?」
「それは本気で言っているのか?」
「な、なによ……あたしがなにをしたっていうの? 悪いことなんてなにもしていないのに、あんた達、こんな、城を襲うとかふざけたことを……」
「……はぁあああ」
リシテアが本気で言っていることを把握して、俺は深いため息をついた。
あれだけのことをしておきながら、彼女には罪悪感が欠片もない。
自分が正しいことをしていると信じて疑っていない。
そんな彼女を見て、俺は、不意に理解した。
幼い頃、両親が死んだ時。
リシテアは俺に手を差し伸べてくれた。
たぶん、あの時は、本当に善意だったのだろう。
昔のリシテアは、確かに優しかったのだ。
でも……
皇帝と皇妃は愚か者だった。
歪んだ教育によって、リシテアも歪められてしまった。
同情すべきところはあるかもしれない。
ただ、もう手遅れだ。
リシテアはやりすぎた。
超えてはならないラインを超えた。
もう……昔に戻ることはできない。
「リシテア……キミはここで終わりだ。もう今までのように好き勝手できない。せめて、自分がしてきたことと真剣に向き合うことを希望する」
「な、なによ、それ……あたしは、なにも悪いことなんてしていない! あたしは悪くない、周りの無能が悪いのよ! アルム、あんただって……! あんたのせいで……!!!」
「……もう、キミは救えないな」
改心なんて期待していなかったけど……
でも、ここまで来て、まったく変わらないリシテアに落胆してしまう。
皇女なら皇女らしくあってほしい。
そのプライドを守り抜いてほしい。
「……」
考える。
リシテアは、まず間違いなく極刑となる。
現体制を崩すのだから、皇族は残しておくことはできない。
それを抜きにしてもリシテアはやりすぎた。
ありとあらゆるところで恨みを買っているため、幽閉されることになったとしても、誰かが手を出して殺すだろう。
捕らえた場合も、たぶん、拷問などをされるだろう。
独裁者の哀れな末路だ。
そんなことになるくらいなら、いっそのこと……
俺は小さな鉄の球をしまい、代わりに短剣を手にした。
鞘から抜いて、刃をリシテアに向ける。
「あ、アルム……?」
「今、ここでキミの命を断つ……それがせめてもの情けだ」