134話 壁となる覚悟と決意
帝国の腐敗の原因は、皇帝と皇妃。
そして、皇女であるリシテアにある。
ただ、腐っているのは彼女達だけではない。
上が腐れば、下も腐る。
リシテア達に取り入り、甘い汁を吸う者はたくさんいた。
そんな者に従う愚か者もたくさんいる。
「あなた達は何者ですか? この神聖な帝国を汚そうとするとは、万死に値しますね。この私、帝国の未来を照らす将軍である、神速のリットぐはぁ!?」
「ごちゃごちゃうるせえ!」
名乗りの途中で我慢できなくなったらしく、セラフィーが迎撃に出てきた敵のトップを殴り飛ばしていた。
いや、まあ。
決闘でもないのだから、わざわざ名乗りを待つ必要はないのだが……
それにしても、相手が哀れだ。
ゴミ置き場に頭から突っ込んで、ピクリとも動かない。
セラフィーの拳にやられたか、ゴミの臭いにやられたか。
潔癖そうな人物に見えたから後者のような気がした。
「姐さん、すごいっす!」
「はっはっは、だろう?」
ヒカリは、セラフィーのことを姐さんと呼ぶようになっていた。
調子に乗りそうだから、やめてほしいのだけど……
まあ、いいか。
それよりも、今は目的を優先しよう。
「ライラ、ここから先のプランは?」
剣で斬りかかってくる帝国兵をいなしつつ、問いかける。
ライラも帝国兵を吹き飛ばしつつ、答える。
「陽動で兵士はいないけれど、城の防備は固いわ。まともに突破しようと思ったら、数日はかかると思う」
「当然、策はあるんだよな?」
「もちろんよ。内通者を忍ばせているから、中から城に続く道を開けてくれるはず……ほら、開いた!」
とても頑丈そうな城門が、ゴゴゴという音を立てて開いていく。
同時に、跳ね橋も降りてきた。
「いくわよ!」
「っ!? 待ってくださいっす!」
ヒカリの焦りを含んだ声に、俺達は足を止めた。
「なんかやばいっす! 周りからたくさんの気配が……うぇっ、囲まれている!?」
「どういうこと? 陽動で帝都の防備は手薄になっているはずなのに……いえ、これは……まさか」
「どういうことだ?」
「……皇族直属の暗殺部隊」
聞いたことがある。
皇族に逆らう者を粛清、あるいは密かに消すために、殺しに特化した部隊が存在するらしい。
誰も見たことはない。
しかし、逆に言えば、その姿を見て生き延びた者はいないということだ。
暗殺部隊が存在して、帝都に残っているのならば納得。
防備が薄いことを悟り、皇帝か誰かが指示を出したのだろう。
どうする?
暗殺部隊の戦闘力は、おそらく、相当高い。
全員でかからなければ危ういだろう。
しかし、ここで時間をとられてしまうと作戦そのものが失敗してしまうかもしれない。
この場合は……
「暗殺部隊か。面白そうだな!」
「アニキ、ここは自分達に任せてくださいっす!」
道を塞ぐかのように、セラフィーとヒカリが立つ。
武器を構えて、闘気を迸らせる。
「それは、でも……」
「おいおい、私のことを信用してねえのか? 性格的なところはともかく、戦闘力なら信用できるだろ?」
「暗殺部隊は自分達が引き受けるっす。なので、アニキ達は……」
「……わかった」
二人の覚悟を無駄にしてはいけない。
と、いうよりも……
二人なら大丈夫だろう。
そう信じることにした。
「あなた達も彼女の援護を」
「「「はいっ!」」」
ライラも、複数の兵士を二人の援護に回した。
これで、城に突入するメンバーは、俺とライラ。
それと数人の兵士だけ。
当初のプランとだいぶ異なる展開になってしまったけれど、大丈夫。
城に入れば、敵の喉元に近づいたも同じ。
速攻で片をつければ問題ない。
「セラフィー、ヒカリ」
城に突入する前に、もう一度、二人を見た。
「今は、やりすぎてもいいからな」
「へへっ。なら、思う存分に楽しませてもらうぜ!」
「がんばるっす!」
互いの健闘を祈り、小さな笑顔を交わして……
そして、俺は二人に背を向けて、ライラ達と一緒に城へ突入した。