132話 王女の憂い
「……」
ブリジットは、私室から窓の外を見つめていた。
その視線は帝国方面に向けられている。
事前に聞いていた通りなら、そろそろ策が実行に移される時間だ。
ブリジットは帝国に赴くことはないものの、しかし、別にやることがある。
軍を動かして、国境付近でサンライズ王国と一緒に演習をするのだ。
そうすることで帝国に圧力をかけて、揺さぶる。
普段なら大した効果はないだろう。
むしろ、挑発行為以外の何者でもなくて、開戦のきっかけを与えてしまうかもしれない。
しかしライラの策が進めば、帝国は落ち着いていることはできない。
フラウハイムとサンライズも侵攻してくるのか? と慌てることだろう。
そして、その動揺は帝国で活動するアルム達の助けとなる。
「とはいえ」
ブリジットは、はあ、とため息をこぼす。
できることは、それだけなのだ。
間接的な援護。
それ以上のことはできない。
本当なら国を上げて動きたい。
いっそのこと、帝国に宣戦布告したい。
ただ、それはできない。
どうしてもダメだ。
依然、フラウハイム王国と帝国との間には大きな力の差がある。
まともにぶつかれば蹂躙されるのは王国の方。
絶対に勝てる、という状況でなければ戦うことはできない。
ただ……
絶対に勝てる状況になっても、ブリジットは戦うことに迷いを覚えてしまう。
戦争に勝利しても、被害は免れない。
多数の犠牲が出てしまう。
それはダメだ。
いくらなんでも許容できない。
向こうから攻め込んできたのならともかく……
こちらから攻撃を仕掛けることは、極力避けたい。
「とはいえ……そう考えていることが、ちょっと遅いというか呑気というか、危機感が足りていないのかな、私」
帝国は傾いて……
そして、暴走を続けている。
いずれ、痩せた己の体を補うために周辺国家に牙を剥くだろう。
その前に叩くのが必須と言える。
「でも……はぁあああ、ほんと、悩ましいよね」
とはいえ、悩んでいても仕方ない。
憂鬱になっても、できることなんてなにもない。
ならば、今できることを。
「アルム君のためになることを。最大限の援護を」
今回の策を頭の中に思い描いて。
やるべきことを確認して。
さらに、やれることを追加で足して。
さらに戦術を深く広く練り上げていく。
探せ。
勝利への道を。
掴め。
大事な人の安全を。
「……ふぅ」
思考の拡張が終わり、ブリジットは小さな吐息をこぼす。
と、その時。
「お姉様」
「姉さん」
シロとパルフェが姿を見せた。
二人は、共に不敵な笑みを浮かべている。
「シロ達にできることは……」
「なにかあるかな?」
頼もしい妹達だ。
ブリジットも笑みを浮かべつつ、口を開く。
「もちろん。忙しくなるから、たくさん手伝ってもらうよ」




