表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

126/327

126話 いってらっしゃい

 帝国へ出立する当日。

 朝早くなのに、ブリジット王女、シロ王女、パルフェ王女が見送りに来てくれた。


 ありがたい話だ。

 感動に震えてしまいそうになるが……

 それはまだ早い。

 きちんと仕事をこなして、無事に帰ってきてこそ、というもの。


「お兄ちゃん、絶対に無事に帰ってきてよ! 怪我とかしたら、シロ、許さないからね!」

「はい、必ず」

「うー……絶対だからね?」


 不安を隠しきれない様子で、シロ王女が抱きついてきた。


 恐れ多いのだけど、妹ができたような気分だ。

 そっと頭を撫でる。


「大丈夫です。これまで、シロ王女に嘘をついたことがありますか?」

「……ない」

「なら、自分のことを信じてください」

「うん……信じる」


 ぎゅっと、シロ王女はもう一度抱きついて……

 それから、そっと離れた。


 ちょっと涙目になっていたけれど、でも、泣かない。

 俺に負担をかけたくない、という想いの現れなのだろう。

 やはり優しい子だ。


「激励は昨日、済ませたからね。特に、ボクからは言うことはないんだけど……まあ、がんばって」


 パルフェ王女は、実にあっさりとしたものだ。

 いつも通り、ニヤニヤした笑みを浮かべている。


 こちらはこちらで、俺の成功を確信しているのだろう。 

 だから心配することはない。


 昨日は昨日。

 今日は今日。

 抱く感情は日毎に変わる、ということだろうか?


「うまくいったら、ご褒美をあげるからね」

「ご褒美ですか?」

「そそ。なにがいい? なんでも聞いてあげる」

「そう言われても……」

「えっちなことでもいいよ?」

「ごほっ」


 そういう冗談はやめてほしい。


「本気なんだけど……まあ、これ以上やると、姉さんに怒られそうだからやめておこうかな」


 なにか刺すような気配がすると思ったら、ブリジット王女か。

 パルフェ王女の話が聞こえたらしく、目が逆三角形になっている。


 怖いのでやめてください。


「アルム君」


 最後に、ブリジット王女がやってきた。

 俺の前に立ち、じっとこちらを見つめてくる。


「……」

「……」


 交わす言葉はない。

 でも、想いが伝わってくる。


 がんばってほしい。

 でも、無理はしないでほしい。

 無事に帰ってくることが一番。


 そんなブリジット王女の想いが伝わってきた。


「アルム君」

「はい」

「なにかしてほしいことはある?」

「そうですね……」


 少し考える。


「ないとは思いますが、ブリジット王女も気をつけていただければ」

「なにそれ。アルム君がしてほしいこと、だよ?」

「なかなか思い浮かばないので……」

「もう、仕方ないんだから」


 ブリジット王女は苦笑して……

 続けて、まっすぐにこちらを見る。


「アルム・アステニア」

「はい」

「フラウハイム王国、第一王女が命じます。立派に作戦を遂行して、そして、無事に帰ってくるように」

「オーダー、承りました」


 一礼する。

 それから顔を合わせて、


「いってらっしゃい」


 ブリジット王女の笑顔に見送られて、俺は国を出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://ncode.syosetu.com/n8290ko/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ