126話 いってらっしゃい
帝国へ出立する当日。
朝早くなのに、ブリジット王女、シロ王女、パルフェ王女が見送りに来てくれた。
ありがたい話だ。
感動に震えてしまいそうになるが……
それはまだ早い。
きちんと仕事をこなして、無事に帰ってきてこそ、というもの。
「お兄ちゃん、絶対に無事に帰ってきてよ! 怪我とかしたら、シロ、許さないからね!」
「はい、必ず」
「うー……絶対だからね?」
不安を隠しきれない様子で、シロ王女が抱きついてきた。
恐れ多いのだけど、妹ができたような気分だ。
そっと頭を撫でる。
「大丈夫です。これまで、シロ王女に嘘をついたことがありますか?」
「……ない」
「なら、自分のことを信じてください」
「うん……信じる」
ぎゅっと、シロ王女はもう一度抱きついて……
それから、そっと離れた。
ちょっと涙目になっていたけれど、でも、泣かない。
俺に負担をかけたくない、という想いの現れなのだろう。
やはり優しい子だ。
「激励は昨日、済ませたからね。特に、ボクからは言うことはないんだけど……まあ、がんばって」
パルフェ王女は、実にあっさりとしたものだ。
いつも通り、ニヤニヤした笑みを浮かべている。
こちらはこちらで、俺の成功を確信しているのだろう。
だから心配することはない。
昨日は昨日。
今日は今日。
抱く感情は日毎に変わる、ということだろうか?
「うまくいったら、ご褒美をあげるからね」
「ご褒美ですか?」
「そそ。なにがいい? なんでも聞いてあげる」
「そう言われても……」
「えっちなことでもいいよ?」
「ごほっ」
そういう冗談はやめてほしい。
「本気なんだけど……まあ、これ以上やると、姉さんに怒られそうだからやめておこうかな」
なにか刺すような気配がすると思ったら、ブリジット王女か。
パルフェ王女の話が聞こえたらしく、目が逆三角形になっている。
怖いのでやめてください。
「アルム君」
最後に、ブリジット王女がやってきた。
俺の前に立ち、じっとこちらを見つめてくる。
「……」
「……」
交わす言葉はない。
でも、想いが伝わってくる。
がんばってほしい。
でも、無理はしないでほしい。
無事に帰ってくることが一番。
そんなブリジット王女の想いが伝わってきた。
「アルム君」
「はい」
「なにかしてほしいことはある?」
「そうですね……」
少し考える。
「ないとは思いますが、ブリジット王女も気をつけていただければ」
「なにそれ。アルム君がしてほしいこと、だよ?」
「なかなか思い浮かばないので……」
「もう、仕方ないんだから」
ブリジット王女は苦笑して……
続けて、まっすぐにこちらを見る。
「アルム・アステニア」
「はい」
「フラウハイム王国、第一王女が命じます。立派に作戦を遂行して、そして、無事に帰ってくるように」
「オーダー、承りました」
一礼する。
それから顔を合わせて、
「いってらっしゃい」
ブリジット王女の笑顔に見送られて、俺は国を出た。




