124話 本当のスタートを切るために
「……どうして、アルム君が帝国に?」
ブリジット王女は厳しい表情で、そして、とても静かな声で問いかけてきた。
これは……たぶん、怒っているな。
危ないことをしないでほしい、という感じ。
心配してくれるのはとても嬉しい。
でも、時に無茶をしなければいけない。
人生で、何度かは賭けに出る時が来ると思う。
俺にとって、それが今なのだ。
「私達は、ライラを……革命軍の援助をする。それは物資などの話で、直接、介入することはできないよ」
「はい、そうですね。もしも介入して、それが表沙汰になれば、即開戦となるでしょう」
「なら、どうして?」
「俺のことは、いざという時は切り捨ててください。そのような者は、フラウハイム王国にはいない、と」
「……」
ブリジット王女はぴくりと眉を動かすものの、大きな声を上げることはない。
「俺は、王国を故郷のように思っています。ここで過ごした時間は帝国に比べると短いですが、それでも、たくさんの人に優しくしていただいて、温かい思い出がたくさんできました。だからこそ……帝国のことも放置できません」
「それは、アルム君が帝国出身だから?」
「はい」
帝国は捨てたつもりだ。
俺の新しい故郷はフラウハイム王国だ。
でも、帝国で生まれ、育ったという過去が消えることは絶対にない。
そこから目を背けるのではなくて。
きちんと向き合い……
そして、今、俺にできることをしたい。
「都合のいい話ですが……帝国のことも、切り捨てられませんでした」
「うん、そっか」
わりと身勝手なことを言っているのだけど、でも、ブリジット王女は怒らない。
それどころか優しい笑みを浮かべている。
「わがままだよね」
「……すみません」
「でも……思えば、アルム君の本気のわがままって、これが初めてかもね」
「そう、でしょうか……?」
「そうだよ。いつも私のことを考えてくれて、みんなのことを見てくれて、自分の身を削って……とにかく、自分のことは二の次。そんなアルム君に何度も助けられていたけど、今度は、私がアルム君の力になる番かな」
と、いうことは……?
「いいよ、アルム君のしたいようにして」
「……ありがとうございます」
「ただ、きちんとバックアップはさせてもらうからね? それと……ヒカリちゃんとセラフィーを連れて行くこと」
「……セラフィーもですか?」
ヒカリはわかる。
それなりの時間を一緒に仕事して、時に共闘することもあり、頼もしい味方だ。
ただ、セラフィーは……
「暁が一緒なら、戦力としては申し分ないでしょ?」
「それはそうですが……」
その分、厄介事を招きそうな気がする。
セラフィーは、鎖を外れた猛犬みたいなヤツだからな……
しっかりと制御しておかないとまずいことになりそうだ。
とはいえ、ブリジット王女が言うように戦力としては文句ない。
帝国に向かうとなると、やはり、戦力は必要だから……
「……リスクよりは、リターンの方が多いですね」
「そういうこと♪」
「さすがの慧眼です」
「ふふんっ」
ここでどや顔をキメるのがブリジット王女らしい。
「ライラには、団長のカインと暁を貸すね」
「それは……いいの? というか、いつの間に暁を……」
「この前、ちょっと色々とあってね。今は、うちで雇っているの。で……暁なら貸し出しは問題ないよ。バレたとしても、ライラが雇っていた、って言えばいいことだし」
「そうね。暁の力を借りることができるのなら、すごく頼もしいわ」
「うん。色々と方針が決まってきたね」
ライラの話を聞いた時は、わりと最悪な事態を想像してた。
でも今は、うまくいく未来を想像することができる。
一人で抱え込んでも仕方ない。
こういう時、頼りになる味方がいるといないのとでは、ずいぶんと状況が変わるな。
そう考えると、俺もライラも幸せ者なのだろう。
「じゃあ……これからもよろしくね」
「うん。できれば、長い付き合いにあることを祈っているよ」
「ええ、お願い」
ブリジット王女とライラは握手をして、互いに笑みを浮かべるのだった。