123話 後戻りはできない
いつもの食堂にライラの姿があった。
ただ、表情はとても硬い。
笑顔というものを忘れてしまったかのようで、なんなら、ピリピリとした雰囲気すら放っていた。
「おまたせ」
ブリジット王女は怯むことなく、ライラの対面に座る。
笑顔で語りかけていた。
俺はその横に座る。
それぞれ注文をして、本題に入る。
「なにやら急用ってことだったけど、どうしたの?」
「……革命軍の一部が、リシテアによって潰されたわ」
「えっ」
なるほど。
だから、ライラは厳しい表情をしているわけか。
そして……
たぶん、ライラにこんな顔をさせている原因はリシテアなんだろうな。
「そんな……酷い」
革命軍が隠れ蓑にしていた劇場を焼き払われた。
革命軍の兵士だけではなくて、たまたま居合わせた一般人も虐殺された。
一部始終を聞いたブリジット王女は、強い怒りと悲しみを覚えているようで、複雑な表情で唇を噛む。
「相手もバカじゃない。私達の存在に気づいて、打撃を与えるために色々と調べていたんでしょうね。そして、劇場の存在を突き止められて、ターゲットになってしまった」
「……革命軍として、どれほどの被害が?」
「三割くらいのダメージね」
仲間のことを想っているらしく、ライラは強く拳を握っていた。
その気持ちはわかるつもりだ。
ヒカリや騎士団のみんなが同じ目に遭ったとしたら、俺は、冷静ではいられないだろう。
ライラは、一見すると冷静そうに見えるものの、内では激情を抱えているだろう。
こうして顔を合わせていると、それだけで彼女の怒りが伝わってくる。
「援助はいる?」
「いただけるとありがたいわ。でも、救援物資はいらないわ」
「え? でも……」
「近いうちに行動を起こすつもりよ」
「っ……!?」
ライラの発言に、ブリジット王女は顔をこわばらせた。
もしかしたら、俺も表情が変わっているかもしれない。
行動を起こす。
つまり、それは……
現体制を打ち崩すための戦いを仕掛けるということ。
「大丈夫なの……? 3割って、かなりの打撃を受けたばかりなのに……」
「だからこそ、よ。私達、革命軍に打撃を与えたことで、リシテアは油断しているわ。これで私達がおとなしくなる、他の連中も静かになる、ってね。でも、それは大きな間違いよ」
ライラは怒りと。
そして、確かな決意を瞳に宿いて言う。
「リシテアは、決して超えてはならない一線を超えてしまった。なら、思い知らせてやらないといけないわ。自分が今いるところは、絶対無敵の居城ではなくて、砂上の楼閣であることを」
「……ライラ……」
「私達、革命軍はまだいいわ。いつでも命を落とす覚悟はしている。でも、一般人はまったくの無関係よ。自国民なのに、リシテアは情けをかけることなく、迷いもせず、容赦なく手にかけた。絶対に許せないわ」
「……うん、そうだね。許せないね」
「だから、今、やるわ」
ライラが頷いて。
そして、ブリジット王女も頷いた。
二人の瞳に迷いはない。
あるのは決意のみ。
……強いな。
俺なら、ここまでの決断を即座に下すことはできない。
迷って、迷って……そのまま迷い続けていただろう。
でも、二人は違う。
やるべきことを見つけて、選択して、その道を進む。
その力がある。
なら、俺は俺にできることをするだけだ。
「ブリジット王女」
「うん?」
「一つ、提案が」
「どうしたの、アルム君?」
「自分を……帝国に行かせてください」