121話 スイーツ最高
仕事で街に出て、その帰り道。
見知った顔を見つけた。
「ほわぁ……」
私服姿のヒカリが、とある店の前でショーケースを覗き込んでいる。
瞳はキラキラで、そして笑顔。
べったりと張り付いている、とても興味津々。
いったい、なにを見ているのだろう?
カフェだ。
確か……そう、ブリジット王女に聞いたことがある。
スイーツが売りのカフェで、この前オープンしたばかりなのに、もう行列ができるほどの人気店なのだとか。
……ブリジット王女は、食に関する知識・情報はとんでもなく詳しいが、偏りがあるように思えるのは気のせいだろうか?
「ヒカリ」
「はっ!? アニキ!?」
このままさようなら、というのも味気ないので声をかけると、ビシッと敬礼をされてしまう。
「かしこまらなくていい。俺はともかく、ヒカリは、確か今日は休日だろう?」
「は、はいっす」
「なら、いいよ。もっと気楽にしてくれ」
「アニキは優しいっすね」
「そういうものじゃないと思うが……それよりも、この店に興味が?」
「え、えっと……えへへ」
恥ずかしそうにしつつも、笑顔で肯定された。
ヒカリって、元最強の暗殺者なのだけど……
わりと少女趣味なんだよな。
この可愛い服も、最初は恥ずかしがっていたものの、今ではものすごく気に入っている様子だ。
「食べないのか?」
「えっと、えっと……ものすごく興味はあるんですけど、一人で入るのはちょっと……」
妙なところで意気地がないな。
でも、それはそれでいい傾向に思えた。
ヒカリには、最強の暗殺者ではなくて、普通の女の子として成長してほしい。
「なら、俺が一緒に入ろうか?
「えっ、いいっすか!?」
「相手が俺で良ければ、という話になるが」
「もちろんっす! ありがとう、アニキ!」
笑顔のヒカリに手を引かれ、カフェに入る。
「いらっしゃいませー!」
店員の元気な声に迎えられて席についた。
店内はとても綺麗だ。
適度に花が飾られていて、ふわりと香るところも良い。
「おぉー……い、いっぱいあって、どれにしたらいいのか……」
ヒカリがメニューを見て、眉を八の字にしていた。
俺もメニューを取る。
「確かに、これは迷うな……」
ケーキの種類は五つほどで多くない。
ただ、どれも美味しそうで、なかなか一つに決めることができない。
「季節のフルーツケーキ……いや、それよりは苺と生クリームたっぷりのタルト……うぅ、ど、どっちにすれば……!?」
ヒカリは、二つまで絞り込んだみたいだけど、そこから先へ進めない様子だ。
「なら、二人で分けてみるか?」
「へ?」
「俺がフルーツケーキを、ヒカリがタルトを頼んで、半分ずつにすればいいだろう?」
「い、いいっすか!?」
「いいよ」
「あぁ……今ほど、アニキについてきて良かったと思うことはないっす」
わりと安上がりだな。
これくらいのことでいいなら、時間があれば、いつでも付き合うのに。
苦笑しつつ、注文を通した。
そして、待つこと少し……
「おまたせしましたー! 季節のフルーツケーキと、苺と生クリームたっぷりのタルトですね。それと、サービスドリンクになります。ご注文、以上ですか?」
「はい」
「では、ごゆっくりどうぞ」
フルーツケーキは、あふれんばかりにたくさんの種類のフルーツが乗せられていた。
タルトは、たっぷりの苺の上に、それを覆い尽くさんばかりの生クリームが乗せられている。
どちらもボリュームがあるだけではなくて、とても美味しそうだ。
「えっと、その……た、食べてもいいっすか?」
「俺の許可を取らなくてもいい」
「いただきます!」
ヒカリは笑顔でタルトにフォークを伸ばした。
大きな口を開けて、ぱくり。
ほどなくして、その瞳がキラキラと輝く。
「んんんぅ~~~♪」
「美味しいか? って……聞く必要はないか」
苦笑しつつ、俺もフルーツケーキを食べた。
うん、美味しい。
甘いものが好きというわけではないのだけど、これは、何度も食べたくなるような味だ。
今度、ブリジット王女を連れてきてもいいかもしれないな。
きっと喜んでもらえる。
「アニキ、アニキ!」
「うん?」
「美味しいっすね!」
「ああ、そうだな」
寄り道をすることになったけど……
ヒカリの笑顔を見ることができたから、よしとするか。
その後、ケーキを交換しつつ、のんびりとした時間を過ごすのだった。