118話 してほしいこと
懇親試合の後、再びジーク王子とネネカ王女との会談が開かれて……
その他、宰相なども出席して……
色々な話し合いが行われた。
もちろん、帝国にどう対応していくか? というものだ。
難しい議題で、時に、難題を押し付けられたこともあった。
しかし、ブリジット王女は、その全てを巧みに処理して、スムーズに会談を進めた。
さすが、の一言に尽きる。
おかげで、今度こそ話はまとまった。
帝国に対して、一致団結して行動を起こすことを決定。
共に歩む同盟国として、結束を深めることができた。
――――――――――
「アルム君、おつかれさま♪」
会談が終わり、客間へ移動して……
なぜか、ブリジット王女が俺に対して労いの言葉をかけた。
「えっと……俺は、なにもしていませんが」
むしろ、俺がお疲れ様でしたと口にしたい。
「あそこまできたら、会談はほぼほぼまとまったようなものだからね。私がしたことは、すでに台本が決まっている舞台に出演したようなもの。でも、アルム君は即興劇に出て、それを完璧に成し遂げた。だから、おつかれさま、なんだよ」
「よくわかりませんが……ブリジット王女の力になれたのなら、幸いです」
「ものすごくなれたよ。すっごく助かった! ふふっ」
懇親試合のことを思い返している様子で、ブリジット王女は俺の動きの真似をしていた。
「アルム君、当たり前だけど強かったね。絶対に勝つって思っていたけど、でもまさか、あんな風に勝っちゃうなんて。本当にすごいね」
「恐縮です」
「ふふっ。もしかして、照れている?」
「いえ、そのようなことは……」
「本当? 私の目をまっすぐ見て、照れていません、って言える?」
「……もちろん」
「あー、今の間は? すごーく怪しいね」
むう……
なぜか、ものすごくからかわれているような気がする。
うまく会談をまとめることができたから、テンションが高い。
その喜びの現れなのかもしれないな。
「ところで、アルム君」
「はい」
「なにかしてほしいことはない?」
「してほしいこと……ですか?」
突然、どうしたのだろう?
不思議に思うものの、ブリジット王女は真剣な表情だ。
「今回の会談、アルム君のおかげでまとまったようなものだから、そのお礼がしたくて」
「俺のおかげなんてことはありません。ブリジット王女の力ですよ」
「そんなことないよ。懇親試合では、アルム君にがんばってもらったし……それに、ジーク王子もネネカ王女も、前回、サンライズ王国に訪れた時のアルム君の活躍を覚えているんだよ。だからこそ、私のことも……フラウハイム王国のことを信頼してくれた。アルム君がいなかったら、たぶん、まとまっていないか……もっともっと時間がかかっていて、ゲームオーバーになっていたと思う」
そんなことはないと否定したいのだけど……
ブリジット王女は、俺のおかげと信じている。
意外と頑固な人だ。
こうと思い込んだ場合、それを撤回させることはなかなか難しい。
「その……とても光栄な話ですが、そうだとしても、俺は、執事としてブリジット王女に仕える者として当たり前のことをしたまでです。礼などいりません」
「それじゃあ私の気が収まらないよ」
「そう言われましても……」
「気軽に、なんでも言っていいよ。国をくれ、とか言われたら困っちゃうけど、もっと気楽に……肩が凝ったから揉んでほしい、とか。そんな感じで」
「えっと」
ここまで主に言わせておいて、なにも求めないというのは逆に失礼になるかもしれない。
せっかくだから甘えることにしよう。
「では、一つお願いしてもよろしいでしょうか?」
「うんうん、なに?」
「……今度、料理を作っていただけないでしょうか? なんでもいいので」
「料理?」
ブリジット王女は小首を傾げた。
「あ、やはり図々しいお願いだったでしょうか……」
「ううん、そんなことないよ。料理だね? 任せて。こう見えても得意……じゃないけど、料理長とかに教わりながら、がんばるから」
「ありがとうございます」
「でも、どうして料理なの? いや、ダメとか嫌っていうわけじゃないよ? ただ、なんでなのかなー? って不思議に思って」
「その……俺も不思議でして」
「え?」
「なんていうか、よくわからないのですが……ブリジット王女の作った料理が食べてみたいな、と思ったんです」
「……」
再び、ブリジット王女は驚いた。
ただ、その頬は少し赤い。
「ブリジット王女?」
「……はぇ?」
「どうかされました?」
「あ、いや、うん。えっと……うん、大丈夫!」
なにやら挙動不審だ。
でも、元気がないというわけではない。
なぜか焦っているみたいで……
それなら大丈夫か?
「そっか、そっか。アルム君は、私の手料理を食べたいんだ」
「はい、そうですね」
「そ、そういうことは、つまり……えっと……私が家で待つお、おく……」
「?」
「……と、とにかく、今度作ってあげるね!?」
「よ、よろしくおねがいします?」
なにやら、最後はやけっぱちのような気がしたが……
その機会を楽しみに、これからも励むことにしよう。