116話 懇親試合
「では、これより懇親試合を始めます」
どうしてこうなった。
サンライズ王国の訓練場に立つ俺は、頭を抱えてため息を何度もこぼしたい気分だった。
帝国の体勢を崩そうとする、反体制派に協力する。
サンライズ王国も協力の意思を示しているものの、完全な意思統一はできておらず、いくらか反対されているという。
その者達を納得させるために、絶対に成功させられる、という自信を持たせるために、俺の力を示すという。
いや、理由がわからない。
執事の力を示してどうするのだろう?
ブリジット王女を見てみると、
「ふふんっ」
ドヤ顔で、そして、ぐっ! という感じで応援をしてくれた。
いや。
応援してくれるのはありがたいが、その、考え方が色々と間違っていないだろうか?
うーん。
多少、戦闘に自信はあるものの、俺は、所詮、執事なのだけどな。
門外漢のことをやり、力を示せと言われても戸惑いしかない。
まあ、やれと言われたらやる。
それが執事でもあるので、ここに立つ以上、全力を尽くすまでではあるが。
「やあ、久しぶりだね。俺のことを覚えているだろうか?」
対戦相手としてリングに上がってきたのは、一人の騎士だ。
飾りの施された鎧を身に着けている。
その顔には見覚えがあった。
「確か……山狩りをした時に、一緒に作戦に参加した」
「ああ、そうだ。よかった、覚えていてくれたのだな。光栄だ」
「あの時は助かりました。改めて、ありがとうございます」
「なに。お礼を言うのは、私の方だ。キミのおかげで被害は最小限に食い止められた。いくらお礼を言っても足りない」
「恐縮です」
握手を交わす。
「一人の戦士として、キミとは一度、戦ってみたいとは思っていたよ。懇親試合とはいえ、それが叶うことを嬉しく思う」
「そう言っていただけるのは光栄ですが、俺は、ただの執事ですが……」
「ああ、そうだったな。表向きはそういうことになっているのか。で、本当のところは? 王女を守る親衛隊か? それとも、裏の騎士団のトップなのかな?」
なんだ、それは。
小説の読みすぎじゃないか?
そんなフィクサー的な存在なんて、滅多にいないだろう。
正真正銘、俺は、普通の執事だ。
「では、両者構え!」
審判の合図で、俺は拳を、騎士は剣を構えた。
剣は刃を落としているものの、鉄の棒と変わりないので、直撃したらタダでは済まない。
懇親試合という名目ではあるが、ほぼほぼ真剣勝負。
それだけの戦いを見せることで、周囲を納得させたい……ということか。
ちらりとサンライズ王国側の観覧席を見ると、ジーク王子とネネカ王女の他に、いくらかの高官らしき姿があった。
たぶん、宰相などだろう。
彼らが二人に異論を唱えている、ということか。
ただ、国のことを想い提言しているのならばいいのだけど……
そうでないとしたら、少し厄介なことになるな。
「はじめ!」
審判の合図と同時に、騎士が地面を蹴る。
速い。
重い鎧を着ているはずなのに、それを感じさせない軽やかな動きだ。
下からすくい上げるように剣を振る。
その軌跡は斜め。
横にも後ろにも避けにくい。
ならば受け止めるのみ。
「むっ」
俺の武器は短剣一本だ。
騎士ではないので、長剣や他の武器は扱いづらい。
かといって、ヒカリのような二刀流も厳しい。
なので、短剣一本がわりとしっくりくる。
片側は刃。
反対側はギザギザがついている。
ソードブレイカーと呼ばれているタイプの短剣で、攻防一体の武器だ。
反対側のギザギザで剣を受け止めて、絡め取り、破壊することができる。
故に、ソードブレイカー。
騎士の剣を反対側で受け止めて、その破壊を試みて……
しかし、その狙いは読まれてしまい、騎士は後ろに跳んで剣も引いてしまう。
「危ないな」
「残念です」
「こうも的確に攻撃を防いで、こちらの武器の破壊も狙ってくるとは……なるほど。王子や王女が言うことも納得だ。ただ……」
騎士は再び剣を構えた。
「まだ予測の範囲内だ。私の予測を超えるところを見せてほしい」
再び騎士が突撃を開始した。