115話 歓待と会談と
もしかして、道中、帝国が仕掛けてくるのでは?
そんなことを警戒していたけれど、杞憂だったらしく……
問題なくサンライズ王国に到着した。
ジーク王子とネネカ王女に迎えられて、そのまま歓待の席へ。
「ようこそ、ブリジット王女」
「我が国は、あなたを歓迎いたします」
「ありがとうございます」
三人の間で笑顔が交わされた。
それから食事をしつつ、まずは、他愛のない雑談をする。
俺はブリジット王女の後ろに控えて、いつ、なにが起きてもいいように警戒しつつ、適度に周囲を見る。
ジーク王子とネネカ王女の笑顔は本物に見えた。
この時期にブリジット王女が動くということは、色々な問題が孕んでいそうなのだけど……
それでも笑顔で迎え入れてくれている。
ブリジット王女が言っていたように、同盟の話はうまくいきそうだ。
サンライズ王国も動いてくれるのなら、これ以上ないほど、うまくライラを援護できるだろう。
「さて」
食事が終わったところで、ジーク王子の雰囲気が変わる。
気さくな友人から、一国を背負う王子のものに。
「そろそろ本題に入ろう……帝国について」
「……」
自然とブリジット王女の顔が引き締まる。
協力を得られるか?
それとも、得られないか?
それは、これからの話に全てかかっている。
……なんて。
俺としては、うまくいくかどうか、かなり緊張していたのだけど。
「ついさきほど、最新の情報を共有したところだ。帝国はかなり危ういところまで来て……そして、確かに、今がチャンスのように思える。僕達……というよりは、サンライズ王国はどのように動けばいいのかな?」
「それは、協力を得られる、と解釈しても?」
「もちろん。最初からそのつもりだよ」
ジーク王子が苦笑して、ネネカ王女がそれに続く。
「とても繊細な問題で、簡単に動くわけにはいきません。しかし、放置できる問題でもありません。このまま帝国を放置すれば、近い将来、必ず国の脅威になるでしょう」
「帝国に恭順を誓うのなら、あるいは別かもしれないけどね」
「とはいえ」と間を挟み、ジーク王子はさらに言葉を紡ぐ。
「現状の帝国を見る限り、それは、愚策の中の愚策だと思っているよ。とことん絞り尽くされて、やはり、国は崩壊するだろう」
「うん、そうだね。帝国は、相手を対等として見ることがない。下に見て、いかに自分達が利益を得るか? ということしか考えていない。そんな印象を受けているかな」
「なので、今更、僕達の間に交渉なんて不要なんだ」
「話がスムーズに進むことは嬉しいけど、状況が状況だから、喜んでいいのかちょっと微妙だね」
「確かに」
ブリジット王女とジーク王子が苦笑した。
その隣で、ネネカ王女も同じような表情を浮かべている。
これが平時なら、もっと話はこじれていただろう。
長い時間と交渉を重ねて、ようやく辿り着いていた道。
でも、今は帝国の脅威があるおかげで、かなりスムーズに話が進み、まとまっている。
皮肉な話だ。
平時ではないからこそ、人は手を取り合うことができる。
いつもこうならいいのに。
「それじゃあ、サンライズ王国も協力してくれる、っていうことでいいかな?」
「もちろん」
「はい」
ジーク王子とネネカ王女は同時に頷いた。
頼もしい限りだ。
「ただ、僕達はなにができるのかな、と迷うところはあるかな」
「それは?」
「物資などの援助は、もちろんするよ。ただ、それだけでいいのか、と迷う。絶対に失敗しないために、できる限りのことはやっておくべきだ」
「そのために、我が国から精鋭を派遣するべきと考えていますが……」
二人は暗い顔に。
さきほどから、表情や行動がぴったりだ。
双子だからなのだろうか?
「父上……王は賛成してくれているのだけど、その他、宰相などが反対をしていてね」
「下手に帝国を刺激するべきではありません……と」
「それは厄介だね……」
王族とて、絶対的な権力を持っているわけではない。
周囲に反対されたとしたら、なかなか自由に動くことができない。
その苦労はよくわかるよ、という感じで、ブリジット王女はうんうんと頷いていた。
「彼らを説得するための材料がほしいのです」
「と、いうと?」
「これだけの人材がいるのだから心配は考えられない、と思わせたいのです」
「なるほど。これだけの人材……ね」
ブリジット王女の視線がこちらに向いた。
ジーク王子とネネカ王女もこちらを見る。
嫌な予感がした。