113話 決戦に向けて
ある日、ライラからコンタクトが来た。
伝書鳩を使ったものだ。
ブリジット王女と話がしたい。
とても大事な話だ。
そのことを伝えると、ブリジット王女はすぐに予定を組み直して、ライラと会う段取りを決めた。
そして、当日。
以前と同じ場所に向かうと、すでにライラが席についていた。
「こんにちは、ひさしぶりね」
「うん、そうだね。ひさしぶり。元気に……していない?」
ライラはちょっとやつれた様子だ。
目の下に隈ができている。
こちらの視線に気づいて、彼女は苦笑した。
「色々と追い込まれていてね。恥ずかしい話だけど、化粧をする時間も惜しいの」
「それは……大丈夫なのか?」
ライラ本人のこと。
そして、革命のこと。
両方に対しての問いかけだ。
「問題ないわ。ないからこそ、こうしてここまで来ているのだから」
「……わかった」
ライラがそう言うのならば、そうなのだろう。
彼女はつまらない嘘は吐かない。
「それで、今日はどうしたのかな? 会食なら、私はいつでも歓迎だよ。あ、店員さん。ランチセットのCで」
「どうしても、直接、話をしたくて……あ、私はチキンサンドをお願いするわ」
二人共、ちゃっかりと注文していた。
まあ、食堂に来てなにも注文しない方が不自然か。
俺も肉定食を注文する。
ほどなくして料理が届いて、空腹を満たしていく。
それと同時に、秘密の会談が始まる。
「この前は、私がブリジットを見定めていたけれど……今回は逆になるわ」
「えっと……それは?」
「あなたが私を見定めて」
ライラは食事を続けて……
なんてことのない日常会話をするように、さらりと言う。
「近々、革命を起こそうと思うわ」
ブリジット王女の食事の手が止まる。
「帝国は、もう色々な意味で限界。これ以上先延ばしにしたら、保たないわ。だから、今しかない。他にチャンスはない。私は、そう判断したの」
「なるほど……ね」
「あなたは以前、同盟を持ちかけてきた。私は、それに応えた。ただ……今回は、私からお願いする番」
ライラ曰く……
革命の計画はなかなか思うようにいかず、まだ、準備は完全とはいえないらしい。
予定の60パーセントほどだとか。
それでも動くしかないほど、今の帝国は追い詰められていた
押し潰されそうになっていた。
だから、ライラは動く。
ただ、失敗したら破滅だ。
全てを失うだけではなくて、周囲を巻き込むだろう。
帝国と王国だけではなくて。
諸国を巻き込んだ大戦に発展する可能性がある。
「それでも……あなたは、なお、同盟を望んでくれる?」
「……」
さすがに即答はできない。
ブリジット王女の口が止まる。
「まあ、今の例は最悪のパターンね。普通に考えた場合、帝国と王国の戦争くらいで終わると思うわ」
「……それでも十分、大変なことだけどね」
「まあね。それだけのことを覚悟させてしまう……そうなると、気軽に力を貸して、なんて言えないわ。だから、考えてほしいの。これからのことを、未来のことを。その上で、後日、改めて返事を……」
「ううん、その必要はないよ」
ブリジット王女はにっこりと笑う。
そして、ライラに手を差し出した。
「私は、ライラと一緒に戦うよ」
「……本気?」
「もちろん」
「私の話は理解していると思うけれど……なぜ、その結論に至るのか。すぐに答えることができるのは、なぜなのか。そこは理解できないのだけど」
「答えは簡単。破滅なんて、とっくに覚悟していたよ」
気軽に。
しかし、真剣にブリジット王女は答えた。
「帝国の現体制を崩す……そんなことを実行しようとするんだから、色々と覚悟はしているよ。失敗したら破滅なんて当たり前のこと。その可能性を見過ごすわけがないかな」
「王女でありながら、国を巻き込むことを気にしていないのかしら?」
「逆だよ。王女だからこそ、国を守るために最善の行動を選んでいるつもり。今の帝国は、あまりにも暴挙がすぎるからね。そして、それは収まる気配はなくて、むしろ、加速しそう。そうなると、将来的に王国は戦火に包まれるかもしれない。というか、ほぼ確定で包まれる。それを避けるために、今、できることをしないといけないの。そのための覚悟ならとっくに決めているよ」
ブリジット王女は淀むことなく迷うことなく、そう答えた。
帝国の現体制を崩すと決めた。
これは、もう確定だ。
ならば、後はもう、やるべきことをやるだけだ。
タイミングを逃すことなく、最善を尽くすだけだ。
「破滅するかもしれない? そんなことを恐れていたら、なにもできないよ。それくらいのことをしようとしているんだから。だから……私は、前に突き進む。絶対に立ち止まらない。そして……」
「一言付け足すと」と口にして、さらに続ける。
「破滅するつもりなんて欠片もないよ。絶対に成功する」
「大した自信ね。その根拠は?」
ブリジット王女がこちらを見た。
「アルム君だよ」
「え?」
「アルム君がいれば、なんでもできるような気がするの。それだけの自信と勇気が湧いてくるの。だから、大丈夫」
「……」
ライラは、キョトンとして……
「ぷっ……あははは!」
爆笑した。
「まさか、そんな理由なんて……」
「ダメかな?」
「ううん、アリよ。妙な理屈をこねくりまわされたり、理想論を語られるより、数千倍マシね。合格……って、私が見定める側になっているじゃない」
ライラは苦笑して、食後のコーヒーを飲む。
「ふぅ……でも、安心したわ。これなら、本当にうまくいくかもしれない」
「しれない、じゃなくて、する。それくらいの気持ちでいこう」
「そうね」
二人は握手をして、笑顔を交わした。
改めて力を合わせることを約束して……
そして、今。
帝国の現体制を崩すための策が本格的に動き始めるのだった。




