112話 動乱の時は近い
「ふむ」
帝国領内にある、とある屋敷。
そして、とある部屋。
そこで執務机に向かうライラは、手元の書類を見て、小さく頷いた。
「どうにかこうにか、帝国の崩壊は免れそうね……」
皇族を見限り、革命を計画するライラではあるが、帝国そのものを憎んでいるわけではない。
故郷なのだ。
できることなら発展して、諸外国に誇れる国になってほしいと思っている。
そのために革命を計画した。
ただ……
現状、帝国の財政は火の車で、他にも、あちらこちらに大きな歪みを抱えていた。
この状態で革命が成功しても、国として存続することは難しいだろう。
多額の援助を受ければ、あるいは存続は可能かもしれないが……
当たり前のように横暴暴虐を尽くしてきた帝国を助けようとする国なんてないだろう。
故に、自分でなんとかする必要があった。
革命は一時停止。
まずはガタガタになった帝国の土台の緊急工事に入った。
おかげで、それなりに持ち直すことができた。
経済はほどほどに回復。
失業率なども減り、生産力も向上して、流通もスムーズに動くようになった。
「これだけで、10年近く働いたような気分だわ……」
ため息をこぼして、ライラは眉間の辺りに指をやる。
頭が痛い。
とにかく、やるべきことが多すぎて手が回らないのが現状だ。
ライラにできる範疇の仕事量を明らかに超えている。
本来ならば仕事を分散するべきなのだけど、今の帝国はまともな人材がいない。
リシテアの癇癪で追放が連続したせいだ。
それに革命を考えている以上、適当な人材を使うわけにはいかない。
信頼できる者だけを側に置かなければいけない。
が、それを見極めるのにも時間がかかり、結果、確保することはできず……
「負の連鎖ね。アルムが置かれていたのって、こんな状況だったのかしら?」
パワハラ皇女に使い潰されて、ブラック職場に押し潰されそうになっていた、かつての同僚を思い返した。
「彼にできたのなら私も……とか、無理無理。私は凡人で、彼は超人。真似できるわけがないし、真似をしようとしたら1日と保たないわ」
苦笑して、書類を机の上に戻した。
それから考える。
帝国の情勢は、ある程度、安定した。
しかし、それは応急処置でしかない。
帝国を内部から蝕む病魔を排除しなければ未来はない。
もちろん、その病魔というのは皇族のことだ。
皇帝と皇妃。
そして、皇女リシテア。
最低でも、この三人を断罪しなければいけない。
「動くとしたら……今かしら?」
準備は完璧とは言えない。
しかし、許容範囲内ではある。
時間をかければ、再び帝国は荒れてしまう。
そうなると動くことはできなくなる。
延期に延期を繰り返すことになるだろう。
そうなると民が苦しむ。
それだけではなくて、ついてきてくれている部下達の不満を押さえることができなくなるだろう。
「……」
ライラは真剣に考えた。
帝国の未来。
その一点に思考を絞り、最善の道を模索する。
ややあって、結論を出した。
「動きましょう」