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110話 特訓

「せいっ、はっ!」


 訓練場を覗いてみると、ヒカリの姿があった。

 主に徒手空拳で、木人を相手に色々な技を繰り出している。


「ヒカリ」

「あ、アニキ」


 声をかけるとヒカリは訓練を止めて、たたたとこちらに駆け寄ってきた。

 なんとなく、わんこを連想する。


「訓練をするなんて、怪我は大丈夫なのか?」

「はい、大丈夫っす! 自分、頑丈さだけが取り柄なので」


 ヒカリはにっこりと笑い、手足をぐいぐいっと動かして、元気ですよ、というアピールをしてみせた。


 特に無理をしている様子はない。

 本当に治っているのだろう。


 全治、半年と言われていたのだけど……

 こんな短期間で完治してしまうとは。

 さすが、最強の暗殺者と呼ばれていただけのことはある。


 そんなヒカリだけど、最近は、こうして笑顔が増えてきた。

 雰囲気もだいぶ柔らかくなってきたと思う。


 仕事のことはともかく……

 一人の女の子として、いつか、幸せを掴んでほしいと思う。

 そんな親のような心境になってしまう。


「そうだ! アニキ、今、ヒマっすか?」

「そうだな、多少の時間はある」


 今は昼食の休憩時間だ。

 昼を食べて、散歩をしているところ。


「なら、ちょっと訓練に付き合ってもらえないっすか? 一人でやっていると、どうにも感覚が掴みづらくて……アニキに付き合ってもらえると、嬉しいっす」

「わかった、問題ない」

「ありがとうっす!」


 先日の事件で、ヒカリはセラフィーに敗北した。


 相手は、最強の傭兵団の副団長。

 それに、ブリジット王女を守らなければいけないという、枷もあった。


 敗北しても、仕方ないのだけど……

 本人は納得がいっていないらしく、もっともっと強くなることを望んでいる様子だ。


「……わかった。あまり長くは付き合えないが、一緒に訓練をしよう」

「あざっす!」


 対戦用の訓練場に移動して、ヒカリと向き合う。


「最初に聞いておきたいんだが、ヒカリは、どこを伸ばしていきたいんだ?」

「ど、どこ……?」

「単純な戦闘技術なのか、それとも、諜報技術なのか。戦闘技術だとしたら、接近戦か遠距離戦か。武器を使う戦闘なのか、素手なのか。そういうところだ」

「えっと、えっと……むむむ?」


 そこまで深いところは考えていなかったらしく、ヒカリは考え込んでしまう。

 ややあって、ぷしゅー、と頭から煙が。


「む、難しいっす……」

「そこまで難しい話はしていないんだけどな」


 得手不得手の話だ。

 そして、それを一番把握しているのは、本人であるヒカリだ。


「えっと……自分は、もうセラフィーに負けたくないっす。そんな感じで訓練したいっす」

「なるほど。なら、今のスタイルの戦闘技術を伸ばしていく感じか」

「……あのー」

「うん?」

「なんか、アニキ、軍の教官みたいに慣れているっすけど、そういう経験があるっすか?」

「まさか。俺は、ただの執事だぞ?」

「絶対に、ただの、ではないっす……」


 なにやら、ヒカリがぶつぶつと呟いていた。


「帝国にいた頃は、軍絡みの雑用も毎日のようにこなしていたからな。だから、自然と教え方とかも身についたのかもしれない」

「相変わらず、なんでもやっているっすね」

「おかげで、今の自分がある。そこは感謝しないとな」

「いや、感謝するようなところじゃないっすよ? 普通は、恨むところっすよ?」


 ふむ?


「とりあえず、アニキの言う感じで、訓練をお願いできるっすか?」

「了解だ。俺が相手を務めるから、まずは、好きに打ち込んでこい」

「はいっす!」


 互いに構えて……

 ヒカリが床を蹴り、両手に持つ訓練用の短剣を振る。


 俺は、普通の木剣で攻撃を受け止めた。

 連続で攻撃が繰り出されるものの、それらを全て受け止めて、あるいは受け流す。


「うん、ここまで」

「ふぅっ、はぁっ、ひぃっ……! じ、自分、ここまで疲労困憊、なのにぃ……な、なんで、アニキは平然と、して、いられるっすか……?」

「体力には自信があるからな」


 執事として、主のオーダーを叶える。

 どのようなオーダーだとしても、問題なく遂行するため、体力は必須だ。

 リシテアのところにいた時は、気まぐれで、標高5000メートルを超える山を登らされたこともあるからな。


「つまり、体力は必須だ」

「アニキのその認識、いい加減、病気っすね……一度、診療を受けてみることをオススメするっす」


 なぜだ?


「まあ、それはいいとして……ヒカリは、攻撃のスピードは申し分ない。フェイントを織り交ぜて、隙を作ろうとする姿勢も悪くない。ただ、暗殺術に慣れすぎているな」

「慣れすぎている……?」

「こちらの被害は最小限に、相手の被害は最大限。一撃必殺、即離脱。そういうのが戦闘にも現れているから、踏み込んだ一撃がないんだよ」

「ふむふむ」

「攻撃は鋭いけれど、しかし、軽い。もっと奥まで突き進むようにして、重く深い攻撃を増やした方がいいな。今のままだと、簡単に見切られてしまう」

「なるほど……暗殺者時代の影響が」

「まあ、あくまでも、これは俺の意見だ。絶対的に正しいわけじゃない。後で、騎士団長などに話を通しておくから、そちらでも学んでくるといい」

「はいっす! 今日はありがとうございました!」


 ヒカリはにっこりと笑う。


 訓練につきあってもらい、嬉しそうにする。

 ちょっと複雑な気持ちだ。


 本当なら、ヒカリくらいの年頃の女の子は、他のことに夢中になる。

 友達と遊んだり、恋をしたり。

 でも、ヒカリは戦うことばかり。


 特殊な生い立ちなので、仕方ないのかもしれないが……


「色々と複雑だな……」

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