11話 王女様の労い
「…‥ふぁ」
仕事中。
一瞬ではあるが気を抜いてしまい、あくびがこぼれてしまう。
「アルム君、眠い?」
「申しわけありません……」
「ううん、責めているわけじゃないんだ。疲れているのなら休んでいいよ、って言いたくて」
「いえ。その気持ちは嬉しいのですが、働かせてください。きちんと仕事をしていないと、手が震えて落ち着かなくなってしまうので」
「なにそのワーカーホリック……?」
疲れは甘え。
病気は自己管理のなさ。
そう教わり、今まで仕事に励んできた。
「めっちゃブラックじゃん。それ、無茶苦茶な話なんだけど、気づいている?」
「これが労働の標準基準ですよね?」
「そんなブラック基準が当たり前だったら、倒れる人が続出しちゃうよ」
「ふむ?」
「そもそも、アルム君はちゃんと寝ている?」
「ええ、もちろん。昨日は3時間も寝ましたよ」
「……3時間……」
なぜかブリジット王女が絶句していた。
「それ、マジ? たったの3時間しか寝ていないの……?」
「3時間も、ですよ。普段は1時間ですからね」
「いっ……!?」
再びブリジット王女が絶句した。
なぜだ?
「執事は3時間の睡眠で十分。それ以上寝ることは恥と知れ、と教わりましたからね。昨日はギリギリまで寝てしまい、危うく恥をかいてしまうところでした」
「いやいやいや。3時間睡眠がありえないっていう常識を知らない方が恥だからね?」
「?」
「ものすごく不思議そうな顔をしないで!? 私がおかしいみたいじゃない!」
ブリジット王女はため息をひとつ。
それからソファーに移動して、ちょいちょいと手招きをする。
「アルム君、こっちに来て」
「はい」
「もっと近くに」
「はい」
「えい!」
ぐいっと引っ張られて……
そのまま、ブリジット王女に膝枕をしてもらう形になってしまう。
「えっ……!? いや、これは……」
「だーめ、じっとしてて」
「し、しかし……」
「王女命令だよ。アルム君は、このまま私に膝枕をされること♪」
「むぅ」
命令と言われたら逆らうことができない。
ブリジット王女の膝枕はとても柔らかい。
極上の枕に頭を乗せているみたいで、こうしているだけでとても気持ちいい。
それと、ふわりと香る甘い匂い。
ほのかな熱。
「……ぅ……」
「にひひ、眠くなってきた?」
「いえ、そのようなことは……」
「我慢しなくていいよ。寝ちゃえ♪」
「しかし……」
「……ごめんね」
そっと頭を撫でられた。
温かい手。
ブリジット王女の心の熱が伝わってくるかのようだ。
心地よくて、温かくて……
そして優しい。
「アルム君ってなんでもできて、しかも、どれもこれも予想以上というか規格外で……だから、ついつい甘えていたのかも」
「気にしないでください。頼りにされているとしたら、それは執事として誇らしいことですから」
「それでも、無理をさせたらいけないよ。無理をするのが当たり前になってもいけないよ。それをよしと思っているのなら、私がアルム君を変えてみせる」
「……ブリジット王女……」
「だから……ね」
ブリジット王女は、そっと顔を近づけてきた。
俺の耳元でとろけるような声で甘くささやく。
「寝ていいよ♪」
ブリジット王女の声はまるで魔法だ。
そうしなければ、と思ってしまう。
まぶたが自然と下がり……
「……すぅ……」
俺の意識はゆっくりと溶けていった。
――――――――――
「ふふ、可愛い寝顔」
小さな寝息を立て始めたアルムを見て、ブリジットは優しく微笑む。
アルムの頭をゆっくり撫でて優しく見守る姿は、母親のようでもあった。
「こうして見ると、アルム君って可愛いんだよね。んー、これが母性? でも……」
ブリジットはそっとアルムの頬に触れた。
「……不思議だね。こうしていると、すごくドキドキしちゃうよ」
アルムを労うはずなのに、ブリジットもまた癒やされていた。
彼の熱を感じて、ぽかぽかと心が温かくなる。
ずっとなんて贅沢は言わない。
少しでいいから。
だから……
「……今は、アルム君とこうして二人きりでいたいな……」
【作者からのお願い】
『面白い』『長く続いてほしい』と思っていただけたら、是非ブックマーク登録をお願いします。
また、↓に☆がありますのでこれをタップ、クリックしていただけると評価ポイントが入ります。
評価していただけることはモチベーションに繋がるので、応援していただけると嬉しいです。