107話 驚きです、驚きだよ
「あの暁と契約を結んでしまうとは……ブリジット王女の行動力には驚かされてばかりですね」
あれから数日。
ブリジット王女の働きによって、王国は正式に暁と契約を結ぶことになった。
そんな話を聞かされて、ありえない、と驚いた。
彼らは一流の傭兵だ。
一流だからこそ、プライドも高く、ただ金を積むだけでは動かない。
彼らに気に入られなければならない。
ブリジット王女は、その難問をクリアーしたようだ。
「驚きっていうと、私も驚きなんだけどね」
「なにがでしょう?」
「完治まで、まだ1週間かかるはずだったのに、なんで数日で完治しているのかな?」
「執事なので、いつまでも仕事を滞らせるわけにはいきません」
「うん、まったく答えになっていないね」
でも実際、ブリジット王女の執務は遅れが出ていた。
他の者が補佐をしていたらしいが、仕事に慣れておらず……
結果、遅れが出てしまう。
その遅れを取り返さないといけない。
俺は気合を入れて仕事に励む。
「うーん」
ある程度仕事を片付けたところで、机に向かうブリジット王女がペンを置いて、こちらを見た。
「どうかされましたか?」
「いやー……やっぱり、アルム君がいると、仕事がすごく捗るなあ、って。改めて感謝感謝」
「光栄です」
「もう私、アルム君なしじゃ生きていけない体になっちゃったよ」
「……その言い方はどうかと」
「えー、なにがダメなの? なんで? 細かく教えて♪」
「……」
俺をからかっているな?
こうして、たまにブリジット王女は子供っぽくなる。
そこが魅力ではあるのだけど、困ることは困る。
「その言い方だと、まるで誘われているように聞こえます」
「ふぇ」
あまり調子に乗られても困る。
なので、不敬ではあるものの、ちょっとからかってみることにした。
「ブリジット王女が自分を誘い、淫らなことを考えている……そのように受け取られるかもしれませんよ?」
「な、なななっ……!?」
「あくまでも一般的に、ですが」
「むー……」
ブリジット王女はこちらの思惑に気づいたのだろう。
拗ねた顔に。
「アルム君、可愛くない。もっと慌ててほしいのに」
「精神制御の訓練を受けているので」
「さらりととんでもない過去が……」
ブリジット王女はこちらを睨みつけてくる。
「私は、こう……あわわわ、っていうようなアルム君が見たいの。だから、慣れないって自覚はしているんだけど、色仕掛けをしてみたんだよ」
「自覚はされているんですね」
「でも、失敗。簡単に見抜かれちゃうし……うーん。私って、女としての魅力がないのかな?」
「いえ、そのようなことはないかと」
「え?」
ブリジット王女に女性としての魅力がない?
いったい、なにをおかしなことを言っているのだろう。
彼女に魅力がないとしたら、失礼だが、全世界の女性に魅力がないことになってしまう。
「ブリジット王女は、とても魅力的ですよ」
「本当に?」
「本当です。まずは、その容姿。薔薇のように美しく、しかし、向日葵のような力強さもある。王女とか関係なく、街を歩けば、十人中、九人の男性が振り返るでしょう」
「え、えっと……」
「とても健康的な体をされていて、その点も、なにも問題はありません」
「か、体……」
「外見だけではなくて、内面も魅力的です。優しく、聡明で、そして周囲にいる人々を自然と笑顔にする、その心。誰もが持っているものではなくて、ブリジット王女だけが持つ唯一無二のものでしょう。その心の輝きは、まるで宝石のよう」
「あわわわ……」
「なによりも素敵なのは、その笑顔です。太陽のように周囲を明るくしてくれて、そして、月のように静かに見守ってくれる……その笑顔の前では、神も心を奪われるかと」
「ちょ、まっ……」
「それに……」
「ストップストップ! すとぉーーーーーっぷ!!!」
ブリジット王女が慌てて止めてきた。
その顔はりんごのように赤い。
「そ、それ以上はダメ……」
「なぜですか?」
「ダメったらダメ! ダメなの!」
「えっと……はい、わかりました」
よくわからないが……
主に止められたのなら、それを振り切ることはできない。
「残念です」
「な、なにが?」
「ブリジット王女の魅力なら、あと、3時間くらいは語ることができたのですが」
「……死んでしまいます」
なぜだ?




