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106話 交渉と駆け引き

「こんにちは」


 ブリジットはにっこりと笑う。


「……」

「……」


 ただ、カインとセラフィーは反応がない。

 牢の中、鎖で幾重にも繋がれて、拘束されている。


 カインは目を閉じて無言。

 セラフィーは、ふてくされた子供のようにそっぽを向いていた。


 ブリジットはめげず、もう一度、声をかける。


「こんにちは」

「……なにか用か?」


 カインが目を開いて、応えた。


 それだけで、ブリジットの護衛についていた騎士達が身構えてしまう。

 これだけ厳重に拘束されているのだから、なにもできない。

 できないはずだけど、それでも警戒してしまうほど、カインが放つプレッシャーは強い。


「ごきげんいかが?」

「いいわけないじゃん。これでいいように見えるとしたら、頭おかしいっしょ」

「うんうん、元気だね」

「ま、これくらいで私をどうにかできると思わない方がいいよ? ちょっとでも隙見せたら、その喉、噛みちぎる」


 セラフィーが不敵に笑う。

 まるで猛犬だ。


 騎士達はその迫力に飲まれ、セラフィーの不敬極まりない発言をスルーしてしまうが……

 ブリジットは気にした様子を見せず、言葉を続ける。


「ちょっとお願いがあるんだけど、いいかな?」

「ナカドについての情報か? ヤツとは金だけの関係だが、だからこそ、俺達が口を割ることはない。傭兵としての矜持だ」

「あ、それは別にいいんだ」

「なに?」

「他の話をしたくて。えっとね……王国に雇われるつもりはない?」

「「……」」


 その誘いは、さすがに予想外だった。

 そんな心を表情に表すかのように、カインとセラフィーは目を大きくした。


「冗談の類では……」

「もちろん、違うよ」

「……意味がわからないな」


 カインはため息をこぼす。


 雇われ傭兵とはいえ、王女に危害を成したのだ。

 普通に考えて、極刑一択。

 奇跡が起きて、犯罪奴隷か強制労働落ちだろう。


 そう考えていたのに、まさか、それらの予想を全て覆して雇おうとするなんて。


 ブリジットの考えていることが理解できず、カインはじっと彼女を見た。

 その視線を受けて、ブリジットはにっこりと笑う。


「普通は無理だけどね。でも、私は王女。ある程度の無理は押し通すことができるよ」

「そのようなことをしたら、他者の反発を招くのではないか?」

「そうだね」


 あっさりと肯定されて、カインは戸惑いを覚えた。


 いったい、この王女はなにを考えている?

 自分達の生殺与奪を握っているのは、間違いなくブリジットだ。

 それなのに、こちらに話を合わせて、親しみを見せている。


 ……もしかして、本当に暁を雇いたい?


 そんなことを考えて、いやまさか、とカインは己の考えを否定した。

 自分を殺そうとした、誘拐した相手を仲間にしようなんて、誰が考えるだろうか?

 そんな者がいるとしたら、それは、頭のネジがいくらか飛んでいるだろう。


「面白い冗談だな」

「本気なんだけどなあ」

「……」


 ブリジットの真偽を見抜くことができず、カインは困惑した。


 一方で、セラフィーは苛立った様子でブリジットを睨みつける。


「私達を雇いたいとか、舐めてる?」

「え? なんで?」

「私達は、確かに傭兵だけど、誰にでも尻尾を振るようなバカな犬じゃないよ。主は、ちゃーんと考えて決めているの。金を積まれたからといって、喜んで、とかならないし」

「うん、それはわかっているよ。雇い主がダメだったら、自分達も巻き込まれちゃうからね。ちょうど、今回みたいに」

「うぐっ……」


 痛いところをつかれて、セラフィーは言葉に詰まる。


 ブリジットが言うように、ナカドに雇われたことは失敗だった。

 彼はダメな雇い主で、結果、このように暁も捕まってしまった。

 皇女が仲介しているからといって、安易に決めるのではなく、もっと慎重に考えるべきだっただろう。


「でも、私なら安心! ナカドのようなことにはならないと思うよ? もちろん、支払い能力も完璧。あと、大事にするし……そうそう、望むなら正式に騎士として採用することも考えるよ? まあ、望むなら、だから強制はしないけどね。あと、最初のうちは監視をつけるけど」

「ふむ」


 カインは、ブリジットからの誘いを真面目に考えた。


 今の話が本当なら、という前提があるものの……

 条件面は申し分ない。

 むしろ好条件。

 このような雇い主は、できることなら逃したくない。


 それに、このままでは死罪は免れない。

 ならば、ブリジットに雇われる方に賭けてもいいのではないか?


 問題は、他の団員が従うかどうか。

 カインが判断したことならば、大抵の団員は異を唱えない。


 ただ一人。

 問題児がいるため、それがどういう反応を見せるか。


「ふーん」


 問題児……セラフィーがニヤリと笑う。


「それってつまり、私達のことを高く買ってくれている、っていうこと?」

「もちろん。あの暁を雇うことができれば、王国は、ますます安泰だからね」

「裏切るかもよ?」

「それはないね」


 ブリジットは即座に断言した。


「あなた達は傭兵。盗賊やごろつきと違って、傭兵としての誇りがあるはず。まあ、評判を気にするっていう打算もあるだろうけど……裏切るようなことはしないと思うな」

「なんで、わかるのさ?」

「勘」

「……」

「それと、こう見えて、私は人を見る目があるんだよ?」


 今度は、ブリジットがニヤリと笑う。


 ややあって、セラフィーが爆笑した。


「あはははっ! やばっ、めっちゃおもろ! この王女様、すっごく楽しそう! ねえねえ、カイン! 私は賛成! ってか、カインが反対しても私は行くから」

「……やれやれ」


 どうやら、問題児はブリジットのことを気に入ったようだ。

 それならば問題はない。


「我々暁は、正式にあなたと契約を結ぼう」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誘拐中にも1度同じように勧誘されているし、それが噓ではないこともちゃんと分かっていたのに 何故カイン程の男が今更予想外だの真偽を見抜けないだの言っているのですか? それに、あの時は即…
2023/10/04 15:33 退会済み
管理
[一言] ブリジット王女、心が広いというか人心掌握術に長けているというか・・・流石。 コレで王国も安泰ですな。バカ皇女の顔が見たいものだww
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