105話 看病したい乙女達
「全治1週間……か」
俺は自室のベッドに寝て、ぼーっと天井を見上げていた。
暁との戦いは、かなりの負担を体にかけてしまった。
あちらこちらがボロボロで、回復に1週間をかけてしまうことに。
仕事を休みたくない。
というか、休むなんてありえない。
風邪を引いたとしても、高熱を出したとしても仕事を続けるのが執事の役目の……はず。
断言できないのは、最近、俺の常識がおかしいのでは? と思い始めているからだ。
それはともかく……
1週間、休まなくてはいけないのは、正直、暇だ。
やることがない。
ただ、1週間で済んで良かったらしい。
俺を見た医者は、本当なら数ヶ月はかかる怪我で、再起不能になるかもしれないはずなのに……なんて、驚いていた。
でも、そんなに驚くことじゃない。
気合だ。
世の中、気合で大体のことは解決できる。
帝国でも気合が足りないから病気になる、怪我になるんだ、とか当たり前のように言われていたからな。
……いや。
それは俺の常識がおかしいのか?
「まあ、いいか。今はゆっくりと休もう」
幸い、ブリジット王女を救出したことで休暇を与えられていた。
ゆっくりすることができる。
……と、思っていたのだけど。
「やっほー」
「お兄ちゃん、元気?」
パルフェ王女とシロ王女がやってきた。
「どうされたんですか?」
「もちろん、アルムのお見舞いだよ。はい、お見舞いの品」
フルーツセットを渡された。
「お兄ちゃん、大丈夫? 大丈夫? 痛くない? シロが、なでなでしてあげようか? 痛いの痛いのとんでけー!」
「ありがとうございます、少し楽になったような気がします」
「ほんと? えへへ、やったー!」
嘘じゃない。
シロ王女の優しさに安らぎを覚えたのは確かだ。
「しかし、アルムは暁を壊滅させたんだって? 一人で。まさか、そこまでしちゃうなんてねえ」
「相打ちに近い形ですけどね」
「それでも十分かな? 普通、そんなことは誰にもできないから」
「……そういえば、その暁はどうなったんですか?」
あれから1週間。
事件は色々と動いていた。
まず、ブリジット王女誘拐の主犯である、ナカド・ユーバードは即座に逮捕された。
本人は罪を否定していたが、屋敷を捜索したところ、証拠が山のように出てきた。
暁のメンバーの証言もあり、有罪は確定。
今は、裁判の準備を進めているものの……
まず間違いなく、極刑となるだろう。
王族に危害を加えようとしたのだから、当たり前の結果だ。
本人は納得できず、色々と弁明しているが、それが受け入れられることは絶対にない。
ナカドの共犯者も捜査が進められて、今、次々と逮捕されているという。
不幸中の幸いというべきか……
事件をきっかけに、王国の反体制派を一気に検挙することができた。
ただ、暁に関する情報はこちらに流れていない。
カイン、セラフィーを含めて、団員全てを捕縛したはずなのだけど……
彼らはどうなったのだろう?
「暁なら、今、姉さんが対処しているよ」
「ブリジット王女が?」
「そそ。うまくいけば、いい感じになるんじゃないかなー?」
と、パルフェ王女は詳細を教えてくれない。
子供がいたずらを企んでいるような感じで、ニヤニヤするだけだ。
むぅ。
ブリジット王女は、いったい、なにをしようとしているのだろうか?
危険なことでなければいいけど……
「それよりも、お兄ちゃん!」
「はい?」
「シロとパルフェお姉様で、特製ポーションを作ったんだ」
「特製ポーションですか……?」
「シロの技術とパルフェお姉様の魔物の知識を合体させた、すごいポーション! これがあれば、怪我なんてすぐに治るよ」
「それは素晴らしいですね」
俺のために、二人がここまでしてくれるなんて……
大事にされているという想いが伝わり、胸が熱くなる。
「はい、どうぞ♪」
「……」
シロ王女が瓶を差し出してきた。
その中にはポーション……らしき、物体……?
非常に粘度が高く、瓶を逆さにしても中の液体が動くことはない。
瓶の底にびったりと張り付いていた。
色は……基本、紫。
ただ、時間によって緑や赤に変わったりする。
ぽこぽこと泡が立つ。
時折、ぎぃぇー、という悲鳴のようなものが聞こえてくるような気がした。
「えっと……これがポーションですか?」
「うん♪」
「ささ、一気に飲んで。ボク達の研究の成果だからね。おっと、感想も頼むよ」
パルフェ王女、ちょうどいいから、俺のことを実験体にしようとしていませんか?
ただ、二人の善意があるのは確かで……
心理的にも立場的にも断ることは難しく……
「ええい、ままよっ!」
俺は瓶の蓋を開けて、一気にポーションを飲んだ。
――――――――――
シロ王女とパルフェ王女、合作のポーションはさすがの効き目だった。
1週間かかる怪我が1日で治ってしまった。
ただ、味とかその後の事件とか、大変なことが……
いや、やめておこう。
あれはもう思い出したくない。