104話 叩き潰す
「はぁっ!? 失敗したぁ!?」
皇城の一室。
リシテアは、部下からもたらされた報告に大きな声をあげた。
王国の現体制に不満を持つ貴族を焚き付ける。
ついでに、戦力として暁との橋渡しをしてやった。
貴族の能力に不安はあったものの……
しかし、最強と呼ばれている暁がセットなのだ。
よほどのことがない限り、失敗することはないだろうと思っていた。
忌々しいブリジットを排除できる。
うまくいけば、アルムも。
しかし、結果はどうだ?
ブリジットは問題なく救出されて。
アルムはそれなりの傷を負ったみたいだけど、命に問題はないという。
貴族は逮捕。
暁も拘束された。
わりと考えられる中での最悪の展開だ。
「暁を用意したのよ? それなのに失敗するとか、どういうことよ!」
「そ、それは……申しわけありません。自分は詳細を知らず……」
「……もういいわ、下がりなさい」
「は、はい。失礼いたします……」
リシテア付きの執事は怯えつつ、退室した。
一人、残されたリシテアは爪を噛む。
「あーもう、なんでこう、うまくいかないのよ。ありえないんですけど。本当、どいつもこいつも使えないわね」
ぶつくさと文句を並べて……
それから、閃いたように目を大きくした。
「そうよ……最初から期待しているのが間違いなのよ。世の中、どいつもこいつも使えない無能ばかり。なら、無能にあった作戦、指揮をとってやればいい。いくら無能でも、動くことくらいはできるから……あたしが、しっかりとした作戦を練り、その通りに動かせばいいのよ」
例えば、リシテアのいう無能を戦場に送り出したとする。
無能故に戦果をあげることはできない。
ただ、肉の盾として機能することは可能だ。
そのように考えれば、使い道はある。
今までは期待していたから失敗した。
これからは、期待しなければいい。
その上で、無能でもやれる仕事を割り振ればいい。
「そうよ、そうすればいいのよ。今度こそ、失敗することはないわ」
とはいえ……
「さすがに、しばらく動くことは難しいわね」
暁の仲介をするために、それなりの資金を使ってしまった。
時間も消費してしまった。
今すぐの回復は難しい。
しばし、動きを止めなければならない。
「あの女とアルムのことが後回しになるけど……はぁあああ、それはもう、仕方ないわね」
リシテアは猪のように猪突猛進ではあるが……
一応、物事を考える頭を持っている。
それなりの教育を受けているため、高い戦術を考えることができる。
もっとも。
感情がなによりも優先されてしまうため、うまくいく試しは少ないが。
「最近は、ちょっと派手に動きすぎたわね。ここまで失敗が続くと、さすがに慎重になった方がいいかも……それはそれとして、最近、街がうるさいわね?」
リシテアは窓を開けて、そこから見える城下町を見下ろした。
以前は、街は活気に満ち溢れていた。
しかし、今は見る影もない。
遠目からでもわかるほど落ち込んでいて、暗く、朽ち果ててしまうかのようだ。
が、リシテアにとって、そんなことはどうでもいい。
民なんていくらでも湧いてくる。
虫のようなものだ。
彼らの生活が困窮していたとしても、問題ない。
どうせ、他所からたくさん現れるのだから。
それよりも、問題は不穏分子だ。
ここ最近、国内で不穏分子が育ちつつあるという報告を受けていた。
組織化されて、水面下で不穏な動きを見せているという。
リシテアが対処を任されているわけではないが……
気になっていた。
「ネズミが足元をちょろちょろしていたら、踏み潰したくなるわよね」
リシテアは笑みを浮かべる。
それは、子供のように無邪気な笑みで……
そして、子供特有の残酷さを秘めていた。
足をダンッ、と鳴らす。