102話 120パーセント
本来なら、後のことを考えなければいけない。
騎士団の援護をして、ブリジット王女を救出しなければならない。
でも、今は忘れることにした。
後のことを考えていたら……
余力を残していたら、セラフィーに勝つことはできない。
ここで負けて、殺されてしまう。
俺は後がない。
そのことをしっかりと自覚して……
そして、もう一つ。
絶対に勝たないと……というか、セラフィーを叩きのめさないといけない理由ができた。
「よくも、ヒカリをあんな風にしてくれたな? ……覚悟しろ」
「っ!?」
一瞬、セラフィーがビクリと震えた。
その一瞬の間に前に出た。
駆ける。
駆ける。
駆ける。
風よりも早く。
音のように。
いや、光のごとく。
一瞬でセラフィーの懐に潜り込む。
「……え?」
こちらの動きが見えていない様子で、セラフィーはぽかんとした表情に。
そんな彼女の腹部に手の平を当てる。
そこで、セラフィーは顔をひきつらせるが、もう遅い。
ダンッ!!!
踏み込むと同時に拳を突き出して、全体重を乗せた一撃を放つ。
肉を穿ち。
骨を砕く手応え。
「がっ!?」
セラフィーが吹き飛んで、壁に激突した。
しかし、今度は壁を突き破ることはない。
さきほどの攻撃と違い、衝撃を全てセラフィーの中に留めるようにした。
故に、壁を破壊することはなくて……
しかし、それ以上の打撃が彼女を襲う。
「な、なに……これ? 私が、たったの一撃で……うぐっ」
セラフィーは立ち上がろうとするが、膝をついてしまう。
痛みを無視して、バーサーカーのごとく戦い続けていたものの……
しかし、人である以上、限界はある。
その限界を超えたダメージを受けたため、ついに、セラフィーの体がついていかなくなったようだ。
「甘い」
「なっ……!?」
音もなくカインが背後に忍び寄っていた。
そして、彼にとっての必殺の一撃が放たれたものの……
俺は、振り返ることなく拳で受け止めた。
刃が肉を断つことはない。
魔力と気で、己の肉体を鋼と化す。
振り向きざまに拳を放つ。
カインは回避するが、それは予測済み。
さらに追撃の蹴撃を放ち、カインを蹴り上げた。
浮いたところに左右の拳を叩き込んで……
それから、その場でくるっと回転。
その勢いを乗せた回し蹴りを放つ。
「ぐっ、あぁ……!?」
今度はカインが吹き飛んだ。
セラフィーと同じように、衝撃を、全てその身に伝わるようにしてやった。
バーサーカーとなったセラフィーに耐えられなかったのだ。
カインに耐えられるはずもなく、崩れ落ちる。
「ちょっと……なにさ、その力……」
カインは気絶したものの、セラフィーはまだ意識を保っていた。
驚いた。
立っていられないはずなのに、立ち上がっている。
まだ戦うつもりらしく、大剣を拾う。
「なんで、いきなり……本気じゃなかった、っていうわけ?」
「本気だったさ」
「なら、なんで……」
「少し無茶をしただけだ」
そう言って、俺はセラフィーに自分の腕を見せた。
セラフィーは目を大きくする。
「なに、それ……ズタズタじゃん」
俺の腕は血にまみれていた。
傷つけられたものではなくて、自分で傷つけたものだ。
ところどころ、肉も裂けている。
100パーセントではなくて、120パーセントの力を引き出した。
結果、二人を倒すことはできたけれど……
そんな無茶をして、体が負担に耐えられるわけがない。
反動がやってきて……
その結果がこれだ。
見た目だけじゃなくて、内部も相当なダメージを受けている。
しばらくは安静にしないとまずいだろう。
「はは……限界を超えた力を引き出すとか、そんな無茶、私だってしたことないのに……」
「そうしなければ、お前達に勝つことは難しい」
「んー……誇って、いいのかな……それ?」
「勝手に決めろ」
「はは……ダメだ、勝てないや」
笑い……
そして、セラフィーは今度こそ気を失い倒れた。