101話 猛獣
「っ……!?!?!?」
セラフィーはまともな悲鳴をあげることもできず、吹き飛んだ。
ガッ! と、背中から壁に叩きつけられる。
そこで終わらず、壁が崩壊して、その向こうに消えた。
確かな手応え。
これで倒せたかどうかわからないが、少なくとも、もうまともに戦うことはできないだろう。
ただ……
「あのセラフィーを……やるな」
カインは落ち着いていた。
娘が……副団長がやられたというのに、まるで動揺していない。
よくあること?
いや。
と、いうよりは……
楽しそうだ。
「後はお前だけだ」
「さて、それはどうかな?」
「なに……?」
その時、崩れた壁の向こうから音がした。
いや……これは、笑い声だ。
楽しそうで、それでいて、とてつもないプレッシャーに満ちている。
「……ふふ」
唇の端を吊り上げたセラフィーが戻ってきた。
あちらこちらから血を流している。
骨折とまではいかないが、たぶん、骨にヒビも入っているのだろう。
だが、しかし。
戦意が衰えるどころか、むしろ増していた。
「いいね……うん、いいねいいねいいねぇ!!! やっぱり、戦いはこうでなくっちゃ!」
「こいつは……」
「ここまで追い詰められるなんて、初めてなんだけど! あぁ、最高。マジで素敵……この痛み、この高揚感。たまらないっしょ。やっぱり、雑魚をいくら倒しても満たされないんだよね。こう、ギリギリのやり取りをしてこそ、命って輝くと思うし」
セラフィーは、痛みさえも戦闘の糧にしているようだった。
傷を受けたことで起き上がる生存本能も利用しているようだった。
生粋のバトルマニアだ。
いや、そんな言葉で片付けられるものか……
いったい、どのような人生を送れば、ここまで戦うことしか考えられなくなるのか?
彼女は、まさに戦闘人形だ。
「さあ、もっとやろう!!!」
「っ!?」
セラフィーが駆けた。
その速度は変わっていない。
むしろ、ダメージを受けているせいか、さきほどよりも落ちている。
それでも、言葉にしづらいプレッシャーがあり、一瞬、動きが遅れてしまう。
「くっ……火よ、我が意に従いその力を示せ。ファイアクリエイト!」
複数の火球を放つ。
飛翔。
着弾。
半数近くがセラフィーに当たる。
確かなダメージを与えているはずなのだけど……
しかし、彼女の足は止まらない。
「なっ……」
「ぬるいよっ!!!」
さきほどの意趣返しというかのように、セラフィーが殴りつけてきた。
続けて、蹴り。
再び、拳。
合間に頭突き。
武器を捨てた代わりに、己の体を武器として、ありとあらゆる攻撃を試してくる。
「もっと楽しもうよ! ほらっ!!!」
「このっ……!」
やられっぱなしというわけではない。
カウンターを叩き込んでいる。
それでも、セラフィーは止まらない。
確かなダメージを与えているはずなのに、止まらない。
こいつ、不死身か……?
「……」
「カインは邪魔をしないで!」
セラフィーに怒鳴りつけられて、カインは、やれやれと肩をすくめて動きを止めた。
今、カインに参戦されたら本格的にまずい。
助かったといえば助かったのだけど……
「あはははっ! 楽しい、楽しいねえ! もっと楽しもうよ!!!」
バーサーカーと化したセラフィーを相手にするのなら、まだ、さきほどの方がマシだったような気がする。
それほどまでに手強い。
どれだけ攻撃を叩き込んでも怯むことはない。
むしろ、より苛烈になって返ってくる。
なんて厄介な。
心臓を止めれば、さすがに動きも止まると思うが……
防御を一切省みないセラフィーの猛攻が激しすぎて、そこまでの攻撃に移ることができない。
とにかく、まずい。
このままだと、いずれ押し切られてしまう。
槍のように突き出されてきた拳を受け止めて、その腕を取り、投げ飛ばした。
その間に距離を取る。
「うわ、ホントいいね。ここまでして倒せないとか、マジ楽しいんですけど。あの子以上に楽しめそう、ふふ、うふふふ」
「あの子?」
「あー、なんていったかな? ヒカリ、だっけ?」
「……」
その名前を聞いて、ピタリと俺の動きが止まる。
「可愛い格好してたけど、実は、世界最強の暗殺者シャドウだったんだよね? あれ、強かったなあ……壊しがいがあったなあ」
「……つまり、お前がヒカリと戦い、彼女を傷つけたわけか?」
「うん♪ すっごくすごく楽しかった!」
「そうか」
よし。
こいつは……
絶対に叩きのめす!!!




