魔術概論と魔法生成
ごめん、おそくなった
フレリア教ベイルート王国支部
───《冠の間》───
「カフッ……」
「警備兵2人、護衛4人、意外とあっさり侵入できたよ。」
ゼリエスタ教《強欲》のリコ
彼の右腕には彼と同じ背格好の少女の身体が突き刺さっている。
フレリア教《神話》のレイナ
「貴方は、、、」
レイナは吐血しながらも最期の力を振り絞る。
「貴方は、苦しんで、いる。」
リコの瞳孔が揺らぐ。
身体を、心を、気持ちを。
すべて見透かされている気分だった。
それでも尚痛みを堪えてレイナは前へ進む。
彼女から突き出たリコの指が彼女の背中から距離をさらに離す。
そんな彼女に面食らいながらも、リコは平静を装う。
「そん、な、貴方に」
「どうした?地獄へ墜ちろ、か?」
レイナの血塗れの両手がリコの頬に優しく添えられて
「幸せが、訪れ、ること、、私は、、、心から願っています。」
数刻の後にレイナの笑顔が空虚に沈み、ズルッと腕が落ち、頬に血痕が残る。
絶命
リコは腕を身体から引き抜き踵を返すが、頬の血はどうしても拭えなかった。
情けない自分に苛立ち、独り言が宙を撫でる。
「........最期まで聖人ぶりやがって、
これだから───」
リコは言葉を止める。
彼の思考が揺らぐ。
今まで何百人と人を殺し続けた彼が日頃隠し続けた《強い欲望》。
それは
≪普通の日常≫
今ソレをすれば彼の望んでいたものが手に入る。
後からどれだけ蔑まれようと、罵られようとも。
言葉より先に、思考よりも速く。
彼の身体は素直だった。
「PerfectHeal」
この日、号外の新聞にて大きく取り上げられた
「七冠《神話》の死」
は世界各国で衝撃を与えた。
それとは反対に
『《強欲》のリコ 失踪』はゼリエスタ教の内部で内密に処理された。
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死の平原
「それではお待ちかね、古代魔法作成の時間だ。」
ザニーの声で皆の顔が明るくなる。
休憩していた人達が、アニメで良く見る勇者から勇気をもらったボロボロの王宮騎士のように立ち上がる。
「やっとか、」
「長かったぜ。」
「途中休憩よく挟んだもんね。」
「ここからだ!、、、」
ザニーはアルトを気にかけ、見つけ出そうとするも中々見つからない。
「どこ行ったんですかね、、」
ボソっと呟く。
が、彼に何かあっても大丈夫だろうと授業に戻る。
「古代魔法を作る上で大事なことは主に3つ。
・術式のイメージ
・入れ物のイメージ
・術式発動後のイメージ
だ。
分からないところだらけだと思うから、一つずつ説明していくぞ。」
ザニーはらしくない眼鏡をかけ、指示棒を持って
《古代魔法》で生成した黒板に文字を書き始める。
「古代魔法生成の上で大事な点その1!!
・術式のイメージ
これはベース、
所謂どんなものを作りたいかが全てを左右するが、、、アベル、ルーク!
お前ら試しに作ってみろ。
コツは教えるから、どういう感覚で術式が出来上がったかを覚えておいてくれ。」
急にお願いされたのにも関わらず、既に準備を始める2人。
「青龍、魔力を僕の身体が耐え得る限界まで増やしてくれ。」
「承知した、」
アベルが契約を交わす。
「ベヒモス、僕も彼と同じ契約をしたい、できるかな?」
「お安い御用です。」
ルークも契約を完了させる。
「よし、それじゃあ作っていくぞ。
アベル、ルーク、お前らには《炎の魔法術式》を作ってもらう。
手の上で炎が燃え盛るイメージだ。騙されたと思って信じてやってみろ。」
アベルもルークも腕を前に伸ばして術式作成に集中する。
「スウゥゥゥ、、、、」
「スウゥゥゥ、」
───数分後───
「できた!」
「いける!」
二人の掌に浮くようにして炎が元気よく燃えている。
「おー、おめでとう、」
ザニーが棒読みで称賛する。
「凄いじゃないか!2人とも!!よく頑張った!」
ネルスが激励し、二人の肩を勢いよく叩く。
「すごい、どうやったの!?、おしえておしえて!」
「わ、私にも!」
「俺にも教えてくれよ!」
クラスの皆が雪崩れるようにアベルとルークに質問する。
「すごく感覚的な話になるけど、、出来るって信じることができればうまくいくよ。もう一回やるから皆も一緒にやろう!」
ルークが扇動する。
その日、なんとかクラス皆が古代魔法習得に至ったというのは言うまでもない。
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ぶっちゃけ、古代魔法なんて出来ると信じるか信じないかの差だ。
あと自身の魔力総量の倍程の魔力。
それさえあれば最低ラインギリギリだが、なんとか出来る。
そんなことを考えている俺、アルト・テグラスは今、多種多様な種族が入り交じる
《シノビ連合》
とやらに襲われています。
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今回、古代魔法の習得にあたって、言えることはただ一つ。
俺絶対目立つ
さっきのピエロ君との契約で確信したが、俺は作ろうと思えばいくらでも魔法術式を作ることのできる身体と魔力量になっている。
術式が複雑になればなるほどより魔力を必要とするが、そんな壁を越えてしまうのが俺である。
今のクラスでの扱い、
『なんか凄そうだけどよく分からない、記憶に残りづらい一般生徒』
の認識を変えるわけにはいかない。
幸いなことにもいつも通り皆の集まりの淵にいる。
目立つことさえしなければ
このモブ生活を保──────
トプン
足が地に沈む。
沼も無いハズだが、それでも沈む。
咄嗟に誰かに助けを求めた右腕が空を切り、地面に着こうとした左手が謎の穴に吸い込まれていく。
「──────」
声が出ない。
いや、出している筈だが遮音結界か何かだろうか。
まずい───、
身体が穴に全て収まりきったその時、光が俺を飲み込み、、、
「っ、、、てて、」
気づけば死の平原の最北端にいた。
ちょっと寒い。
「氷結魔法 彼岸の座」
目の前の獣族の少女が氷結魔法を展開する。
辺りの地面一帯が氷に包まれる。
なんだか訳が分からない、いきなりテレポートして氷結魔法なんて。
ドゴッ!!
そして背中をもう一人に蹴られて60メートル程吹っ飛ぶ。
飛んでる途中になんとか魔力を練り上げ、
「炎魔法 指向炎断」
しかし発動する直前に右腕がまた別の誰かに大太刀で
切り落とされる。
「治癒魔法 完全治癒」
失くなった右腕を生やしつつ、地面に足を擦らせ着地する。
「何者だ?」
数は、、3、いや4?、、もっと奥にいるな。
ざっと60人。
魔力の質からして、
全員が冒険者ギルドのAランク以上の実力に勝るようだな。
「我々は《シノビ連合》」
俺の背中を蹴った女性隊員が声を発する。
「とある方の命で、貴方に試練を与えに来ました。」




