捕虜って言うときホロって言っちゃうときあるよね
おそくなったぜ
学園長室
腕をM字型に曲げ、窪んだ掌に顎を添えて真剣に悩むエルフが一人。
ネルスは重大な決断を迫られていた。
「夏休み、、ねぇ、、、」
向こうのソファから横になってダラダラしているエイナスから声が届く。
「お願いだよネルス、流石に夏休み無しはキツいわ。」
───六時間前───
校門近く ゼリエスタ教対策本部 テント
「は、はやくエイナスちゃんを助けなきゃ!!」
「落ち着いてください!副団長!」
「かなり強力な魔導具です、解除できるかどうか」
エイナスにつけられた魔導具「身体抑制手錠」はその効果により残り1分でエイナスは二度と目覚めなくなる。エイナスとは1000年来の付き合いで、いつもは冷静沈着なデリアもかなり焦っている。
「とにかく急いで外さなきゃエイナスちゃんが二度と目覚めなくなっちゃう!だから───」
「落ち着けデリア、俺が何とかする」
焦っているデリアとは真逆に颯爽と現れ、落ち着いて横を通りすぎる男。
エイナスの腕につけられている魔導具を少し乱雑に掴み、
「ッフーーー、、、、フンッ!!!!」
グシャッ、バキィ!!
そしていとも容易く魔導具をエイナスの腕から外す。
「······修行から帰ってきてたのね、、、ザニー」
彼女の魔導具を外した男こそ、3000年前から生きる古参上位魔族の生き残り。
東の魔神王アルバートの元執事
ザニー フォン エルバーナ
であった。
「一応ネルスのとこに運んでおくぞ?」
「う、うん、、ありがとう。」
約30年と100年ぶりの再開。
多少戸惑うデリアを視界の端から消してネルスの元へ赴くザニーの顔は真剣だった。
「き、貴様魔族かッ!」
「団長から手を離せ!!」
デリアは左手で制止を促す。
「彼は私の知り合いよ、これ以上説明がいる?」
騎士団員は押し黙ってしまった。
ベイルート王国にも少し平和が戻りつつあった。
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学生寮 アルトの部屋
ベッドから上体だけを起こすアリーゼとその横に立つアルトは見つめあっていた。
どれくらいの時間がたったのだろうか?
恐らく5分もたってないのだろうが、アルトもアリーゼもとても長く感じていた。
「あのっ、」
「えっと、」
沈黙を破る一言目が偶然にも重なりあう。
「······俺からで、良い?」
「う、うん。」
アリーゼが改めてベッドの上で姿勢を正す。
「えっと······すごく変なこと言うようで悪いんだけど、、さ、俺、、がさ?、、前世魔神王でした~、、なんて言ったら信じてくれるか?、、」
アリーゼは少しの間悩む素振りを見せて、首を横に振る。
「信じない」
きっぱりと答えた。
アルトは後頭部をポリポリと掻きながら自嘲と恥辱を含めた笑みを見せ、
「ハ、ハハ、、そ、そうだよな。なんか、変なこと言ってゴメン、わすれ──────」
「だってアルト君はアルト君だもん、」
「──────え?」
予想外の答えが帰ってきた俺は戸惑いを隠せずに素頓狂な声を出す。
「例え前世が魔神王でも、神様でも、私が好きになったのは今のアルト君なんだから、前世とかそういうのはもう関係ない、ただ私は今のアルト君が好き」
純粋な瞳を向けられたアルトは『これは敵わないな』と悟る。
「ごめんね、じゃあ忘れてくれ。今のなし、、あれ?じゃあアリーゼはなんの話だ?」
アリーゼは少し暗い顔を見せ、すぐに覚悟を決めた顔へと移す。
「私は───」
アルトが固唾を飲んで見守るなか、遂にその事実が話される。
「私は記憶を移動できるスキルを持っているの。王家だけが継承できるスキルでね、、、どこに行くかは指定できないんだけど、、、」
驚いた。
精々『王家でした~』で終わると思っていた。
てかちょっと待て、、?、
記憶を移動できるスキルってそりゃあ、、
「スキル《神の使徒》·····」
アリーゼが少し悲しそうなそうな顔をする。
「知ってたんだ、、物知り、だね、、、」
あ、これ深くは聞いちゃダメなやつだ。
でも《神の使徒》か、、、
大変な運命が待ち受けているだろうけど、頑張ってくれよアリーゼ。




