休憩回 昔話1
ちょっと忙しくて書いてる暇ありませんでした。
ごめんなサイコキネシス
およそ3000年前、古代文明全盛期───
永久都市 アルハマダラに名を轟かせた一人の冒険者がいた。
名はアルゴ
自他共に認める『最強』であり、魔法術式の構築において彼に勝てるものは存在しないであろう。
しかし彼が最強と呼ばれる所以は彼の肉体にあった。先天的な一流ボディビルダー顔負けの鋼の肉体。
もちろん今まで負けたことがないアルゴはこの先も負けることはないだろうと人生を楽観視していた。
その油断が隙を生み、人生初の引き分けを味わうことになる。
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迷宮都市 マイアスデノスで知らない者はいないとまで言われた超有名冒険者
ユミエラ・バーサック
魔法が殆ど使えなかった彼女は
『式神』
という新たな概念を創作し、途方もない努力の末に新たな魔法の形としてそれを完成させた。
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「いやぁ、まさか俺と張り合える人間がいるなんて、、」
「貴方怠慢が過ぎるのではないかしら?そこそこいるわよ。貴方より上の人間なんて。」
「いやそりゃ困ったな~。俺ここら辺で最強を謳ってるからよ、」
アルゴは腕を前に差し出し、より早くより強力な魔法を打ち出すために魔力を強固に練り、指先へそれを溜める。
それに負けじとユミエラもあらゆる術式を付与した最強の式神を作り出す。
ユミエラは魔法が大の苦手だが、決して魔法が使えないのではなく『魔力を流し込む感覚』が分からないだけであり、魔法術式を作ることに関してはアルゴと肩を並べる程。
だからこそ莫大な魔力を持つ彼女にとって魔力と術式までの変換器を作る必要がある。
魔力を自動で入力してくれるシステムが。
それが彼女が造った唯一使える魔法
『バーサック式式神召喚魔法』
である。
アルゴも魔力総量だけで言えばアルハマダラのSランク魔導師四人分を優に越える。
彼がもし人類の敵になろうものなら、魔神王の次に警戒すべき《歩く災害》となっていただろう。
そんな2人の最強が《死の平原》で決着をつけようとしている。
周辺国からすれば迷惑行為の極みである。
2人の魔力の動きが止まり、数刻で死の覚悟を胸に携え───
「最大出力 魔力放出!」
「式神シェイクスピア、あの男を攻撃!」
2人の攻撃が丁度真ん中で押し合い、激しい音を鳴らして空気を震わせる。
「ウオオオォォォ!!」
「ハァァァァ!!!!」
激しい雄叫びの末に両者魔力切れを起こし、アルゴは魔力放出が、ユミエラは式神シェイクスピアが塵になって消える。
「ハハ、、、マジ、か、、、」
魔力切れを起こしたため2人とも立てずにそのままその場に倒れてしまった。
結果は引き分け。
アルゴは魔力を溜めていた右腕が吹っ飛び、
ユミエラはついさっき造った式神シェイクスピアが再顕現不可能となった。
シェイクスピアも彼女が魔力切れを起こすまでなんとか形を保っていたものの、アルゴの尋常ならざる魔力放出により再顕現の条件《式神の肉体、実体の一部の再利用》が満たせなくなったのだ。
アルゴは軋む腰の痛みに耐えながらなんとか立ち上がり、消し飛んだ右腕を左手で擦りながらユミエラに近づく。
「完敗だ」
「完敗よ」
二人の声が重なった。
どちらも完敗を認めた以上『じゃあこっちが勝者だな』など言えないなんとも微妙な空気になる。
「立てるか?」
最初に口を開いたのはアルゴ。
「立てるわよ、あなたと違って腕を失ってないもの。あなたこそ大丈夫?」
するとアルゴは得意気に空間魔法を使い、収納空間からエリクサーを出して残った右腕に染み渡るようにかける。
するとニョキニョキと骨、血液、神経、筋肉と、徐々に再生していき遂に腕が元通りになる。
「で?腕がなんだって?」
「あなたねぇ、、私の前でこれ見よがしに魔法を使うなんて嫌がらせかしら?」
「あーはいはいごめんねごめんね、まぁまずは立てよ。」
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アルゴ目線
まぁ、、なんというか、
最初は容姿がストライクっつーか、
『嫁の一人もいねぇのかよ』ってガイアス・ウォリウフとタダカツ・カミヤの野郎に馬鹿にされたからか、、、
とにかく一目惚れってやつだな。
うん。
クエスト終わりでたまたまアルハマダラのギルドに来ていたユミエラに人生初のナンパを仕掛けてみたんだが、
直前に魔法が使えないことを酔っぱらったBランク冒険者達に揶揄されていたので、
かっこよく登場!!
、、、といきたいところだが生憎、修行と魔法研究に明け暮れてた俺は勿論ナンパの方法など知らずに、、、
「なぁ、闘わないか?」
などと言ってしまった。
馬鹿か俺は。
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ユミエラ目線
今日はマイアスデノスから永久都市アルハマダラまで貴族護送のクエストだった。
道中は特に魔物に襲われることもなかったのだが、、、
「よぉ~ネエチャ~ン?そんなとこで寂しく飲んでるならよぉ、、ヒック、俺達と一緒にタノシク飲もうぜぇ」
所謂酔っぱらいだ。
ランクは、、、Bか。
自慢じゃないが比較的容姿は他より優れている自覚はある。
このタイプももう慣れた。
ただギルドの受付嬢が困ってるじゃないか!
あの娘はいつもアルハマダラに訪れると私に声をかけてくれる私のお気に入りなんだぞ!
許さん酔っぱらい。
「貴方たち、ゆる───」
ゆるさない!と言うつもりだったのに彼らが急に苦しみ出す。
まるで息ができない赤子のように。
「ギ、、グェ、、、だずげ、
で、、」
一人の男が私に近づいて来る。
たしか張り紙に出てたSランク冒険者の中でもかなりの実力を誇る人、、、
「───人間には魔力のほかに《気力》というものが存在する。それを応用すれば遠くから人の首だって絞められる。気術って言うんだけどさ、」
冒険者 アルゴか。
すると彼はなんの迷いもなく私に向かって口を開く
「なぁ、闘わねぇか」
まさか私に闘いを挑むとは。。。
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アルハマダラ支部ギルド
「はぁ、、アルゴさんもユミエラさんも馬鹿です、、、わざわざ戦うなんて、なんで、こう、、うちの支部は戦闘狂が多いのでしょうか」
頬杖をついて受付の机にため息を吐く困り顔の受付嬢、エリク。
するとビールを飲んでた冒険者が声高らかに騒ぎ出す。
「おい!皆で賭けねぇか!?、ユミエラかアルゴどっちが帰ってくるか!!」
またもエリクが溜め息を吐く。
「そもそも、ユミエラさんとアルゴさんを戦わせるきっかけを作ったのはあなたでしょう?」
しかし彼にその声は届いておらず、さらに声量を上げる。
「俺はユミエラが帰ってくるに1ゴールド出す!お前らは!いくら出すんだぁ!」
すると次第にいろんな所から声が挙がる。
「俺も24シルバー、」
「俺も、32シルバー、、」
「僕も、、40シルバー、、、」
「私も、、、48シルバー、、、、」
さらにギルドの奥から声が響く。
「おい!男ならもっと夢を見ろ!俺はアルゴが帰ってくるに20ゴールド出すぜ!」
声の主はガイアス ウォリウフ。
アルハマダラのSランク魔導師である。
「やめとけガイアス、やるだけ無駄だ。」
ガイアスに制止を促す一人の鍛冶師。
この時代唯一の日本からの転移者タダカツ・カミヤはとうに結果など分かっていた。
「エリクさん、貴女は、、もう分かっているんでしょう?」
皆の視線がギルド嬢のエリクに集まる。
「───私は二人一緒に帰ってくるに50ゴールドッ!!」
バンッ!
勢い良く開くギルドの扉。
そこに現れたのは──────
「わりぃ、ガイアス、カミヤ、、ユミエラ運ぶの手伝ってくれ」
帰路にて疲労のため気絶してしまったユミエラを左肩に彼女の右腕を回し引きずるアルゴがいた。
「よしっ!」
エリクの歓喜の声。
「俺の20ゴールドぉぉぉ!!」
ガイアスの悲痛な叫び。
etc...
エリク以外の殆どの冒険者は賭けに負けていた。
「左、持つよ」
「わりぃなタダカツ、」
アルゴの冒険は続く───




