越えられないならぶっ壊せ
うちの学校には伝説と呼ばれる生徒会長がいる。
最近よく話題になる同性愛。これについて奴はやってくれた。
ある時の全校集会で、
「俺はバイだ! よって今日から本校では同性愛を全面的に認めることとする! みんな! 理解しろとは言わないが、決して非難するんじゃないぞ! 人を愛することに自ら障害を作る必要などない! 以上!」
と言い切ったのだ。
事前に学校やPTAなどを説得した上での行動だと知ったのは三日後だった。
どういう手を使ったのかは不明。
奴は成績優秀どころか全国模試で常に一位を取り続け、陸上でも全国制覇を成し遂げている。
「超人は理解できない」
皆が皆こう言う。
しかし、この件があったからか、その日から異性はもちろん同性のカップルも多く見受けられるようになった。
肩身が狭かったのを解放された少数派と、あまりの行動力に感心する大多数に支えられ、今もなおカップルたちは活動していることだろう。
それとは別に、奴にはもう一つ伝説がある。
うちの生徒を傷つけたヤクザを単身で壊滅させたというものだ。にわかに信じられないが、奴ならやりかねない、ともはや誰も疑わない。
正義感が強すぎるのか、校内でも虐めなどが発覚するとすぐに現れ、全て解決するのだ。
一種の宗教と化した存在の奴なら、今の俺をも救ってくれると信じている。
雪が降りしきる中、俺は十人の黒服に囲まれていた。周りには川しかない。
「さて、こいつは奴と同校だな。テキトーにいたぶっておけばいいだろ」
どうしてこうなった。
俺は頭を抱えたかった。実際には手足を縛られてるため出来なかったが。
もはや抵抗を止めた俺には興味もなさそうに別の黒服が言う。
「私は拘束なんか趣味じゃないんだけど、傷つけるとあんたらが怒るから一応やってないよ」
一番背の高い黒服が言う。
「あぁ、怒る。だから止めろ」
意味が分からない。下校中に拉致されたと思えば拘束されて囲まれたまま放置などと。
自力でどうにかできる訳でもないから仕方なく助けを求めれそうな人について考えていたのだ。
しばらくして、体が感覚を失ってきた頃に奴は来た。
「貴様ら! うちの生徒を人質に俺を呼び出すとは何事だ! 電話一本で時間をつくるというのに!」
我らが伝説の生徒会長がまくし立てると、黒服が口を揃えて言う。
「勝負しろ」
意味がわからなかった。
「意味がわからないぞ!」 またも黒服は同時に言う。
「謎なぞだ」
謎なぞ勝負らしかった。そんなことより解放してくれ。
会長を誘き出すためなら俺は用済みだろ、って用済みだからか……。困った。
とりあえず顔をしかめてみるが何も変わらない。変わっているのかわからない。
気づけば黒服と会長が謎なぞを出し合っていた。
頼むから助けてくれ。
「パンはパンでも食べられないパンはなんだ。ナンじゃないぞ。あれは食える」
「知っとるわ! フライパン!」
「正解だ」
予想以上にレベルが低かった。
黒服も犯罪レベルのことしておいて謎なぞってなんだよ。……ナンじゃないよ。
「俺から行くぞ! 目がたくさんあって将来は歯になる箱なーんだ!?」
「プランターだ」
「正解!」
正直わからなかった。
「満足だ」
満足しちゃった! いや助かるけど。いや助からないかもしれないけど。
黒服はまたもや揃えて言う。
「質問だ」
「なんだ!」
今度は十人が次々に言う。
「お前は何故」
「元気なんだ」
「そして聞く」
「どうして!」
「バイなのだ」
「どうやって」
「認めさせた」
「俺たちには」
「私たちには」
「無理だった」
最後に揃えて言う。
「教えてくれ」
会長が叫ぶ。
「知らん! ただ全力でやってたら周りが認めてくれたんだ!」
黒服だけでなく俺も驚いた。こいつ熱血だけで伝説をつくったのか。さすがだ。
「そう、なのか。礼を言う。しかし、俺たちは全員ゲイとレズなんだ」
「どうしても国内で認められたい」
「力を貸してくれないか」
次々に黒服が言った。
会長が叫ぶ。というよりこいつは常に叫んでいる気がする。
「断る! だが! いずれ手を貸そう!」
黒服が頭を下げる。
「わかった。では今日は退こう」
そう言って黒服が全員いなくなった。
待て。俺を助けろ。
「よし! もう大丈夫だ! すまなかった!」
会長が俺を縛る縄を解いてくれた。
「あ、ありが、とう、ござ、い、ます」
驚くことに声がうまく出なかった。
「おう! 惚れたか? 歓迎するぞ!」
「それは、な、い……」
「ショックだ! まぁいい! 何かほしいものはあるか? 体冷え切ってるだろ!」
「大丈夫、です。それ、より、今日、みたいなピンチを乗り、越える方法、を」
その時、伝説はこう言った。
「越えれないならぶっ壊せ! ハードルは潜れるが壁は壊すしかない!」
確かに、伝説になるわ。こいつ。