移動訓練
「宜しいのですか?本当に。長い戦いになるかもしれませんよ?」
確認の為に彼は問うてくる、しかし、わたしの決断は変わらない。
「戦った事なんか一度も無くて、不安だしちょっと怖いけど...でも、わたしやります!」
わたしの答えを聞いて彼は人差し指で眼鏡を直すと。
「ふむ...分かりました、守代あすかさん、これから宜しくお願いします」
そう言うと彼はわたしにお辞儀する。
「こちらこそ!」
わたしがそう答えると彼は姿勢を戻し頷き、端末を操作してスクリーンを閉じる。
「さて、それではこれからの話に移ろうかと思いますが...まずは戦闘訓練を受けて頂きます。
いきなり戦場に出すわけにもいきませんしね。
訓練と言っても実際に機体を動かすのではなく、仮想現実空間、所謂バーチャルリアリティーで行います。
スペックが高すぎて外で行うには危険過ぎますので、こちらで慣れてから実際に外に出ようかと思います、宜しいですね?」
「分かりました」
わたしとしてもいきなり外での訓練は怖い、ロボットの操縦なんてした事ないから、うっかり何処か壊したりしかねない。
「では早速始めましょう。
そのままお待ち下さい、仮想空間に接続します。何も無い平原みたいな場所にいきなり出ますけど驚かないで下さいね」
言うと彼は再び端末を操作し...一瞬フワッとした感覚がしたかと思うと、目の前に平原が現れる。
本当に何もなく、地平線の彼方まで平原が続いている。
「接続終わりました。
何処か変なとこはありませんか?」
彼の声が響いてくる、これといっておかしいとこも無い。
「大丈夫です、問題ありません」
姿が見えないので周囲に声をかける、まぁ何処に向けても聞こえるだろうけど。
「まずは歩行からいきましょう、さっきスクリーン越しに右手を動かしていましたけど、生身のときのように無意識でしたよね?」
言われてみればそうだ、普段通りに動かしていた、意識して動かしてはいない。
「それと同じように、歩いて下さい」
指示通りに歩いてみる。
おお、歩けてる歩けてる、てか地面踏んでる感覚があるんだけど...ロボットだよね...?
「ふむふむ、歩行は問題ありませんね。
ちなみに足に歩いている感覚があると思いますが、センサーで擬似的に体感出来るようになっています、違和感無く動けますよ」
成る程、いつも歩いてるのと全く変わらない、というかむしろ身体が軽く感じるくらい。
「走るのも同じように出来ますので、次は加速訓練に移ります。
背中のブースターを使うのですが、ちょっとコツが要ります、まぁ難しくは無いのでやってみましょう。
軽く前傾姿勢になって、背中から押されるようなイメージをして下さい、強くイメージすると加速が強すぎるので子供に軽く指先で押される感じで」
前傾姿勢...競争でスタート準備みたいな感じかな...で、子供に指先で押され...る!?
そうイメージした瞬間、身体が前に勢いよく押し出される。
崩れそうになる態勢を何とか整えるも、背中にかかる力で身体はどんどん前に進む。
「いいですよ~、上出来です。
イメージを止めれば止まりますし、イメージが強ければ強い程加速力は上がります。
そうですね、ロケットに押されるイメージとかなら最高速度までいけると思いますが、まぁ今日はそれくらいでいいでしょう。
あ、逆に前から押されるイメージをするとブースターが逆噴射して急停止したり、後方に加速も出来ますので後で試してみて下さい。
馴れてくるとジグザグに動いたり急接近からの離脱等も可能になります」
言われる通りに押されるイメージを止めてみるとブースターも止まる。
あのイメージでも凄い速度出たんだけど、ロケットとかどうなるの...
「移動の訓練は一旦ここまで、次は武装を使用した訓練に移行しましょう」




