身体
...脳以外の破棄と脳の保存...?
流石に何を言っているのか理解に苦しむ。
つまり、今のわたしは脳だけになっているってこと?
馬鹿な、身体は動かないけど目は動いているようだし声もさっき出せた、脳だけであればこんなことは不可能だ。
そんなわたしの疑問を遮るように守代進は更に続ける。
「コールドスリープにおける損傷は身体の末端部分から始まり、徐々に中心部へと至り最期は心臓へ、当時ではこれを止める事は不可能でした。
しかし、一つだけ損傷を回避出来る箇所がありました、それが脳です。
でも、脳だけあっても人間は生きられません、そこで考えたのが新しい身体への移植です。
脳を保存し移植方法が確立されたとき移植する、全てをそれに託し、脳の摘出及び保存が行われました」
つまり、脳移植に成功してわたしは目覚めたって事...?
それならば理解は出来る、話が突拍子過ぎてついていけないけど...
「さて、それではここから本題へと入りましょうか」
え?移植が成功してわたしは病から解放された、で終わらないの?
300年経ってるしこれからどうするかってことかな?
まだ信じられないけど、本当の話なら色々やることがあるよね。
...そう考えている間にも、彼は話を進める。
「貴女の脳の移植先です」
...あ、そうか、移植するってことは誰かの身体を使うって事だよね...生きている人の身体は使えないし...病気かなにかで亡くなった人のを...?
...が、違った。
違うどころか斜め上過ぎてバランス崩して地面に叩きつけられて爆発四散するレベルだ。
「実のところ、現在においても脳の人体移植は適合性の問題、そして倫理観による研究の著しい遅れがあり確立されていません」
...ん?確立されていない...?
あれ?成功したんだよね...?あれ?
「なので人体移植は行われていません。
ですが、移植先は別に存在し、こちらは度重なる動物実験により100%成功する精度に至りました」
「人工的に作られた身体、つまり機体です」
...んんん?
機体...???
え、つまりあれ?ロボットやアンドロイドみたいなのってこと???
そんなこと有り得るの...?
いやでも300年も経てば技術がそこまで進んでもおかしくはない...?
「信じられないとは思いますが、まぁそうですよね。
実際に見ないと納得して頂けないでしょうし、少々お待ち下さい、今モニターに貴女の身体を映しますので...」
そう言うと彼は胸ポケットからスマホのような端末を取り出すと指で何か操作する。
するとわたしの目の前に大きなスクリーンが現れる。
SF映画等でよく出てくる空間投影のスクリーンだ、300年後の技術スゴイ。
「こちらが貴女の身体です」
彼は更に端末を操作すると、スクリーンの画面に何かが映し出される。
そこに映っていたのは...
「ロボット?」
そう、それはロボットだった。
様々なコードやらチューブが繋げられ、何かケージの様な物に立った状態で固定されてるようだ。
てかこのロボット、何処か見覚えがあるような気が...う~ん?
「今右手の拘束を解除しますので動かしてみて下さい。
あまり大きく動かすと周りが大変な事になりますので、肘を曲げて手をグーパーさせる程度で、モニターを見ながら行って下さい」
彼が端末を操作すると右側からガシャン、と何かが外れるような音がした、どうやら拘束が外れたようだ。
言われた通りに右肘を軽く曲げ、手を閉じたり開いたりしてみる。
すると、モニターに映っているロボットも同じように肘を曲げて手を動かしている。
今度は肘を曲げたまま指を一本ずつ立ててみる。
モニターのロボットも指を動かす。
...いや待て...
映し出されたロボットはわたしの手の動きと同じ動作をしている...
そして、貴女の身体...?
...まさか...いや、まさか...
「...わたしなの...?...これ...」




