現実
「お待たせしました。さて、何処から説明しましょうか...」
人形は近くにあるエレベーターを使い、わたしの目の前に歩いてきた。
顎の付近に鉄製と思われる簡易通路があるのだ。
「とりあえず改めまして、まもるにだい、すすむと書いて守代進と申します、以後宜しくお願いしますね」
守代進と名乗る人形は軽く会釈するとそう告げた。
...守代...わたしと同じ名字だ。
しかし、守代という名字は非常に珍しいそうで、わたしの家系以外では見たことが無く、守代家に進という人物は居ない。
もしかしたら他にも守代家があるのかもしれないが、それにしてもこんな偶然があるだろうか。
「ふむ、自分と同じ珍しい名字の人物がこのような場所で目の前に現れて、こんなことがありえるのか、といったところでしょうか?」
考えていた事を当てられ、ドキッとする。
「まぁ、無理もありません。普通そんなこと起きませんからね。ではまずはそこから説明しましょう」
守代進はコホンと軽く咳払いをすると語り始めた。
「単刀直入に申し上げますと...私は貴女の遠い遠い子孫にあたります」
「し、子孫?」
予想外過ぎる説明に思わず声が出る。
...ん?何か声が変だな...違和感が...
「はい、そうですね...貴女の代から数えて、300年は経っているでしょうか」
「さ、300年!?」
さらに訳が分からない。
わたしの子孫というだけでも理解に苦しむのに300年後ときた。流石に冗談にしか聞こえないのだが彼は至って真顔である、冗談を言っている感じはしない。
「はい、ちなみに私が遠い未来からやってきた、という訳ではありません。
貴女は300年の間コールドスリープし、そして今、永き眠りから目覚めたのです」
「......」
あまりの事に言葉が出ない。
確かわたしは病院で寝ていたはずだ、だが、起きてみれば実はコールドスリープをしていて300年後だという。
こんなの信じられる訳がない、あってたまるか。
嘘だよね、たちの悪い冗談だよね?
そう言葉に出そうとしたが、彼は更に続ける。
「貴方は、当時の医療技術では治療が不可能な難病を患っており、数ヶ月後には命を落とすはずでした。
しかし、貴方を何が何でも救おうとしたご両親はある賭けに出ました。
そう、コールドスリープによる延命、そして、治療が出来る未来に希望を託して、永い眠りにつかせたのです。
結果、300年も眠り続けることになりましたが」
...確かに産まれつき身体が弱く、ずっと病院暮らしをしていた。
養生の為に入院をしていたと思っていたけど、不治の病に侵されていて、余命幾ばくかも無かった...
実はこれは夢なのでは?起きたら何時もの病室なのでは?
そんな事を考え始めていると、更に衝撃が押し寄せる。
「しかしながら、当時のコールドスリープ技術には問題点がありました。
長距過ぎるコールドスリープは身体に損傷を与え、死ぬ確率が高いのです。
これは長ければ長い程確率が上がっていき、持っても50年、そこから先は死亡率100%でした。
延命しても50年、それまでに治療方が見つからなければ死んでしまう。
ご両親は待ち続けました、10年、20年、40年...しかしながら、50年が経とうとしても治療は確立されず...残された時間も後僅か、二人は最後の賭けに出ます」
「...脳以外の破棄、及び脳のみの保存です...」




