巨獣
「ったく、今月で何回目だ!?」
ローカストに銃弾を叩き込みながら遠堂隊長がぼやく。
研究所に向かってくるバグズの殲滅に出撃したわたしと防衛部は、研究所から離れた林の中で奴等の対処に追われていた。
ここ最近はバグズが研究所に向かってくることが多い、これで今月八回目だ。
「なんだって特に何もないここを集中して来やがるんだ?何か気になるもんでもあんのかよ」
ローカストを撃墜すると遠堂隊長のメガドールは背中のバックパックからマシンガンの弾倉を取り出して交換する。
『これは憶測ですが、エクスブレインを驚異と見なしたのかもしれませんね』
「エクスブレインを?どういうことだ所長」
『エクスブレインが戦線に投入されてから、勢力図は塗り替えられ我々人類はバグズを圧している状況になってきています。
であれば驚異となるエクスブレインを優先的に排除しようとするのは当然でしょうね、所在も解析されたのでしょう』
「成る程な」
つまり今のわたしは向こうにとって目の上のたんこぶでさっさと取り除きたい訳ね。
砲撃体制に入り角の先端部が光り始めたビートルをブレインソードで斬り伏せ、その勢いで周りのフライとローカストを数体真っ二つにする。
今回はビートルの数が多く、わたしが次々と叩き斬っている、かれこれ20体近くは撃墜しただろうか残りのバグズも僅か、後少しだ。
―――そう思ったその時。
『おや?空間に歪み...?これは...皆さん気を付けて下さい、前方500M先で空間湾曲を確認しました!!』
珍しく所長が慌てた様子でわたし達に注意を促してくる、空間湾曲?一体何が...
「...なんだ、ありゃ?」
遠堂隊長が呟き、わたしが前方を見ると遠くに黒い球体が現れていた。
それは徐々に膨張し、やがて収縮して消えた、そしてそこには...
「...山?」
遠くてよく分からないが林の木々よりも遥かに大きい、何やら山のような物体がそこにあった。
『今映像を回しますのでお待ち下さい』
所長が言うとわたし達に映像が送られて来た。
「...何これ」
それはまるで映画やアニメで見るような怪獣そのものだった。
背中にトゲトゲの付いた楕円形の甲羅、がっしりとした甲虫のような六本の脚、団子虫に近い頭部、それが地を這っている。
そして何より巨大、高さ200Mは越えているのではないだろうか。
「おいおい冗談にも程があるぞ、怪獣じゃねえかあれ」
遠堂隊長があきれた様子で答える。
まさかこんなのが出てくるとは思わず、わたしも呆然と見ている。
『見た感じ、機械ではありませんね...生物のようですが...ふむ、この様な物が...
皆さん、恐らく新手のバグズです、今まで確認された事の無い未知のものですので気を付けて下さい』
新しいバグズか...何してくるか分からないし慎重に行かないと。
「あすか、でか過ぎて俺達じゃ脚くらいしか攻撃が届かねえ、悪いが他の部分を頼む」
「分かりました!!」
「よし、あのでかぶつを殲滅するそ!!」
「了解!!」
わたしと防衛部の皆が答えると全員で巨大バグズへと進行を開始する、足の早いわたしは先攻してあれの元へと飛翔する。
林の上を飛びバグズへ迫る。
...大きい、近くで見るとその巨大さに改めて驚かされる、が、驚いてる場合じゃない早く倒さないと。
非常にゆっくりと移動しているとはいえ、放っておいてはいずれ研究所に辿り着く、こんなのに踏まれては研究所が潰れてしまう、バグズの目の前に着いたわたしは攻撃を開始した。
「スパイラルナックル!!」
バグズの横腹に拳を叩き込んでやる、がそれは硬い感触と共に弾き返される、何発か入れるがその身体は凹みもしなければ傷一つ付かない、その硬さはビートルを遥かに凌いでいる。
「硬った...何これ、硬すぎでしょ...だったらこれは?」
少し離れてブレインソードを構える、そして柄から鋼鉄の剣が伸びていき。
「チェストオォォォッ!!」
巨大な剣がバグズ目掛けて一閃、最上段から勢いよく振り下ろされる。
が、それは完全には切り裂く事無く半ば途中で止まってしまう。
「これも駄目!?何なのこいつ...ならばっ!!」
ブレインソードをバグズから引き抜くとわたしは距離を離してブレインブラスターの発射体勢を取る、胸部プレートにエネルギーが収束し...
「いっけ~!!」
眩いプラズマビームが一直線に伸びていく。
だが、直撃する瞬間バグズの表面に幾何学模様のような物が現れてブレインブラスターは四方に散らされ霧散してしまう。
「...嘘てしょ...」
まさかブレインブラスターも効かないなんて...
『これは参りましたね...仕方ありません、全員後方へ待避。
あすかさん、皆が範囲外まで離れたらブレインストームを使用して下さい、幸いあれは移動が極端に遅いので引き離せるはずです』
「分かりました!!」
所長の指示でわたし達は研究所方向に待避を開始する、バグズがこちらを追いかけ始めるが速度の差は圧倒的、直ぐにブレインストームの範囲外まで辿り着いた。
『ではあすかさんお願いします』
「いっちょ派手に頼むぜ!!」
所長と隊長に言われ、わたしはブレインストームの準備に入る。
両手の中にプラズマが圧縮されて光の球となっていく、そして...
「ブレインストーム!!」
破壊をもたらす嵐の塊が放たれバグズに迫り着弾する、無慈悲なプラズマの奔流が撒き散らされ周囲は飲み込まれていく。
「やったか!?」
隊長が声をあげると直ぐ様にカメラ映像が入ってきた、どうやら全身丸焦げになっているが、あれを受けても残るのか...
だが、動き出す様子も無くどうやら倒せたようだ、わたしはほっと胸を撫で下ろした。
―――その時である。
『まだです!!バグズに反応あり、生きています!!』
所長の報告に映画へ目をやるとバグズはゆっくりと身体を動かし始めていた、ブレインストームの直撃を受けてもまだ動くの!?
次のブレインストームまで残り数十秒、もう一回撃つか?
そう思った時、バグズ周囲の空間が歪み始める、そして黒い球体が包み込み始めそれが消えるとバグズの姿も忽然と消えていた。
バグズが退散した...?
『バグズの反応消失、全機帰還してください、』




