強固
「愛!!変身ピコ!!」
相棒のピコが何処からともなく、ハート型の赤い宝石が先端に付いた魔法のステッキを取り出し愛に投げ渡す、ひゅるるると音を立てながらくるくると縦に回転してそれは飛んでいき。
「否」
が、愛はそれを受け取るも丸太程の太さがある筋肉隆々バッキバキの腕でそれを真っ二つに粉砕した。
「だから何で毎回ステッキを粉砕するピコ~!!それ地味に高いんだピコ~!!!」
泣きながら訴えるピコを他所目に愛は右腕を天に突き上げ拳をギリギリと握りしめ。
「我が肉体に勝るもの無し」
そう言うと目の前に居るカボチャ頭に黒い全身タイツの怪人を見据え、腰を深く落として前後に脚を開き、構えを取り。
「さあ、死合おうぞ」
愛は怪人目掛けて一気に加速し間合いを詰めた。
「マジカルアイソーセージ~皆もマジカルアイソーセージを食べてアイみたいになろう~プロテイン100g入り!!さあ、今日から皆で死合おう!!」
場面が切り替わりアイキャッチが入るとCMが始まった。
わたしが今テレビで見ていたのは、日曜朝8:30から放映している女子向けアニメ「魔法少女マジカル(本気狩る)アイ」だ。
魔法の世界から来た魔法の住人ピコが、人間界で出会った小学三年生の姫野愛と共に悪の秘密結社と戦う変身物アニメ、なのだが...
主人公の姫野愛が異質すぎる。
小学三年生で女の子にも関わらず身長は2Mを越え、全身筋骨隆々で手足は丸太の如く太さ、顔も劇画タッチで凄い厳つく黒目が無いのにおかっぱの三つ編み、一人称は「我」で相手を呼ぶときは「うぬ」、そして極めつけは普段の台詞。
「笑止」「是」「否」等、単語のみでほぼ会話し、先程の「死合おうぞ」である、しかも声は女の子では無くやたら低音のおじさん。
正直何処をどうしたらこうなるのか解らないが、やたらと人気があるようで女子男子のみならず、大きなお友達にも好評なようでフィギュア等は品薄状態らしい。
ちなみに作中で変身は一度もしたことが無く、毎回ステッキをへし折っている模様。
どうやら神樹さんはこれのファンらしく、お勧めされて見ているのだが...
「...濃過ぎる...」
CMが終わりアイキャッチが入ると後半が始まった。
開始直後から怪人をボッコボコにしていく愛、バイオレンス過ぎてよく日曜の朝に放送許可が降りたなと思いながら眺めていると。
『緊急事態発生、緊急事態発生、当研究所にバグズの接近を確認。
繰り返します...』
館内に警報と緊急アナウンスが流れる、わたしはこっちの身体からエクスブレインに切り替えた。
エクスブレインを固定しているゲージが地上に上がり外に出ると所長から通信が入る。
『バグズが研究所に向かっています、大型の反応もありますので気を付けて下さい』
「了解!!」
わたしと、出撃した防衛部は研究所を離れ、バグズの対処に向かった。
「レーダーに反応有り、数200、此方に接近中」
研究所からある程度離れた林の中、そこで陣形を組み迎撃体制に入る。
「200か...今回はそこまでの規模じゃないが大型が混じってるって話だ、油断するなよ」
「了解!!」
遠堂隊長の指示に全員気を引き締める。
それから程なくしてバグズの群れが前からやって来た。
何時ものフライにこの前のローカスト、そして...それに混じって何体か大型のバグズが混じっていた。
見た目はまるでカブト虫、他のと違ってかなり大きい、エクスブレインよりも巨大のようだ。
『その大型バグズはビートル、動きは遅いですが非常に硬く、また、先端の角のような砲台から高威力のビームを発射します、気を付けて下さい』
「あすか、フライとローカストは俺達が引き受ける、お前はビートルを頼む!!」
「分かりました!!」
所長と隊長の指示を受け、わたしは途中のフライやローカストを落としながらビートルの一体へと飛行しながら接近する、そして横に回り込むと横っ腹に攻撃を叩き込む。
「スパイラルナックル!!」
高速回転しプラズマを放つ拳が黒い胴体に直撃し...それは鈍い音と共に弾かれた。
「くっ、硬い!!」
体勢を整えて再度殴りつけるも凹みはすれど決定打には到らない。
「こんだけ硬いとプラズマシュートやプラズマビットも効かないか...ならば!!」
「ブレインソード!!」
ビートルから離れると腰から剣の柄を取り出し両手で構える、すると柄から流体特殊合金が生成されて巨大な大剣となる、そして。
「食らえぇぇ!!」
ブレインソードを真上に振りかざすと一気に加速し一閃、ビートルに思い切り振り下ろす。
ビートルは真っ二つに横から分かれ、エクスブレインは反対側に抜けて行く、直後、ビートルは爆発して業火と残骸を撒き散らした。
「よし次!!」
撃墜したそれの後方から此方に向かってくるビートルに正面から突っ込む、と、そのビートルの角の先端に光が集まり出す。
「やば!?」
わたしは慌てて右に回避行動を取る、直後、わたしが居た場所に太い光の束が押し寄せて通過して行く。
「ふう、間に合ったか...」
間一髪避けてビートルの右側側面に回り込みブレインソードで叩き斬る、正面に回るのは避けよう、そう肝に命じてわたしは残るビートルを切り捨てて行った。
それから程なくして、全てのバグズの処理が終わり皆研究所に戻って来た。
「やれやれ、やっと終わったぜ。
にしても何だってビートルまでこんな辺鄙なとこまで来たんだか、あんなの大都市くらいしか来なかっただろうに」
格納庫で遠堂隊長がメガドールから降りて来てヘルメットを外しながら言う。
「そうですね、ここ最近は研究所に襲撃して来る回数も増えてますしね、何が起きているのやら」
戻ったメガドールやエクスブレインをチェックする為に格納庫に来た所長が指示を職員の人に伝えながら隊長に答える。
「何かの前触れで無ければいいんですけどね」




