表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/19

16. 腐女子、イケオジにときめく

 紆余曲折の末、医務室にリアムを託した俺とラチカは、改めて水場に寄り、ようやく食堂に到着した。エクトルとトピアスの二人と合流し、ラチカの案内でパユが逗留している宿屋に向かう。予定外のことが起こりすぎたため、あまり時間はなかったが、出発前に岩芋の素揚げを一皿平らげ、木の実の甘煮を多めに入れたミルクティーも喉に流し込むことができた。

 腹もくちくなり、友人たちと共に賑やかな都の街並みを歩いていると、これまでの怒涛の展開が何だか遠い出来事のようだ。平和な日常のありがたさ、尊さに涙が出そうになる。

 大通りを行きかう人々は皆楽しそうに笑ったり、買い物をしたり、路上で演奏されている音楽に耳を傾けたりしている。はしゃいで駆け回る子供たち、通りすがりの客たちに調子よく声をかける露天商、肉を焼く香ばしい匂いと立ち上る煙。

 何より、足元には揺るぎない地面が存在し、抜けるような青い天には太陽ともいうべき竜の息吹が輝いている。そして、遥か癒し手の島が浮かぶ方角には、乳白色の球体がどこも欠けることなく光っていた。土埃は多少舞い上がっているものの、視界は十二分に晴れているし、これくらいは乾燥した繋ぎ手の島では通常の範囲内だ。

 まだ、この世界は何も失われていない。だが、全く憂いのない人々の表情からは、世界崩壊の記憶がないことも見て取れる。それはエクトルとトピアスも同じようだった。いつものように軽口を叩き、何か怖い夢を見なかったかという質問にも、躊躇なく笑って肩を竦めてみせた。

 宿屋に到着し、パユにも同じことを聞いてみたが、至って普通の様子で、今の時間を生きていることに何の疑問も持ち合わせていなかった。全ての人に確認することはできないが、まず十中八九、最初から世界崩壊の記憶を自覚しているのは俺とラチカ、そして水のカノンだけだ。あとは時を操る英雄、オルカミル本人である可能性が高いオルカ。

 世界崩壊があった光の降臨祭の日、恐らくまだ光の民だったカノンと一緒にいたのも、オルカのはずだ。世界の崩壊、時間の巻き戻り、水のカノンへの変容、これらの異常事態には関連性があるに違いない。この点と点を線で結び、全てを把握しているだけでなく、俺たちとちゃんと話をしてくれる可能性がある唯一の存在。何が何でも、俺とラチカはオルカを見つける必要がある。

 だが、すでに全く同じ過去ではない以上、夕方になれば館の中庭で会えるという確証はない。特に世界の崩壊と過去の変容に関わっていたとしたら、尚更だ。そもそも水のカノンの仲間かもしれない。一体、どうしたものか……。

 思案に耽りながら、俺は深いため息とともに一度立ち止まり、重い重いパユの荷物を背負い直した。もっとも、俺よりもラチカの背負っている荷物のほうがずっと多いし、重い。自分の荷物の他に、二人用の天幕と杭、鍋やランタンなどもあるから大変だ。セレストはもっと荷物が少なかった気がするのだが。

 俺が荷物の量について尋ねると、ラチカは苦笑して言った。

「そりゃあ、行く場所と環境のせいだろ。確かにセレストは世界を一周したかもしれないが、ほとんどは船や荷車に乗っての旅だし、港や町には宿もある。それに夢見人の島は寒くても気候は大体一定だ。けど、この繋ぎ手の島の砂漠は一日の寒暖差が激しいし、あまりにも風が強い時はその場に立ち往生して、予定通り宿場町に辿り着けないことも多い。いつ砂嵐に襲われるかわからないから、装備もかさばる。移動するときは砂竜牛に乗ってるから荷物の量は気にならないが、都の規定でそのままは入れない。本当は宮殿のほうに向かう竜馬の荷車の片隅に乗せてもらうことになってたんだが、爺さんが腰を痛めちまったから、もうどうにも動かせなくて。結局、今もエクトルとトピアスがああやって担架で運んでるわけだし。荷物運びの俺たちも当然歩きだ」

「な……なるほど」

 要するに、この荷物の量は基本的に長距離の徒歩移動が想定されたものではないと。

「っていうか、え? つまり、最初の時、ラチカはこの荷物を一人で館まで運んできたのか?」

 今更ながら、俺がぎょっとして尋ねると、ラチカは大きく目を見開いたあと、笑った。

「言っとくけど、一度に全部運んだわけじゃないぞ。最初の時は朝、人を呼ぶために館に戻るとき、この自分の荷物を持って行った。そんで今みたいに宿屋に案内したあと、担架を運ぶエクトルとトピアスと一緒に、俺がその爺さんの荷物を背負って帰ってきただけだ」

「あ……そっか」

 確かに、よく考えたら言われるまでもない。荷物の重さと、炎天下の行軍により、どうやら思考が少し鈍っているようだ。っていうか……人を乗せた担架を運んでいるというのに、エクトルとトピアスの移動速度が尋常じゃないんだが!

 何とか二人から引き離されないよう、俺は息を切らしながら足を速めた。だらだら流れる額の汗を拭い、火照った顔で俺が頷くと、隣のラチカは悠々と歩きながらも、ちょっと恥ずかしそうに付け加えた。

「ただ、今日は、起きたときからずっと慌ててて……とにかく急いで館の様子を確かめたかったから、荷物も持たずに戻ってきちまった。一応、お前を連れ出す口実にはなったけど……その、すごく重いよな。結局、お前に面倒事を押し付けちまったみたいで……ごめん」

「ラチカ! さっきから思ってたんだが、何でもかんでも自分のせいにして謝るのはやめろ。それに、こんな荷物を運ぶことくらい、何でもない。むしろ、少しでもラチカの役に立てたなら、そのほうが俺は嬉し……っ」

 んが、その瞬間、俺は轍に足を取られ、盛大にすっころんだ。

「……あう」

 せっかくフォローの言葉を口にしている途中だったというのに、台無しだよ! まったく……今日は。いや、時間が戻ってから、完全にいいとこなしじゃないか、俺。さすがに、ちょっと、へこみそう……。

 じゃない! 今こそ、そんな弱気を振り払って立ち上がるべき時だ! 物理的にも!

 背中の荷物に押し潰されそうになりながらも、焼けるように熱い地面の上で俺がジタバタもがいていると、すぐ隣からラチカの声が前方に向かって飛んだ。

「エクトル! トピアス! 悪い、先に行っててくれ! 俺たちはちょっと休んでから行く!」

「おうよ! こっちは任せろ! お前らも気をつけて帰ってこい!」

「わかった!」

 足元から舞い上がる土煙とともに、パユの担架を運ぶ二人の姿が遠ざかっていく。それを見て、俺はさらに悟ってしまった。俺が脱落した途端、二人の歩む速度が上がった。やはり俺は完全にみんなの足を引っ張っていたのだ。

「……うう」

 一体ここからどうやって立ち直ったら……というか、そもそも物理的に一人で立ち上がれないっ。土埃が目と鼻と口にダイレクトアタック! さらに灼熱の大地による火傷が発動! カードを一枚伏せてターンエンド……じゃない!!! このままではマズい。肺を圧迫されて、息が……。精神より先に、肉体を何とかしないとっ。

「んん〜っ!」

 腕立て伏せの要領で無理やり上半身を起こしたものの、それ以上はどうにもならない。そのまま再びぺちゃんと地面に潰れる覚悟をしたとき、不意に荷物ごと横にころんと転がされたのがわかった。背中のほうに目をやると、ラチカが何とも言えない仏頂面で俺を見ていた。

「……あの……えっと……」

「そのまま一度荷物を下ろせ。そしたら立ち上がれるだろ?」

「あ……はい」

 ごそごそともがくように荷物から腕を外し、ようやく身軽になったところで俺は一息ついた。が、とっくに俺のライフはゼロである。もう泣きたい……けど、そういうわけにもいくまい。すでに嫌というほど泣いているのだ。これ以上、うざい奴になるわけには……。

「……まったく」

 と、深いため息とともにラチカが言った。

「無理やり立ち上がろうとすんな。できるわけねえだろ」

「……………………、っ」

 我慢しようと思ったのに、意に反して、ぽろぽろと俺の目から涙が落ちた。

 それを見たラチカが慌てたように、両手をバタバタと意味不明に動かした。

「ちっ、違うっ! そうじゃ、なくて! 怪我を! するだろ! 大体、あんな荷物を背負ったまま、普通に起き上がるなんて、俺にもできない! だから……っ」

 ──あ、そっか。俺の、早とちり……。ラチカがそんな意地悪なこと、言うわけ、なかった、のに……。

 ほっとした途端、俺は目の前が揺らぐのを感じ、咄嗟に地面に手をついた。にしても、今日はいつにもまして暑い、な……。

 荒い呼吸を繰り返していると、不意にラチカの手が俺の火照った頬に触れた。ラチカの手、冷たくて気持ちいい。いや、俺が熱すぎるのか……? ぼんやりとそんなことを考えている俺の前で、顔色を変えたラチカが喚く。

「くそっ。さっきからやけに顔が赤いし、様子がおかしいと思ったら、熱中症じゃねえか!」

 ……え? ああ、なるほど。どうりで、やけに熱い……。熱中症……つまり、えっと……そうだ、水……どこかに、水筒が……。

 思考力が著しく低下した頭で俺がぽやぽやしている間にも、ラチカが素早く行動を起こしていた。が、目の前で意味のある何かをしているはずなのだが、正直、理解が全く追いつかない。気がついたら、俺は木陰で横になり、そよそよと涼しい風に吹かれていた。

 俺がうっすら目を開けると、それに気づいたラチカが安堵したように少し微笑んだ。またしても俺の額に濡れた布がある。どうやら頭の下には、枕代わりに荷物を置いてくれたようだ。

「シルヴァ。気分はどうだ?」

「……ん。大分いい。ラチカのおかげだ」

「水を飲め。少し起き上がれるか?」

「おう。できる」

 すっかり生ぬるくなっていた額の布をラチカが取ってくれたので、俺はよれよれと上半身だけ起こした。ラチカに手伝ってもらいながら、慎重に水を飲む。乾いた体に、水分が染みわたっていくのがよくわかった。本当はまだまだいくらでも飲めそうだったが、いきなり大量の水を摂取すると体が驚いてしまう。取り敢えず適度なところで切り上げ、俺は再び横になった。

「少し、落ち着いたか?」

「ああ、かなり楽になった。ありがとう。けど……」

「けど?」

 心配そうに身を乗り出してきたラチカから隠れるように、俺は手で顔を覆いながら、呟いた。

「……ちょっと、自己嫌悪。さっきから俺、全然みんなの役に立ってない。それどころか、足を引っ張ってる。今だって、もっと、ちゃんと、しっかりしないといけないのに……かえって、迷惑をかけた。ごめん」

 あああ、ダメだ。こんな弱音なんか口にしたら、余計、涙腺が緩む。泣きたくなんか、ないのに。面倒臭くて、うざい奴だと思われたくないのに。

 大きなため息を聞く覚悟で唇を噛みしめた俺は、頭を優しく撫でられる感覚に、心底びっくりした。思わず覆っていた手を外し、ラチカに泣き顔を晒してしまうほどに。

 ラチカはどこか不貞腐れたような面持ちのくせに、ひどく穏やかな眼差しで俺に言った。

「お前は少し気負い過ぎなんだよ。何もかも全部、自分一人でやろうとするな。ちゃんと、俺を頼れ。それとも俺はそんなに頼りないか?」

「そんなことない!」

 思わず体を起こすと、俺はぐっと身を乗り出した。

「ラチカはすごく……すごく、頼りになると思ってる! けど……」

「けどもへったくれもねえ! 何度だって言うぞ。ちゃんと、俺を頼れ。リアムの奴も言ってただろ。ちっぽけなてめえ一人で何もかもできると思うなって。そうじゃねえと……こうやって、俺が心配することになるだろうが」

「うぐ……っ」

 それには、全く返す言葉もない。喉を詰まらせたような面持ちの俺に、ラチカは苦笑した。

「大体なぁ、自己嫌悪なら俺だって感じてる。今日のお前は万全じゃない。体調もだが、精神的にもだ。わかってるつもりだったのに、俺も気遣いが足りなかった。もっと水を飲むようにお前に声をかけるとか、最初から帰りは別行動するようにエクトルとトピアスに提案するとか、できることはいろいろあったはずだ。そもそも普通に考えて、その荷物はお前には大きすぎるし、重すぎる。何より、お前は乾燥に弱い水の民で、今までずっと、湿度が高くて気温の低い夢見人の島で暮らしていた。ほんの数ヶ月かそこらで、全く逆の環境である繋ぎ手の島に体が順応するわけがない。だから……俺も悪かった。お前のせいだけじゃない」

 そんなことない、と再び言いかけた俺の口を制するように、ラチカが先んじて言葉を続けた。

「お前はよく頑張ってるよ。本当に、すごく頑張ってる。だからもう、自分を責めるな。俺がいつもお前に助けられているように、俺にもお前を助けさせてくれ。そうしないと割に合わない。だろ?」

「ラチカ……」

 ……割に合わないのはどっちだ。いつもいつも、俺のほうが助けられてばかりいるのに。それとも、ラチカの言葉通り、俺も少しはラチカを助けることができていると思ってもいいのだろうか。人間の言葉は、額面通りに受け取っていいものばかりじゃない。特に、自分にとって耳障りのいい言葉は、無条件に信じてしまいたくなってしまう。それでも。

 俺はふにゃりと、ラチカの前で破顔してしまった。生温かい汁が滴っているが、これは涙じゃない。そう、これはいわゆる一つの……えーっと、心の汗である。だからセーフだ。

「……ありがとう、ラチカ。これからは、もっと、ラチカに頼る。けど、俺が甘えすぎてたら、ちゃんと言ってくれ。すぐに直す努力をする」

 何とも言えない面持ちでうっと呻いたあと、ラチカは大きくため息をつきながら額に手をやった。

「だから! そんな努力要らねえんだよ! つーか、これからは何でも俺にちゃんと言え! 怪我だけじゃない。暑いとか、寒いとか、腹減ったとか、具合が悪いだとか、そういうことを勝手に一人で我慢するな! わかったか!」

「わ……わかった」

 勢いに押されるように俺が頷くと、ラチカはふと視線を落とし、僅かに頬を上気させ、呟くように付け加えた。

「……けど。荷物が重いとか、歩くのが早いとか、お前も言い出しにくかったとは思う。だから、今回はあいこってことにしといてやる。お前も、それでいいか?」

 ちらりと向けられた視線に促されるように、俺もまた頬に熱を帯びるのを感じた。

「あ……うん」

 …………くっ。何だ、この、ほわほわしたやり取りは! 危うく友人相手にラブの波動を感じ取ってしまうところだったではないか!

 とはいうものの。実はさっきから妙な視線が俺たちに向けられていて、それどころじゃないというか、何というか。正直、気配どころかすでに物陰から体半分見えてるし。あれ、完全に不審者だよね。フードを深く被っているからどんな奴かは不明だが、素人でもわかるレベルの怪しさだよ。どうして誰も都の警備に通報しないんだ? 普通にヤバい奴でしょ。

 いい加減、我慢できなくて、俺はちらりと視線を投げた。と、そいつはあからさまに物陰に身を潜めた。

 ……えええええ。何だろう。あいつは一体どうしたいんだ? 本気で俺たちから隠れ切れていると信じているのか、それとも新手のかまってちゃんな変態なのか?

「ラ……ラチカ」

 とうとう俺はラチカに助けを求めることにした。そう! 今こそラチカの言う通り、何もかも自分一人でやろうとせずに、頼れる友人に力を貸してもらおう! ちっぽけなてめえ一人じゃ、とてもじゃないが対処できる気がしない!!!

 ぎこちない俺の視線誘導に、ラチカは深々とため息をついた。当然、俺よりずっと前からその存在に気づいていたのだろう。

「……ああ、うん。それな。まだ、完全に大丈夫とは言えないが、あいつは多分、俺たちが探してる奴だ。ちょっと、気配が以前と違うのが気になるが……あの様子からして、いきなり俺たちに攻撃してくることはないだろう」

 いやいやいや、ストーカーを舐めたらあかんでぇ。舐めていいのは舐められる覚悟のある飴だけだって、人生の辛酸を舐めてるどっかの誰かさんが仰ってた(多分ちょっといろいろ違う)。

 何より、すでに体半分見えてるからって突撃してこない保証はないし、そもそも襲われたら普通に怖くて体が竦むだろ。……っていうか……。

「え。俺たちが探してる奴って……アレが? もともと不審者っぽいところはあったけど、何であんなことしてんの? 記憶がないなら今頃とっくに俺に抱き着いてるだろうし、記憶があるならあるで、もっと自然に話しかけるとか、できることはいろいろあるだろ……」

「まあ、最初から意思の疎通にちょっと難がある感じではあったが……多分、今はそれだけが理由じゃない」

「どうしてそう思うんだ? さっき気配が前と違うって言ってたけど、こんなに離れていてよくわかるな。何がどんなふうに違うんだ?」

「それは……」

 俺の問いにラチカが口を開きかけたとき、不意にそいつが動いた。深く被っていたフードをバッと外し、今までのこそこそした不審者ぶりが嘘のように、堂々とした足取りで物陰から炎天下に歩み出す。風になびく漆黒の長い髪、澄んだ青い瞳、そして伝説通りの超絶美形……ではあるのだが。

「──え。あれ、何か……」

 気配どころではない、俺の記憶とは明らかに違う彼の様相に、愕然とする。

 彼は無表情のまま、まっすぐ俺の前までやって来ると、目線を合わせるようにすっと片膝をつき、まじまじと俺の顔を見つめた。

「この時を授かり、嬉しく思う。不躾ながら、先程から様子を見させてもらった。何か困っていることがあるなら、手を貸そう。私にできる限りのことはする」

「ふあっ?????」

 その声が俺の鼓膜を震わせた瞬間、俺の脳は解析途中の視覚情報と相まって、ついに自分がバグったのかと思った。

 いやいやいや!!!!! ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!!!!! いろいろ……いろいろおかしすぎるだろ!!!!! せめて一つずつにしてくれないと!!!!! 俺の脳が、思考が、全く追いつかない!!!!!

 今、俺の目の前にいる彼は、記憶にあるオルカより、二十歳ほど年上のように見えた。俺の知っているオルカは、本人の言う通りせいぜい二十代後半くらいの容姿だった。が、彼はどう見てもアラフィフ、五十歳前後だ。しかし超絶美形な目鼻立ちはオルカそのもの、闇と水の混じり者というレア属性。

 どういうことか俺が測りかねているうちに、彼から発せられたその声!!!!!

 桃井さん……桃井さんではないか!!!!! おかしいだろ! 以前のオルカはまごうことなくスダケンさんの声だった!!! 確かに、俺の最後の推し、の中の人と同じだったはず!!! 重低音が素敵に胸を震わせるあの渋い声が! 今や、軽やかで紳士的な響きが素敵に心を溶かす甘い声に! 何とファビュラスでマーベラスでアメージングな!!! ファンタ〜スティック!!!

 ──はぁ、はぁ、はぁ……。ヤバい。語彙が……。

 でも、何でよりにもよって桃井さん? これはちょっとご内密に願いたいのだが、実は初めてオルカを目にしたとき、桃井さんぽいキャラデザ……じゃない、外見だなぁ、と勝手に思っていたのだ。そして本当に勝手なのだが、今現在、目の前のアラフィフな彼を見ながら俺の心をよぎったのは、できればこっちがスダケンさんだったら良かったなぁ……という感想である。まことにくだらないことですまないが、ちょっとがっかりというか何というか……うん。ごめん。マジで心より陳謝する。

 と、そんなことより……どぉいうこと? これ、どぉいうこと? 普通、同一キャラでも回想なんかの幼少期は中の人が違ったりするけど、青年と壮年で中の人変えたりする? いや、作品によっては声でネタバレしないように中の人違うこととか稀にあるけど!!! 敢えて青年に渋い声を当てて、壮年に甘い声とか……う、まあ、そういうのも好きだけど! 好きだけど!!!

 っていうか……さすがに観念するけど、これはもう、普通に考えて別人だよね。最初にラチカがオルカの可能性を示唆していたせいか、本人じゃないかと拘ってしまったが、ここまで声も違うし……見た目年齢も違うし……ちょっと喋ったのを聞いただけだけど、キャラも何か違うし……。でも、こんなに似ているってことは、年齢差的に……オルカのパッパ?

 あ、いや、でも、そもそもオルカがオルカミルなら不老不死なわけで……こうして生きているってことはパッパも不老不死……いやいやいや、むしろオルカミルの子孫というほうが自然……???

 自ら混乱を加速させた結果、ゆ〜らゆらし始めた俺に気づくと、アラフィフな彼は心配そうに手を伸ばしてきた。

「大丈夫か? もう一度横になったほうが……」

「触るな!」

 パシッと手を振り払う音とともに、ラチカの鋭い声が飛んだ。

「こいつに、触るな」

 初めて目にするラチカの表情、そして声音。多分……いや、間違いなく本気で怒って……るのとは、やっぱちょっと違うな。この緊張感。どちらかというと、警戒に近い気がする。ラチカは、目の前の男を完全に危険人物とみなしているようだ。理由は何だ? 言動……は特に問題ないと思う。むしろ初対面のオルカよりまともですらある。けど。

 俺は素早く身を引くと、ラチカのすぐ後ろに移動した。正直、ラチカがここまで彼を危険視している理由は全くわからない。ラチカなら警戒心を隠して様子を見ることもできたはずだ。しかし、そうしなかった。ならば、俺は可能な限りラチカの足手まといにならないように努めるだけだ。

 ラチカは険しい表情で彼を注視したまま、硬い声で問った。

「──お前、オルカの奴をどうした。さっきまでそこにいたはずだ。あいつを出せ。今すぐにだ。さもなきゃ話には応じない」

 アラフィフな彼は、意味不明ともとれるラチカの言葉にも動じることなく、無表情に瞬きを一つした。

「……なるほど。やはり君は悟り人か。私たちの見立て通りだ」

 僅かに思案するような眼差しになったかと思うと、彼はすぐに頷いた。

「まあ、いい。私はどちらでも構わない。私がここにいることに変わりはない」

 瞬きをし、彼は大きく表情を崩すと、申し訳なさそうに言った。

「何て言うか……その、悪かった。混乱させて。こちらとしても、どうするのが一番いいかわからなくて……」

「っ────!!!!!」

 スダケンさん????? さっきまで桃井さんの甘々ジェントルボイスを奏でていた声帯から、暴力的なまでに心を掻き乱すスダケンさんの激渋ダンディボイスが紡ぎ出されるとか、それ、一体どういう構造してんの? ってー、そうじゃない!!!

「……オルカ……? オルカ、なのか……?」

 どういうことなのか、まだ理解が追いつかないが、この声、この喋り方、この表情は、俺の知ってるオルカに間違いない!!!

 呆然と問った俺に、アラフィフな彼は少し困ったように微笑んだ。

「……ああ、俺はオルカだ。ちょっと……その、変わっちまったけどな。というか、シルヴァ、俺のこと覚えててくれたんだな。よかった」

「覚えてるよ! っていうか、それはこっちのセリフっていうか……」

 何だかもう、わけがわからない。けど、これだけは確かだ。今日の俺の涙腺はガバガバに緩んでる。どういう状況なのか、オルカが俺たちの味方なのかもまだわからないのに、この再会が嬉しくて、視界が勝手に滲んでくる。

 もっとも、幸いなことにラチカは俺より冷静にこの場に臨んでいるようだ。目の前のアラフィフな彼の声が急に変わっても、驚くことなく淡々と返した。

「オルカ、聞きたいことはいろいろある。だが、まずはこの問いに答えろ。光の降臨祭の日、世界が崩壊し始めたとき、あんたは、そしてカノンは何処にいた?」

 アラフィフなオルカはハッと息を呑み、すっと無表情になったかと思うと、桃井さんのジェントルボイスが言った。

「まずは、と言いながら、いきなり核心を突いてくるな、君は」

「中からしゃしゃってくるな。あんたには聞いてない。さっさと引っ込め。この銀の悪夢が」

「おお、実に懐かしい呼び名だ。まだ独り身だった頃のことを思い出す」

 と、桃井さんボイスに続けて、スダケンさんボイスが顔をしかめたオルカの口から吐き出された。

「独り身とか誤解を招く言い方をするな。俺はお前と所帯を持った覚えはない」

「ある意味、所帯を持つより深い仲だろう。何しろ私たちは文字通り一心同体なのだからな」

「どこが一心同体だ。そもそもお前とは全く気が合わない。これは死なないために下した苦渋の決断、一時的な延命策だろうが」

「一時的といいながら、すでに数千年この状態。もはや、私も君も別々の個体として生命活動をすることは叶わないと、先日の一件で嫌というほど思い知ったはずだがね」

 唐突に始まったオルカの一人劇場を、俺はただただポカンとして眺めていた。何だ、この贅沢な生き物は、というのが俺の場違いながらも正直な感想だ。一粒で二度おいしいとは、まさにこのことを言うのだろう。道頓堀で両手を上げたい気分だ。

「内輪揉めは後にしろ。さっさと俺の質問に答えてもらおうか」

 この奇妙なやり取りにも動じることなく、ラチカが割り込むと、ようやくオルカの口が動かなくなった。思案するような面持ちで数十秒間沈黙したのち、おもむろにスダケンさんの声で言った。

「……わかった。君の問いに答えよう。光の降臨祭の日、世界が崩壊し始めたとき、俺とカノンは世界の中心にいた」

「……世界の、中心……?」

 それは愛を叫ぶ……的な? きょとんと首を傾げている俺の横で、ラチカが確信を深めたように畳み掛ける。

「この世界の中心、つまりあの星の雨の中、始まりの柩がある場所。そうだな?」

 はっきりと言語化したラチカの顔を、俺はハッとして見つめた。

 そうだ。この世界には誰もが認める中心がある。四つの大きな浮遊島、それらを巡るように流れる魂の川、その中心で絶え間なく降り続ける星の雨。聖域ともいえるその場所には始まりの柩があり、世界の核が納められている。かつて世界の均衡が崩れたとき、伝説にうたわれし五つの手が、行方不明になった世界の核を取り戻した。そう……あるいは、英雄オルカミルと同一視される時の剣士が。

 俺は改めて目の前の男を見やった。

「やはり、あなたが英雄オルカミルなんですね?」

 確かめるように問った俺に、しかし彼は首を横に振ってみせた。

「いや。それは必ずしも正解とは言えない。俺はただのオルカだ。そして……」

「私がカミル。先程そこの悟り人が言ったように、銀の悪夢と呼ばれていたこともあったがな。それは遥か昔のことだ」

 桃井さんの声で無表情に続けたオルカの……いや、カミルの顔をまっすぐ見つめ、俺はようやく腑に落ちたように叫んだ。

「それでオルカミル!」

 単純だが、これ以上ないほど納得だ! が……。

「あれ? いや、でも、カミルが銀の悪夢ってことは、何がどうして、オルカと今のこういう状態に? そもそも銀の悪夢って、伝説では英雄オルカミルが倒した巨大な鳥だったはず……」

「それはまあ、後々、機会があったら話してやろう。それより今は……」

「シルヴァ!」

 不意にオルカが俺の手を握り締め、真剣な眼差しで告げた。

「俺は君を守りたい。この世界の全てを引き換えにしても、俺の命を投げ打ってもいい。何が何でも、俺は君の命を、笑顔を、幸せな未来を守りたいんだ! 例え何が起ころうとも、この気持ちは変わらない。だから──どうか俺に、俺たちに、君を守らせてくれ!」

「────────っ!!!!!」

 …………トゥンク…………。

 と、己の胸が高鳴るのを、俺は実に久方ぶりに感じてしまった。

 ふ、ふおぉおぉおぉ…………っ!!!!! 何じゃ? この唐突なイケオジムーヴは!!! 本家より綺麗めな、カリビアンでパイレーツできそうなご面相で、スダケンさんボイスが真剣に乙女ゲーの攻略対象みたいなセリフを吐いてくれるとか! これはもう惚れるしかないだろ!!!

 ………………というか、乙女ゲーで思い出したが、実はかねてより、よもやよもやの可能性は頭の片隅にはあった。この世界がかつての世界における、ゲームやアニメなどと同じ可能性。異世界転生ものにはよくある展開だ。俺の周囲にばかり、俺がこよなく愛する貴重な声のイケメンが何人もいるのは、普通に考えて不自然極まりない。

 けど、それにしては違和感も残る。卵が先か鶏が先かはわからないが、もしかつての世界での二次元だったとしたら、今のこの世界で使える民の能力が、あまりにもしょぼい。そして例え凄くても、地味だ。乙女ゲーのモブだって、杖の一振りで龍の形をした炎が吠えながら攻撃したりする。が、この世界の伝説では、英雄ですらそんなことをしたという描写もない。何より、そこそこ広く浅くオタク歴を積み重ねてきた俺だが、この世界に合致するようなゲームやアニメが全く思い当たらない。

 破滅フラグを抱えた悪役令嬢に転生したとわかっているなら、回避しようと奔走のしようもあるだろうが、俺が手にしているのは基本真っ白なシナリオだけだ。今回のタイムリープですら、最初から俺の知る過去ではない。だから、今まではそんな可能性を気に留めることもしなかった。

 しかしここに来て、カミルの存在を知り、桃井さんの声を聴いて、俺はもう一つの可能性について強く意識せざるを得なくなっていた。そう、それは……。

「ちょっ……てめー、いつまでそうしている気だ! さっさとこいつの手を放せ! シルヴァ! お前も赤くなってぼうっとしてんじゃねえ!」

 不意にラチカの声が鼓膜に突き刺さり、俺は我に返った。オルカに握られていた手を無理やり引き剥がされたかと思うと、今度はそのままラチカが俺の手を握り締め、真っ赤な顔で詰め寄った。

「シルヴァ!」

「は……はい!」

 何やらいつもとは違う雰囲気に、俺も思わず畏まったように背筋を伸ばした。

「──シルヴァ、その……」

 はく……、と息を吸うのもままならぬように小さく喘ぎ、尋常ならざる緊張感を漂わせ、ラチカは苦しげにうつむいた。正直、握り締める力が強くて少し痛いし、手汗もひどい。しかしだからこそ、これからどんな衝撃的な発言が待っているのかと思うと、ちょっと怖い。

 俺はごくりと喉を鳴らし……それからふっと微笑んだ。大丈夫……大丈夫だ。例え何を言われても、俺はラチカを信じている。俺の気配が緩んだのを察したのか、ラチカは顔を上げ、少し驚いたような面持ちになったあと、まるで安堵したかのように体から力を抜いた。

 小さく笑い、強く握り締めていた俺の手をそっと放すと、いたわるように撫でた。

「悪い……痛かっただろ」

「気にするな。それだけラチカが真剣に話したいことがあるってことだろ」

「……ああ、そうだな。でも、ありがとう」

「おう」

 穏やかな表情で瞼を閉じ、静かに息をつくと、ラチカは改めて俺をまっすぐ見つめた。

「……シルヴァ」

「うん」

「お前は俺が守る。これまで以上に、これからも、ずっと。だから、俺のそばにいてくれ」

 俺は大きく目を見開き……これ以上ないほど微笑んだ。

「ああ! 俺もラチカを守れるように強くなる。これからもよろしくな!」

 よかった! 友人として見切りをつけられたとかじゃなくて! ラチカは我が心の兄といっても過言ではない、大切な存在だからな! 口に出したら怒られるから、絶対に言わないけど!

 満面に爽やかな笑顔を広げた俺を見ると、しかしラチカは何故か途端に不機嫌な面持ちになった。そしてこれまた何故か、オルカが少し不憫そうにラチカの肩を軽く叩いた。

「……まあ、こういうこともある。次、頑張れ」

「余計なお世話だ!」

 オルカの手を乱暴に振り払い、ラチカは打って変わって俺に喚いた。

「つーか! こんなオッサンのどこがいいんだ? どう見てもただのオッサンだろ!」

 ビシッと向けられたラチカの指の先に目をやった俺は、自分の頬がぽっと赤らむのを感じながら、もじもじと返した。

「あ……いや、逆にそこがいいというか、むしろそこがいいというか……すごく、理想的な枯れ具合というか……いや、違うぞ! 俺は決して枯れ専ではない! 枯れ専ではないのだが……はっきり言って、前より遥かに格好良くなったというか、素敵になったというか……いや、俺は決して見た目だけで人を判断するつもりはないのだが……」

 もにょもにょと言葉を捻くり回していると、ラチカがイラついたように喝を入れた。

「一言で言え、一言で!」

「とにかくすごい好みです! 以上!」

 反射的に返した俺を、ラチカは殺人光線の出そうな目で睨み、オルカが感極まったように抱き着いた。

「シルヴァ! よかった! ありがとう! こんな、急に見た目が変わったから……ずっと、不安だったんだ。君に、嫌われるんじゃないかと」

 俺よりずっとデカい図体のくせに、小動物のように縋り付いているオルカの背を撫でながら、優しく諭す。

「そんなわけあるか。どんなに見た目が変わっても、オルカはオルカだ。それは変わらない。また、こうして逢うことができてよかった。本当に嬉しいよ」

「けど、その……カミルのこととか……急に入れ替わったりして、気持ち悪くないのか? 俺のことが。……それに俺はまだ、君に話してないことがたくさんあるんだ」

 不安げなオルカの瞳を覗き込み、俺は微笑んだ。

「だったら、たくさん教えてくれ。俺に、オルカのことを。そしてカミルのこともな」

「シルヴァ……」

 オルカの抱擁をゆるりと解き、改めて向かい合うと俺は力説した。

「正直! カミルのことは全く心配するな! むしろオルカに付加価値がついたというか! いわゆる二重人格とは違うみたいだが、すごく面白……実に興味深い! 多少驚きはしたけど、未知との遭遇にわくわく! って感じだから気にするな!」

「……ああ、うん。そう、だな」

 全力でオルカの不安を払拭しようとしたはずなのに、何故か肩を落とすオルカ。そしてその背を軽く叩くラチカ。無言で紡がれる二人の絆に俺が首を傾げていると、オルカが何とか持ち直したように口を開いた。

「と、とにかく、だな……。今はあまり時間がない。できればもっと安全な場所で話をしたい。どこか心当たりはないか?」

 人通りの多い往来にちらりと視線を投げたオルカの言葉に、俺はラチカを見やった。確かにここは長話をするのに適してはいない。だが、館には水のカノンがいるから、大事な話をするのは危険だ。それに先程は俺を守りたいと言ってくれたが、オルカが何をどこまで知っているかわからない。最終的に目指す未来が明確ではない以上、あまり人気のない場所に行くのも怖い。あと、俺とラチカには大きな荷物がある。これ以上、館から遠ざかりたくない。

 などなど、諸々の面倒な条件ばかり思い浮かび、移動先の候補が全く思い当たらない。そもそも俺は光の都の地理には疎いのだ。

 ラチカはほんの少し思案するように押し黙ったあと、決意したように顔を上げた。

「……わかった。少なくとも俺にとっては安全だと思える場所に案内する。館にも近い。ただし、絶対に面倒事を起こすな」

「ああ、感謝する」

 ほっとしたように頷いたオルカに、ラチカは付け加えた。

「それと悪いがオルカ、シルヴァが背負ってきた荷物はあんたに頼みたい。また、こいつに倒れられると困る」

「もちろん! 俺もそのつもりだった」

 俺が口を挟む間もなくオルカが頷き、ラチカと妙に意気投合した笑みを交わし合った。

「え……いや、あの……」

「よし、それじゃさっさと行くぞ。シルヴァ、一人で歩けそうか? さっき転んだとき、足を痛めたりしてないだろうな。怪我をしたらちゃんと言うって約束したはずだ。あ、もう少し水を飲むか? そうだ、濡らした布で顔を拭いてやるからこっちに来い。少し涼しくなるぞ」

「だ……大丈夫だから!!! 足も平気だって……いちいち触って確かめるな!!! 急に過保護になりすぎだろ!!! ちょっ……恥ずかしいってば!!!」

 先程まで俺の額を冷やすのに使われていた、すでに渇き切った布を再び水筒の中身で濡らし、ラチカがずいずいと迫ってくる。が、反射的に後退った俺を見ると、ラチカはしゅんと肩を落とした。途端に、オルカから何やら非難がましい視線が突き刺さる。

「あ……いや、えっと……すみません。嘘です。是非、お願いします……」

 観念してラチカの前までやって来ると、俺はおとなしく顔を差し出した。嬉々として濡れた布を手にしたラチカを見ると、今更、自分でやるとは言い出せない。俺はラチカに顔を拭ってもらいながら、内心、羞恥に悶えつつ、一抹の疑念を抱いた。

 やっぱ、ここは俺が知らない乙女ゲー……いや、BLゲームの世界なのか? しかし、画面越しならいざ知らず、リアルにスチルイベントばりの甘々展開をこの身に享受するとか、あまりに免疫とか耐性とかなさ過ぎて、純粋に、困る……。ともすると、俺は知らないうちに何か選択し、誰かのルートに入っちゃってたりするのか? ……いやいやいや、まさかね!

 俺はすぐに自分のお幸せな妄想を打ち消した。恐らくだが、俺の気づいたもう一つの可能性のほうがきっと高い。オルカが持つ情報を得られれば、より早く事の真相に近づけるだろう。真実はいつも一つ! ……とは限らないが、少なくとも事実は一つのはず。俺は必ずそれを手に入れる! そして何より、もう二度と熱中症にならないように気をつけようと、深く、心に刻みつけたのだった……。



★転生前の腐女子の様子は、公開中のBL小説『猫の王様』にある「腐女子とリアルでファンタジーな話」でチェック! こちらは腐女子視点によるライトなBLです。完全独立の短編なので、これだけ読んでも楽しめます!


*今後も公開日程が決まり次第お知らせするので、どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ